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2日目ー始まらずに中断ー


先生生活二日目。

 

昨日とはまた違った緊張を抑えながら、重そうな扉に手をかける。


「おはようございます」


「…………」

 

軋む音に負けないよう少し大きめな声で挨拶をしながら教室に足を踏み入れるも、今日もまた返事はなしだ。

 

昨日少しだけ仲良くなれた……はずのコイデさんも、元々積極的に口を開いてくれるタイプじゃないし表情の変化も読み取りづらいから一見昨日と何ら変わりないように見える。

 

……昨日の出来事は全部夢か幻だったんじゃないかと不安になってきた。


「それじゃあ、今日から授業を始めていきたいと思います。真面目にとまでは言わないけど、せっかく来たなら少しくらいは話を聞いてくださいね」

 

気を取り直して、見渡すまでもなく五人揃っているの確認してから唯一話を聞いてくれそうなコイデさんに視線を向ける。

 

やる気のない五人がわざわざ教室に顔を出す理由はとても単純だ。

 

出席点。つまり授業に参加しましたよという事実が欲しいから。実技で点を稼げない彼女達にとってどんなに小さくても進級、卒業するためには逃すわけにいかないのだ。


「…………」

 

大丈夫、反応がないのは予想していたことだぞ、僕。


「そうだな……みんなある程度は聞いてると思うけど、まずは改めて僕のことについて話をさせてもらおうかな」


「…………」

 

変わらず返事はない。ただ、前列三人は少しだけ興味を持ってくれたみたいだ。


「僕は二年前にここを卒業したみんなの先輩で、今は研究機関で魔法史を専攻しています。魔法史とは魔法の歴史を紐解き、そこから新たな魔法の活用法を見つけること、あと純粋に魔法の歴史を楽しむことが目的です」


「…………」

 

それくらい知ってるって感じかな? なら。


「魔法史はその特性上すべての魔法属性について学ぶ必要があるっていうのは知ってると思うけど、もう一つ、魔法史を学ぶ人には世間ではあまり知られていない特徴があります。それは——」


「授業中失礼するよ、無魔クラスのみなさん」

 

自分たちの知らないかもしれない魔法史の特徴に五人全員が耳を傾けてくれたその瞬間のことだった。


「あなたは! ……えっと…………ハゲ……素敵なお頭ですね」


「知らないのなら初めから思わせぶった態度をとるんじゃない! それと、ハッキリ悪口を言い切ってから言い直しても全く意味がないからな!」


「なんともご丁寧にツッコんでいただきありがとうございます。ところであなたは誰ですか?」


「キ、キサマ……ロクな研究成果もあげない魔法史専攻のカスがよくも最強の火魔法のトップ教師であるこのホムラ様を馬鹿にしてくれたな!」

 

ホムラ様……在学中に聞いたことがあるかも。僕は火魔法の専攻にいなかったから名前だけだけど、本の中にそんな名前があった気がする。

 

……まさか実物がこんな綺麗な頭のおじさんだとは思ってもみなかったけど。

 

ほらほら、そんな怒ってばっかりじゃ残った数本も燃えて無くなっちゃいますよ……焔だけに。


「キサマ、また何か失礼なことを考えなかったか?」

 

おっと、ホムラ様はテレパシー使いでしたかな?


「いえいえまさか。あの高名なホムラ教授だとは気づかず無礼を働いてしまい申し訳ありませんでした。幾分人と関わることの少ない人生だったもので礼儀作法に疎い部分があるのです、どうかひらにご容赦を」

 

人と関わることが少なかったから失礼な態度をとった。

 

……なんて、そんな訳がないだろ。処世術、その場をやり過ごす術がなかったら「目立たないけど成績優秀」なんて立ち位置を確立できるわけがない。

 

今も話の腰を折られたから腹いせに悪口を言っただけ、今頭を下げているのも反省している態度を見せるためだ。


「……まあいい。それよりもだ、昨日、私たちクラスの生徒が君と、そこのイロなしの少女に攻撃をされたという報告を受けたのだが、心当たりはあるか?」

 

昨日の覚えてろって、こういうことだったか……。


「いえまったく。向こうから火魔法で攻撃された記憶はありますけど、こちらから危害を加えるようなことはなにもありませんでしたよ」


「……そうか。それもそうだな、キサマの学生の時の専攻は光魔法で、イロなしに魔法は使えない。ならば火魔法で攻撃されたという私たちの生徒の話とも齟齬が生じるし、そちらに非がないと考えるしかないか」

 

魔法使いは基本自分の得意属性の魔法しか使わない。他の属性を使おうものなら普段か使わなさすぎて失敗や暴発が当たり前に起こってしまうからだ。

 

だからこそわざと火魔法を使ったんだけど、狙い通りの展開になったってことだな。


「なら——」


「しかしだ、そんなことは関係ない。私はキサマが気に入らない。学長様のお考えは分からないが、ここで一度痛い目をみせて二度とその生意気な顔を私たちの前に出せないようにしてやろうじゃないか」

 

大人気ない! 生徒のためとかじゃなくて完全に私情じゃん!


「いえ、別に元々こちらから近づいていくつもりはないので放っておいてもらえれば……」


「そういう態度が気に入らないと言っているんだ! ともかく授業は今すぐ中止だ、表に出ろ!」

 

一番肝心の「どこに」という情報を出すことなくホムラ様は行ってしまった。

 

このまま見なかったこと聞かなかったことにして授業を続け……るわけにはいかないよね。そのほうが面倒ごとになるのが目に見えてる。


「ごめん、話の続きはまた後で。ちょっと行ってくるよ」


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