soulFighters/zero ~オカルト探偵になったあの日~
建ち並ぶビルの森林。バラバラな足並み。そして点滅する信号機。
俺、岡元遊詫郎〈おかもとゆうたろう〉は、そんな渋谷に住むただの自営業。
といっても、たいして儲からない探偵業なのだが。
「新宿駅から経由してこいとか・・・一体何のために駅があると思ってんだ。」
今回の依頼は少し変わったものだ。
内容自体は人探しなのだが、そのルートが奇解なものだ。
〈渋谷駅から山手線外回り方向の列車に乗り、新宿駅を経由して池袋駅まで来てくれ〉
というものだ。
わざわざそのまま池袋まで乗ればいいものの、何故新宿を経由する必要があるんだ。
「・・・どうこう言ってても仕方ねえか。」
そのまま駅の自動販売機にあったコーヒー缶を飲み干し、目当ての山手線外回り列車に乗り込んだ。
「・・・相変わらずせめーなここの入口は・・・」
ふと愚痴をこぼすが何のことはない。
そのまま流されるがままに乗って行くか。
「次は、新宿。新宿。お乗り換えの方はご降車ください。」
そうこうしてるまに新宿駅だ。
俺は混み込みの列車から列車に乗り継ぐため、新宿駅のホームにその足を降ろした。
「・・・やっぱり乗り継ぐ必要はなかったのでは?」
そう訝しむと、矢継ぎ早に次の車両がやって来た。
きちんと、池袋駅行きとある。
「あれ?この時間に列車って通ったか?・・・まあいいか。」
特に怪しい所もなかったので、そのまま乗り込んだ。
―――その瞬間だった。
「っ!?」
突如、激しい頭痛と耳鳴りが襲った。
「くっ・・・うああぁっ・・・!」
その身は車両に完全に寄りかかっていたため、逃げようと思っても逃げられなかった。
そして、意識を失う瞬間、車両全体に漂っていた違和感を微かに感じ取った。
「・・・あれ?この時間に、こんな人がいないものか・・・?」
そうして午前9時過ぎ。
俺は不自然な違和感と共にその意識を失った。
ピピピピ・・・ピピピピ・・・
「・・・んっ。」
俺はいつも通りにセットしていた家の目覚まし時計のアラーム音を止める。
「夢・・・か・・・?」
二日酔いのような気分の悪さが頭に残るが、いつものように、テレビの電源を入れる。
「続けてニュースです。渋谷駅で行方不明となっている、探偵業を営む岡元遊詫郎さん25歳男性が、突如姿を消して3日目となります。」
「・・・・・・は?」
「現場近くの監視カメラの映像では、山手線外回り電車に乗り込み、そのまま新宿駅に降りたのを最後に、岡本さんの行方は分からなくなりました。警視庁は、岡本さんの行方が分かり次第・・・」
目と耳を疑った。
俺が行方不明になっていて、しかもそれが三日目になるというのだ。
「ま、まままま待て。今は何時だ?そして何月何日だ!?」
俺は慌てて目覚まし時計を確認した。
―――そこには確かに〈2005/09/13(火) 09:32〉とあった。
そして、俺が依頼を受けて、駅に行った日程は―――
「―――9月・・・10日・・・。」
そう。
完全に時間が飛んでいるのだ。
「は、ははは・・・きっとこれも夢なんだ。うん、そうだ。じゃなきゃこんなのおかしいからな、うん。」
俺はこのまま眠りにつこうとした瞬間、玄関のチャイムが鳴った。
「うるっせぇなぁ・・・どうせ警察だろうし、身なりを整えて出るか。」
そして、鏡を見た瞬間―――
「・・・・・・は?」
いつもの仕事着だったことに気付く。
「・・・ますます訳分かんなくなってきたが、着替える時間が省けたな。」
そのまま玄関に向かい、ドアを開ける。
「はい、岡元です。」
「やあ、ダーリン。ご無沙汰だね。」
「・・・は??????」
そこにいたのは、俺の妻、萩原慧〈はぎはらけい〉(31)だった。
民俗学者でもあり、4歳の息子と、2歳になる娘を養う2児の母だ。
今はお互いの仕事のため、別居兼離婚をし、5年に渡る結婚生活を終了させたばかりだ。
まあ、価値観の違いから離婚したようなもんだが。
「ちょうどいいからお話ししよう。警察に行くのはそれからでも遅くない。」
「待て、何で俺の家が分かった!?つか勝手に人の家に入るな!!」
「夜を一緒にした仲だろぉ?それに、君が仕事をするなら、自分ちに近いところがいいって言ってたもんなぁ。」
「くそ!そう言えば俺の高校時代の担任だった!」
「君の卒業と一緒に学校を辞めて、そっから民俗学にハマっただけだが何が?」
「そーいうとこだから俺たちは離婚したんじゃないか!!!」
だめだ。とても話が通用しない。
そんなこんなで、俺達はテーブルで向かい合う。
「君の近況は知ってるよ。災難だったね。」
「災難なのは同意するが、俺からすれば時間を飛ばされた感覚だ。」
「そう。それが重要なんだ。」
「・・・?どういうことだ?
