2日目ー授業ー
「……ねえ、これで終わりならもう帰っていいかしら?」
ヴェントさんが軽蔑の目で僕を見ている。僕の話にはさっぱり興味を失っていたけど、今さっき目の前で起きた出来事に口を挟むことができなかったってところかな。そして僕が幼女を抱き抱えている状況についに痺れを切らしたんだろうな……。
「ちょ、ちょっと待ってよ。変な空気になっちゃったけど、まだ授業は終わってないよ」
「知らないわよそんなの。どうせ卑怯な不意打ちの仕方でも教えるんでしょ? 私は強い魔法使いにならなきゃいけないの、だからあんたの授業なんて受けない。じゃあね、ロリコン先生さん」
バカにするような愛らしいウインクを残して悠々と歩き去っていくヴェントさんを止める言葉を持たない僕は、それをただ見送る……。
「マ、マーも帰る。だから降ろして……」
「いや、まだ動いちゃ、って暴れないで! 分かった、降ろすから!」
動きの悪い体で精一杯に暴れ回ったルウマさんをゆっくり地面に降ろすと、フラフラと小さな体を揺らしながら帰っていく。
勢い余って倒れていきそうになるのを見かねて支えようと近づくと今にも噛み付いてきそうに歯を立てて睨んでくるので近づくことも叶わない。
「はぁ〜」
五人中二人。初めて会った時から明確に拒否を叩きつけてきた二人に改めて拒絶されたというわけだ。
いちいち授業が中断されてその結果がこの状況。ためいきの一つも出てしまうよ……。
「先生さん。続き、しないのですか?」
「ムダイさん……そうだね。せっかく三人も残ってくれたんだし、授業を始めようか」
残った三人が目の前で僕のことを見上げてくれているのを見て、完全にとはいかないものの気を取り直して答える。
「改めて……僕は武器を使う魔法使い、器術師であり、戦闘では全属性を使うかなりマイナーな……というか異端と言われるかもしれない魔法の使い方をします。そして僕が教えるのはそんな異端の技だよ」
「……いたん」
「フッフッフ……異端の技となれば、天と魔の両方に愛された我、ラファエルにこそ相応しい! さあ我が眷属よ、その許されざる禁忌の法を存分に伝えるがいい!」
異端という言葉を復唱しただけのコイデさんに対して、「チュウニビョウ」のラファエルさん(仮)は眼帯で隠した目を手で覆うようなポーズを決めて超ノリノリ。
……もしかして、この子が一番扱いやすいのか?
「…………あの……本当にその方法で、属性を一つに絞らない戦い方で強くなれるんですか? もう、バカにされないですか?」
さっき僕が全属性を使うと言った時、唯一ムダイさんだけは驚いた表情を……いや、僕の言葉に縋るような真剣で、それでいて悲しい表情をしていた。そして、今も……。
「ごめん、どんなに全属性を使いこなせてもバカにされることには変わりないと思う。普通と違うっていうだけで相手を貶めてバカにするのは人間の本能みたいなものだから」
「そう、ですか……」
それを聞いて肩を落とすムダイさんの肩に手を置く。
やっと教師っぽいことができる、なんて打算はあるけど、僕は僕の思ったままを伝える。
それが大きな隠し事をしている僕が彼女達のためにできる精一杯だから。
「でもね、バカにしてきた相手を見返してやることはできるよ。ヴェントさんの言った通り正々堂々とはとても言えないけど、才能がないなら、ない人なりの戦い方があるからね」
「バカにしてきた人を見返してやる、ですか……」
顔を上げてはくれたけど、即決とはいかず悩んでいる様子。まあ教わるのが卑怯な手段だって分かってるんだから決めかねて当然か。
「人の道を外れた技! やはりラファエルが使うにふさわしい技だぞ!」
「いや、別に人の道を外れるようなこと教えるつもりはないんだけど。人を殺す方法とか悪事を働くための技ってわけでもないし」
「えぇ〜」
まあ殺そうと思えば殺せるし奪おうと思えば奪えるから卑怯な技、なんだけど……ここは黙っておこう。
「……決めました。先生さん、ぼくに戦い方を教えてください。ぼくみたいな落ちこぼれにそんな資格がないって分かっていますけど……それでも、どんな方法でも、ぼくは誰かに認めてもらいたいんです」
何か嫌なことでも思い出したのだろうか、ムダイさんは何かを飲み込むように頷いた後まっすぐに僕と目を合わせた。
一部とはいえ、ムダイさんの本心を聞くことができた。そう、思ってもいいのだろうか……。
ともかく、初めて拒絶じゃなくて僕のことを頼ってくれたんだ、今はそれに応えないと。