2日目ー見学者ー
「ほう、よく逃げずに来たな。キサマはよっぽどのバカか死にたがりのようだ」
場所の指定がなかったからわざわざ広そうな場所から順に探して一番遠い第六演習場でようやく見つけたのに、まさかの迎えられ方をしてしまった。
第六演習場は実習教科のため十ある演習場の中で二番目に小さく、一番障害物の少ない一対一の対人戦闘用フィールド。つまり喧嘩するための特設リングなわけだ。
「呼び出したのホムラ様ですよね? むしろ場所の指定がないのに頑張ってここを探し当てたことを褒めていただきたいくらいなんですが。と、言うか…………なんでこんなに観客が?」
照らす日差しを頭で照り返しながら腕を組むホムラ様の後ろに三十を超える生徒の群れが。その中には昨日見たコウちゃんとその金魚のフンの姿もある。
しかも僕の後ろにも見知った顔が五つ。「教室で待ってて」とは言わなかったけど、コイデさん以外は僕と仲良くしたいと思ってないんだからわざわざついてこなくてもよかったのではないかと。
「なに、今日は好都合なことに私の魔法実践の授業の日だったからな。この機会に教師の本気の炎を生徒たちに見せてやろうと思ってな」
マホガクには属性ごとの大きな括りが存在している。さらにその中でその日開講される授業の中から生徒が選択、抽選をして受講するのが基本のルールだ。
有名人であるホムラ様の授業は毎回競争率が高いだろうに、せっかく当たった授業で後輩イジメを見せられるとか生徒さんがかわいそうだな。
「じゃあ、そっちの五人はなぜここに?」
「…………なんとなく」
コイデさんはなんとなくなのね。一番前向きな理由が聞けるんじゃと期待したけど、なんとなくなのね……。
「ふん! ロリコン教師が泣いて土下座する姿を見るために決まってるでしょ!」
ヴェントさんがそう言い切ると。
「マーは魔法使いが死ぬところを見れると思ったので」
続けてルウマさんがトドメをさすかのように笑顔で「死ね」と言ってきた。
「僕は……みんなが行くから僕だけ教室にいるの変かなって。僕みたいな地味な奴が付いてくるとか気持ち悪いですよね……ストーカーだって罵ってもらっていいですよ」
ムダイさんはしっかり自分をディスるのを忘れない。ただ、「泣いて土下座」とか「死ぬところ」とか言われた後だからすっごく普通の理由でむしろありがたいくらいですとも。
「そんなことはないよ。むしろムダイさんが来てくれたおかげで方針が決まったからね。ありがとう」
「我は強靭なる魔の衝突を見——」
「よし、それじゃあ向こうが授業の一環にするならこっちも全員が揃ってるし真似をさせてもらおうか」
天に向け手を掲げたラファエル(仮)さんをスルーして続ける。
「え、ちょっ——」
「今から僕のクラスで学んでもらうことを実戦の中で見せようと思います。みんなが知っている魔法使いの戦い方と何が違うか、後で聞くからしっかり見ててね」
軽く頷いたり、頷いた後下を向いてしまったり、顔を勢いよく背けたり、笑顔でスルーしたり、しょんぼりしたり、反応はそれぞれでいちいち対応していけないのでそのままホムラ様の方へ向き直す。
「なるほど、能無しは強者に痛ぶられるのが仕事だと身をもって教えてあげるつもりなのか。なかなかにいい先生ではないか」
「まあ、そんなことにならないようにボチボチ頑張らせてもらいますよ」
教師二人が前に出るのに合わせて、生徒たちは演習場の外周部に避けていく。
魔法で戦うと広範囲が吹き飛ぶようなこともしばしば。その時見学者が巻き込まれないように結界が張ってあるのだ。と言っても魔法を無効化するのではなく即座にそれを打ち消す属性の魔法で中和する結界。すごい物なのは間違いないのだけど、世界全体なんて広い範囲に張るには向いていないから僕の計画には使えない代物だ。
「……さて、生徒の準備はできたみたいだし、私たちも始めようではないか」