「君は、神隠しを知ってるかい?」
「もちろんだ。でもそれって、監禁とかが原因だったりするだろ?」
「のんのん。君が出くわしたのは、本格的な神隠しだ。」
「・・・は?」
また訳の分からないことを・・・
「君が襲われた神隠しだが、分類的には【天狗攫い】というものだ。」
「天狗攫い・・・?」
「天狗攫いでは、かつて江戸であった寅丸という少年が、異界に攫われたという事件があった。」
「異界に・・・」
「この事は、四大国学者の一人である平田篤胤の仙境異聞にあることだが、君が出くわしたのも、それと言っていいだろう。」
「つまり、俺は神隠しに遭い、3日間の記憶すらないということか?」
「結論から言うとそうなるね。ただ、寅丸少年が出くわしたのは杉山僧正だが、君が出くわしたのは、天狗衆という組織だ。」
「天狗衆?」
「似たようなものとして、天狗党というものがあって、水戸藩の尊王攘夷派の集団を指した言葉だ。当然ながら、天狗衆はそれらとは遥かに歴史が長い。」
「説明してくれ。」
「まあ大部分に切り込むのだが、天狗衆の指導者が天狗だ。そして天狗衆のメンバーもまた天狗だ。」
「解説を頼む。」
「天狗衆の指導者。これは古来より伝わる国津神であるサルタヒコノオオカミのことだ。」
「猿田彦・・・」
「天照大神が言い伝わる以前の伊勢の太陽神であり、烏天狗と混同される存在だ。」
「そして、天狗ってなんだ?」
「元々は中国に伝わる凶つ星で、その時に激しい音響が発生するのさ。それが日本に伝わり、今の天狗伝承となったのさ。」
つまり、俺の耳鳴りも天狗の仕業ってことか。
「だいたい分かったところで、天狗衆の歴史って?」
「天狗衆は猿田彦大神の信仰地である伊勢を始めとして、約2000年近い活動を行っているのさ。」
「2000年も!?」
「それに、影響力も強い。6世紀頃の伝承すらなかったのも、天狗衆がその歴史を抹消したからだね。」
歴史に干渉する程の力まであんのか・・・!
「何より、多くの人物が、天狗衆に関わっているらしいからね。」
「多くの人物?」
「君は、源義経って知ってるかい?」
「ああ。平安末期に活躍した武将で、その伝説は数多くあり、その一つとして、モンゴルまで辿り着き、かの初代モンゴル帝国の皇帝、チンギス・ハーンとなった伝説なら知ってるぜ。」
「よくご存知だねぇ。じゃあ、そんな彼が、天狗にまつわる話とかも知ってるかい?」
「確か、幼い頃に、山伏に変装した天狗が稽古をつけたって話だろ?」
「ああ。その天狗は鬼一法眼と言って、陰陽師でありながら、かの日本剣術の始祖とされる「京八流」の祖でもあるのさ。鞍馬寺は、そんな彼を祀る神社が建てられるほどさ!」
「そんな義経が、どう絡んでくるんだ?」
「驚かないで聞いてくれたまえ。これは今後のことにも関わることだ。」
「どういうことだ?」
「―――実はね。私はかの義経公の妾たる静御前。そして、鬼一法眼の一人娘でもあるのさ。」
「はぁ??????????????????????????」
「そして君は、そんな義経公と最後まで戦った勇猛果敢なる人修羅、悪七兵衛「平景清」の生まれ変わりなのさ!」
「???????????????????????????????」
意味が分からない。
慧が静御前で、俺が平景清?
