3日目ー説得と脅迫①ー
何もできなかった一日目、なんとか方針だけは決められたと信じたい二日目。
そして何をするのか初めから決まっていて準備だってできている三日目に入った。
気合だけは十分だったんだけど……残念ながら始業時間には全然間に合わなかった。
早めに部屋を出たつもりだけど、学長への進言が無事に通ったらしく生徒たちの名簿をもらいに教務棟へと向かい、一度自室に戻って準備しておいた武器の山を抱えてようやく教室にいくことができたから……。
「お、おはよう……よかった、まだ誰も帰ってないみたいだね……」
息を切らしながら教室の扉を開いたかと思えばガチャガチャと音を鳴らす大きな段ボールを抱えて中に入ってきたわけだ、当然のように生徒たちは状況を理解できていないご様子。
「あの……先生さん? それは一体……」
教卓の上にガタン! と重たい音が乗ったのを聞いたムダイさんが最初に口を開いた。
「うん、これは昨日言ってたお楽しみってやつだよ。えっと……あれでいいかな」
さすがは元資材庫だけあって、教室の端にはたくさんのゴミ……じゃなくて使われていない机や椅子やらが大量に放棄してある。
その中から一際大きな机を選んで、行ったり来たりを繰り返す先生に「何やってんだ」と言いたげな視線を向ける五人をよそに教卓の前に机を並べていく。
続いて箱の中に入っていた物を、昨日買い溜めた武器を一つ一つ並べていく……。
「よし、準備できたかな。それじゃあみんな、こっちに集まってくれるかな」
「は〜い」
「は、はい……」
返事を返して僕の指示に従ってくれたのが二人、無言だけどちゃんと前に来てくれたのが一人。
「ヴェントさんとルウマさんも、こっちに来てくれないかな?」
「いやよ。なんで私がロリコン教師の言うことなんて聞かなきゃいけないの」
「マーもお断りします。近づいたら魔法使いが感染りますから」
やっぱりそういう反応になるんですね……。というか魔法使いが感染るってなに?
まあそれがなんだったとしても、僕のやることに変わりはない。
五人と、特にルウマさんと仲良くならないといけないと言われたばかりだけど、僕のことを嫌う二人には「徹底的に嫌われる」ことにした。
「そっか……じゃあ、二人の分の出席点はナシになっちゃうね。座学なんかは嫌ならいるだけで出席点をあげてもいいと思ってるんだけど、実技だけは無理にでも全員に受けてもらうつもりだから」
「なっ! そんなの横暴よ! 武器なんて並べて、どうせ武器の使い方を教えるって口実で私たちにベタベタ触ってくるつもりなんでしょ!」
今にも殴りかかってきそうな勢いでヴェントさんが詰め寄ってくる。
相当にお怒りのようだけど、こうなることくらい分かった上で言っているのだから引いてやるものか。
「なんでも好きに言ったらいいよ。だけど、魔法を使おうとしないヴェントさんはこのままじゃどう足掻いたって卒業できないよ」
「! それは……」
たじろぐように後ろに一歩下がったヴェントさんが下を向いて言葉を失う。
今朝もらった名簿によると、ヴェントさんはマホガクに来る前から魔法を使っていたそうだが、こっちで実際に魔法を使っている姿を見たものは一人もおらず、入学して一番に行う属性の確認の時でさえ魔法を使おうとはしなかったという。学院に来る前、実家では風魔法を使っていたらしく、どうして魔法を使おうとしないのかについては頑なに答えてはくれないと。
「ヴェントさんが嫌なら無理に魔法を使えとは言わない。正直魔法を使おうとしない以上はここを卒業なんて絶対にできないと思うけど、僕の授業を受けて武器の使い方をそれなりに学んでくれたら誤魔化しながらでも卒業試験の手前までは連れて行ってあげる」
「そんなこと、信じられるわけないでしょ……」
「できるんだよ。これから卒業までの間、君の担当教師はずっと僕のままだから。卒業試験だけは僕だけじゃどうしようもないけど、進級だけなら僕の一存でどうとでもできる。卒業するのに魔法を使うか、それとも別の抜け道を探すのかは分からないけど…………強い魔法使いになるんでしょ? なら、マホガクの卒業は絶対に必要だと思うけどな」
警戒心を煽るためにわざとらしく笑顔を作って見せる。
そんな僕のことを睨みつけ、必死に唇を噛みながらも、僕の提案が最良の策だと理解してしまったヴェントさんは細々と言葉を紡ぎ出す。
「……分かった、わよ。でも、ちょっとでも変なことしたらぶっ殺してやるんだから!」
「うん、それでいいよ。改めてよろしくね、ヴェントさん」
「ふんっ!」
これ以上は話すことはないと言わんばかりにそっぽを向いてしまった。
脅しをかけたようなもんだから嫌われて当然だしそんな反応をされてしまって当然だろうけど……年下の女の子に「ぶっ殺してやる」なんて言われたの初めてだからちょっとショックだった。