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2日目ー決めるしかないー

……話し終えた師匠は、またコーヒーに口をつけた。


「……いくつか質問していいですか」


「構わないとも。聞いてくれ」


「なんでルウマさんだけ呪いが発動していなかったのでしょうか?」


「彼女には魔法の才があったからだろう。特殊な形とはいえ呪いも魔法の一種だ、魔力を持ち、魔法への抵抗を持つ魔法使いなら個人差はあれど呪いに抵抗することができたのだと考えている」


「そのことをルウマさん本人は知ってるんですか?」


「知らない。彼女は村で起きた出来事について何も知らないよ。原因が呪いだということも、自分だけが呪いに抵抗できていることも、リミットが刻一刻と迫ってきていることも」


「今日の様子を見る限り、ルウマさんは師匠がここにいることを知らなかったように感じました。師匠が連れてきたはずのルウマさんがどうして師匠の居場所を知らなかったのですか?」


「もちろん伝えていなかったからだよ。彼女には魔法をかけ続けて眠り続けてもらっていたからね、その間に学院に連れてきて、魔法の才があるからと入学させ、あとは彼女の動向を影で見守るだけに徹してきたわけだ」


「ではどうして今日、僕たちの前に現れてしまったのですか。師匠が出てきたらああなるって、わかっていましたよね……」


「……そうだな。その理由は二つ。一つは恨まれていると分かっていても、成長した彼女に会いたいと思ってしまったから。もう一つは……ショウ、君になら彼女を任せられる、もしかすると彼女を救うこともできるのではないかと、勝手な期待を抱いてしまったからだよ。私が現れて彼女を煽り、君に教えを乞うように仕向けたつもりだった」


「結果として師匠の思い通りにはいかなかったですけどね。でもまあ、そうですか……師匠の考えていたことは分かりました。師匠とルウマさんに何があったのかも分かりました。でも、どうして僕なんですか? 師匠は知ってますよね、僕が何を企んでるのか……」


「もちろん知っているとも。ショウの復讐も、ショウが私以上に呪いのことを理解していることも、だ」

 

師匠には僕が今までの人生で経験してきた全てを、これから何をしようとしているのかを、その全てを伝えてある。

 

理由は色々ある。僕にとって師匠は命の恩人であり魔法の先生だから信用しているからとか、僕の目的のためにはたくさん知らないといけないことがあって、その調べ物は師匠のそばでしかできなかったからとか、たった一人でいいから味方が欲しかったからとか。

 

でも、一番の理由は師匠の圧倒的な力が怖かったからだ。もし僕の企てが師匠に知れた時に、師匠がそれを阻止するために敵に回ったとしたら、その時点で僕の計画に成功はないと一目見ただけでそう確信した。

 

……まあ、結果的に全部聞いた上で、協力こそしてはくれないけど見守ってくれる保護者のような立ち位置になってくれた師匠への信頼が崇拝するレベルまで上がったんだけど。


「だからこそショウに頼みたいのだよ。今は私の魔法でなんとか呪いの発動を抑えてはいるが、それがいつまでもつかも分からない。なら呪いを知っていてかつ魔法を消す研究をしているショウに任せるのが一番だろうからな」

 

ずっと真剣な表情で話を続けていた師匠がここにきてノーと言いづらい笑顔を見せてきた。


「……それって、僕が断れないって分かってて言ってますよね?」


「まあ、それを否定はできないな。実際、ショウにとってあの子も含めた生徒五人は放っては置けない存在だろう?」


「そうですね、全部無視して自分のやりたいことだけできたらよかったんですけど……」


「そう落ち込むことでもないだろう。ショウのその在り方があったから私はショウのことを見守ると決めたのだから」

 

そう言って飲んだコーヒーが最後の一口だったらしく、師匠は空になったカップを目の前で軽く振って見せる。つまり……おかわりってことだ。


「ショウよ。最後に彼女について、私が現状把握していることを伝えておく。まず呪いについてだが、私があらゆる文献を漁って見つけた抗魔の魔法をかけてあるから呪いの発動まではまだしばらく時間があるはず、他の子のことやショウ自身のこともあるだろうから解呪の方法についてはゆっくり調べてくれ。そして解呪についてもう一つ大事なことを伝えておくと、だ。呪いは魂に直接張り付いているものだ、もし解呪の方法が見つかったとしても、呪われた本人が心を開いてくれていないと呪いに触れることはできないからな」


「はあ……」

 

おかわりの一杯を渡した直後、大事な情報をサラッと話した師匠がカップに口をつけることなく立ち上がったかと思うと、そのまま部屋の奥へと歩き出した。


「ショウがこれから行うべきなのは情報収集、そして何より彼女と、マール・ルウマと仲良くなることだな」


「仲良くなるって……なんなら解呪の方法を探すよりも難しいんじゃ……」


「ふっ、そうかもしれないな」

 

そう言ってニッと笑ったのを最後に背を向けて本を探し始めてしまった師匠。もうこれ以上話すことはないということらしい。


「……分かりましたよ。なんとか頑張ってみますけど、誰かと仲良くするなんて経験ないのであんまり期待しないでくださいよね」

 

返事はない。聞いていないってことは流石にないと思うけど……。

 

仕方がないのでそのまま部屋に戻ってベッドに身を投げるように横になる。


「仲良くなる、か……」

 

ルウマさんに限った話じゃない。五人の女の子たちはそれぞれに理由があってあのクラスに振り分けられることになったはず。


「理由を見つけて解決する? ……いや、僕がそんな本物の勇者みたいなことできるわけがない」

 

目的を達成するためというならコイデさんと仲良くするだけでいいのだけど、残念なことに僕はそうすることができない。


「覚悟を決めるしかないのかな……。逃げられないなら、僕なりの方法でやるだけやってみるしか……」

 


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