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2日目ー器術師ー

 

少し離れた位置に対面したホムラ様が腰から鉄製の小さな杖を取り出す。

 

魔法使いにとって杖は魔法を効率化させるための触媒であり、それを手に持ったということは、遠慮なく焼いてやるという意思表示に他ならない。


「そうですね、いつまでも二人で話し合いって場面でもないですし」

 

それに対して僕は素手で構えに入る。僕も杖のようなものを持ってはいるけど、今はまだ使う時じゃないからね。


「チッ! そっちが望むならその生意気な口が開けないよう溶接してやろうじゃないか‼︎」

 

僕の態度が気に入らなかったであろうホムラ様が杖を勢いよく前に突き出して呪文を唱え始める。それと同時に高速で杖の先端に炎の塊ができ上がっていく。

 

あと数秒でさらに膨れ上がった炎の球は花開くように僕を包み込み、僕はこんがりおいしく焼き上がるだろう。複雑すぎず、かつ目の前の敵を一撃で殺すことのできる絶妙な威力の魔法。

 

当たれば即死。生き残っても全身大火傷。放たれれば宣言通り口が溶接されることも容易に想像できる炎の塊を前に、僕は前進を選択した。


「水球・土塊」

 

二つの小さな呪文を唱えてさらに加速する。

 

小さな呪文で出来上がった水の球は的確に放たれる寸前の炎を包み込み、その上から殻を纏うように土の壁が覆い込む。

 

魔法の威力は段違い。次の魔法を仕込むための時間稼ぎにもなりはしない。

 

次の瞬間には壁の中の水はあっという間に蒸発し、すぐに包み込んだ土壁にヒビが入った。

 

……だが、たった一秒二秒の出来事でも僕が勝つには十分だ。


「なにっ⁉︎」

 

土が砂となり崩れ落ちるのと同時に、ホムラ様の首に鋭い刃先が突き立てられていた。

 

見た目は短刀のようだが、円筒形の柄と刀身が柄と並行にな刃を持ち、二つの長さが同じという変わった形の武器とそれを躊躇い一つなく首筋に押し付けてくる少年を睨みつけるが、それだけで状況が変わるわけもなく数秒の沈黙のあとため息を漏らす。


「…………分かった、私の負けだ。まさか魔法史の専攻なだけでなく器術師だったとは思わなかったよ」

 

炎がゆっくりと萎んで消えた後、自分の負けを素直に認めるような言葉とは似ても似つかない憎悪の表情を向けてくるホムラ様。

 

……武器を離した途端襲ってこないよね?

 

警戒したままゆっくりと武器を下ろす。襲っては……こないみたいだ。


「僕の勝ちですね。このままここで授業をしていくので生徒さんを連れて帰っていただけますか。あと……そこの男の子二人に『女の子をイジメちゃダメだよ』ってよく言い聞かせておいてくださいね」

 

笑顔を作りながらホムラ様と、その後ろにいるコウちゃんたちと少しだけ目を合わせ、自分の生徒たちの前まで戻る。


「クソッ! 不意打ちしか能のないザコの分際で! ……次は殺すからな」

 

イヤミと暴言を残して演習場から出ていくホムラ様と、その後ろを戸惑い気味についていく生徒たちの背中を見送り、改めて五人と目を合わせた。


「さて、それじゃあ答え合わせの時間だよ。僕の戦い方で普通の魔法使いとは違った部分はどこだったと思う?」


「どこって……全部じゃない! おかしいところしかなかったわよ!」

 

予想外なことにヴェントさんが一番に口を開いた。それだけ驚いたってことなんだろう。


「全部か……確かにそれで正解なんだけど、できればもっと具体的にどこがって言ってほしかったかな」


「むぅ〜! なんで私がわざわざロリコン教師の言うこと聞かなきゃいけないのよ! でも! 今回だけは特別に答えてあげたんだから、『きじゅつし』ってなんなのか答えなさいよ!」

 

ものすごい横暴だ……まあ無視されるよりかはマシだろうし、どの道教えるつもりだったからいいんだけど。


「器術師っていうのは戦闘に杖以外の武器を使う魔法使いの呼び名だよ。ただ魔法の才能と実力のない魔法使いがそれを補うために武器を使う場合が多いから『器術師』って呼び方は蔑称、つまり馬鹿にした呼び方なんだけどね」

 

実際、僕にも魔法の才能も実力足りていない。工夫と対策で実技試験の成績は良かったけどその割には注目を浴びることなく卒業できたのは僕の魔法に派手さや目立つ要素が全くなかったからだ。


「ついでに紹介しておこうかな。これが僕の武器だよ」

 

ホムラ様との戦いの中で使った円筒形の短刀を五人に見えるように前に差し出す。


「これは……刀、ですか? でもぼくの知っている形とは違うような……」


「うん、ムダイさんの言う通り普通の刀じゃないよ。ここに小さな出っ張りがあるでしょ? ここをこうやって……」


「……引っ込んだ」

 

まるで驚いた様子もなく淡々と起きた出来事を口にしてくれたコイデさんの言う通り、元来の刀の物よりも少し太い柄の刃の付け根下に付いた突起を押し込み下に引くと刃の部分が柄の中に収納された。


「小型で持ち運びがしやすくて相手に武器だと悟られにくい。構造上刃が細くなってるらか少し脆いのが弱点だけど、ちゃんと魔法器になっているから問題ない。これが僕の武器、フィルファルトだよ」

 

一般的に魔法使いが杖を武器として使うのは魔法の使用効率や威力を底上げするため。杖そのものが触媒になっているという仕組みだ。

 

一方で器術師は魔法が劣る代わりにそれをそれ自体に殺傷能力のある武器で補う。しかしそれでは元々が劣る魔法力でさらに他の魔法使いに遅れをとることになってしまう。

 

そこで開発されたのが魔法器。武器の中に触媒を仕込むことで杖ほどではないが魔法の補助を行い、さらには武器自体にも魔法を付与することを可能にしたのだ。

 

本来は魔法を付与した生活用品、調理や湯沸かしなどに使われる魔法道具から技術を拝借した物らしい。


「なにそれ、つまり不意打ちがしやすいってだけのことじゃない。結局、あの先生の言ってた通り不意打ちしか能がないのは本当みたいね。ちょっと興味持って損したわ」


「まあ、それに関しては否定しないよ。もちろん普通に戦えるように訓練だってしてるけど、楽して勝てるに越したことないからね」

 

別に正々堂々かっこよく戦って勝つことにこだわりがないなら奇襲上等、不意打ち最高と言ってしまえるんだけど、ヴェントさんはそれじゃお気に召さないらしい。

 

ここで僕の心構えを押し付けても今の彼女の心を動かすことはできないだろうし、途中で帰ってしまわなかっただけよしとしよう。


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