んで静御前が鬼一法眼の娘?
こいつの言うことはいつも支離滅裂だが、今日はいつにも増してカオスだな。
「結論から言おう。君はこのまま姿をくらませ。」
「はぁ!?」
「そしてこのまま、私と共にアストラル界まで雲隠れだ。」
「馬鹿じゃねぇの!?!?なんで行方不明のまんまでいるんだよ!」
「そうじゃないと、君は一生時間を飛ばされ、知らぬ地で生涯を終えるぞ。それでもいいのか?」
「だとしても、子供はどうするんだよ子供は!?」
「―――心配は要らない。あの子たちはきっと来るさ。それに、既に手は打ったからね。」
「・・・ん?どういうことだ?」
「今頃人形が上手くやってるだろうさ。それに、人形は2020年になったら機能停止することになってるから安心さ。」
「・・・・・・」
本当にこれでいいんだろうか。
こいつの言葉を鵜吞みにするのか?
けれど・・・もしも本当なら・・・
「―――分かったよ。」
「お?」
「行くよ。アストラル界に。どんな感じか分からなくても、それで平和になるのなら、俺はどこにだって行ってやるよ!!!」
「―――ふふ。しっかりと片鱗はあるようだね。」
「・・・なんか言ったか?」
「ううん。何でもない。―――あっ、そうだ。ちょっと失礼。」
「どうした?―――っ!?」
突然、首元に注射器を差し、何かを打ち込んだ。
「これで君はアストラル波動の影響を受けなくなった。代わりに、人間界の空気は少々の毒になるけどね?」
「・・・なるほど。下準備ってわけか。」
「さぁ行こうか。アストラル界へ!」
「つっても、入口はどこに・・・」
「ドアを入口にしたからもうすぐさ!」
「ぁ、おい!!」
こうして、俺達は人間社会から姿を消した。
ただし、代わりの人形が俺達の代理となっていて、2020年になるまでは普通の家族として暮らすこととなるだろう。
―――慧が遺した、ある一つの物を除けば。
―――そして、時は進み2020年・・・
「はぁ・・・親父の遺品整理かぁ・・・」
気が進まないといった表情で、その青年は本棚を漁る。
「こんな本ばっかで、なんも・・・―――ん?」
そこには、真っ白なファイルがあった。
古びた様子もなく、新品同様の白いファイルが。
「これって・・・」
そこにはこう書いてあった。
【オカルトZEROファイル オカルト探偵・岡元遊詫郎の記録】
「親父の・・・?」
その青年が後に、オカルト探偵として。
―――そして、妖怪との絆で戦う、【ソウルファイター】として難事件に挑むことになるのだが、それはまた別のお話。
どうも、Coボレッタです。
初めましての方は初めまして。そうでない方はいつも見て頂きありがとうございます。
今回は短編ということで、ちょっとした思い付きで書いたものです。
元はメガテン3やって、現代とオカルト現象を混ぜてそれを若干ペルソナっぽくしようかなーというメガテニストのつまらない暇つぶしでこれを思い付きました(所要時間約8時間)。
なお、私が書いてるEnemycircularはまもなく1周年ということで、これからも読んでいただければ嬉しいです。
ちなみにこれの続編・・・というか本編についてですが、既にプロットはあり、それの続編のプロットも頭の中では存在します。
本編を書くかどうかは不明です。やる気になったら書くかも。
それではCoボレッタでした。
ここまで読んでくれてありがとうございます。