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2日目ー師匠ー

「さて、武器の説明についてはこれくらいにして、次は魔法についてだね。これについてはここに来る前の続きだからサクッと説明させてもらうね。魔法史を学んでいる魔法使いいのあまり知られていない特徴は……全ての属性を使って戦うことだよ」

 全ての属性について学んでるんだからそれらを使うことは不思議なことじゃないんだけど、使う属性は一つだっていう一般的な思い込みと魔法史専攻はあまり前線に出ないせいであまり知られてないんだよね……。

「…………」

 先の戦闘ですでに見せてしまっていることもあって、四人はあまり驚いた様子がない。

「ショウよ、ここにいたのか。マホガクで新人教師が先輩から指導を受けていると聞いて様子を見に来たのだが……教養の足りなさを叩きつけられたのはどうやらその先輩の方だったようだな」

 落ち着きのある声になびく長い白髪。見るからに熟練の魔法使いである一人の男性がっ身の丈ほどある長い杖をつきながら第六演習場に入ってきた。

 本日二度目の乱入者……。でも、今回はバカにしに来たわけでもないし喧嘩を売りにきたわけでもない。

「師匠! わざわざ様子を見に来てくれたんですか?」

 彼は僕の魔法の先生で、路頭に迷っていた僕を拾ってマホガクへ入学させてくれた文字通り命の恩人だ。

「先生と呼べといつも言っておろうが……。まあいい、彼女たちが君の生徒かい?」

「はい」

 一人一人、僕のクラスの生徒を師匠に紹介していく。とは言っても彼女たちのことを僕も知らないに等しい状態なので名前だけなんだけど。

 そして生徒たちもまたいつも通り素気ない対応で、特に当たりの強い二人に関しては軽い会釈さえない始末。

「なるほど、ショウに負けず劣らずなクセのある生徒さん達だ。はじめまして、私はエレオ・メントル。魔法史なんてマイナーな学問にハマった変態魔法使いだよ」

 ホムラ様とは違ってとてもフランクに生徒と接してくれる師匠が教師になってくれたら、と学生だった頃よく思ったものだ。というか、今からでも僕じゃなくて師匠がこのクラスの先生になったらどうなのだろうか?

「やめてくださいよ。師匠が変態魔法使いならその師匠に心酔してる僕はもっと変態になる——」

「死んで」

 そう声が聞こえたと思った時には、ナイフを持ったルウマさんが師匠の懐に入り込んでいた。

 驚く隙さえなかった。油断する以前に今この瞬間こんなことになるなんて想像もつかなかった。

「元気なのはいいことだが、乱暴なのは感心しないな」

 とても素人とは思えないほど素早く、それでいて確実に喉元を狙う一振り。それを軽い身のこなしで躱し、杖を突き出してルウマさんを牽制する。

 魔法使いは基本体力なしのヒョロヒョロ系が多いんだけど、師匠は歳の割に、というか魔法使いの中でもダントツで体技に秀でているのだ。

 まあ僕ほどじゃないけどと少しだけ対抗心を燃やしつつ、そんなところも尊敬していると付け足しておく。

「ルウマさん! いきなりなにをしてるんだ!」

「……コイツは、この男は殺さないといけないの。だから邪魔しないで」

「邪魔しないでって、そういうわけには……」

 憎しみの籠った鋭い眼光に険しい表情。

 それ以上はなにも言えないし言わせない。そんな雰囲気をルウマさんから感じた。

「……そうか、やはり私のことを覚えているのだね」

「師匠、ルウマさんと知り合いなんですか?」

 師匠とルウマさんが視線も含めて微動だにしない状況で、師匠の呟きに反応する。

「知り合いか……そうだな、どちらかと言うと——」

「コイツはマーのカタキなの! マーの村と家族を奪ったコイツを殺して、その後コイツと同じ魔法使いは全部殺すの!」

 均衡を崩すようにルウマさんが横に跳ぶ。次に着地した瞬間に軌道を変えて師匠を狙ってナイフを振り抜くが、師匠はまたしても軽く身を翻すだけでそれを避けきる。

「水巻」

 次の一撃へ向けて体勢を変えるために身を捻りながら着地したルウマさんの足元から師匠の一言で生じた水ぼ竜巻が立ち上がった。

 その高さは三メートルをゆうに越すもので、軽々とやって見せてはいるが、水と風の複合魔法、しかも本来はもっと長い詠唱を施さないとコントロールもままならない大技だ。

「‼︎」

 着地の瞬間を狙った足元への強魔法攻撃に反応もできずに、ルウマさんは渦巻に乗って軽々と中へ浮き上がっていく。そして数秒で頂上へと辿り着いたルウマさんは渦から吐き出されるようにして宙へ放り出された。

 ……って、そのまま放っておいたらまずいやつなんじゃ⁉︎

 少女が落ちてくるであろう場所まで慌てて走り込み、なんとかルウマさんをキャッチして師匠へと目を向ける。

「師匠! いくらなんでもやりすぎですって! あの高さから落ちたら最悪死んじゃいますよ!」

「そうだな。だが、一時的にでも彼女が飛びかかってこないようにするためにはこうするしかなかった」

 実際、あれだけの魔法を直で喰らったルウマさんは気絶こそしていなけどまた動こうと思うには少し時間がかかるだろう。

 でも、それにしたって限度ってものが……。

「ショウ、これ以上ここにいても迷惑をかけるだけだから私はもう戻るよ。話が聞きたいならまた私のところを尋ねるといい。それと……マール・ルウマ! 私が、魔法使いが殺したいなら彼から魔法と体術を学ぶといい。魔法を知り、魔法の弱点を知り、それを突くための武術を学ぶんだ。運悪く魔法を学ぶ才を得た君にならそれができる。だからこそ無知のまま自らの命を無駄にするような軽率な行動は控えるのだな」

「……魔法を学ぶ……武術を学ぶ……」

 師匠の残していった言葉を、ルウマさんは外敵から身を守ろうとする獣のような表情で反芻している。

 ついでに大っ嫌いな魔法使いにお姫様抱っこされているのがお気に召さないらしく僕のこともそのままの表情でしっかり睨んでくる。

 でも動けないままのルウマさんをここで離すわけにはいかないし、しばらくは我慢してもらうしかないのですよ。それに、僕だってあの師匠が人に恨まれるようなことをしてきただなんて事実をいまだに信じられないでいるのに……。


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