第24話 新米捜査員は、姫様に驚く。
「本日は、アルフ国代表代理として、皇帝陛下に謁見させて頂き、誠にありがとう存じます。遠く離れた我が星は、今だ戦乱の跡が残り復旧途上であります。今後、陛下のお力で復興を助けて頂けたらと思います。さすれば、私共も陛下、帝国に益を齎します様努力する所存でございます」
「うむ。リタ姫、其方の星には、帝国では最早繋がりが失われた魔神族が駐留すると聞く。彼らとの交渉の仲介も頼みたいと思う。今後とも宜しく頼むぞ」
「はい、お任せ下さいませ」
今日は、リタ姫の本番、帝国との国交樹立を行う日である。
今、正式な謁見を終えて、これから国交樹立や平等通商条約の締結書にサインをするところだ。
本当なら帝国側にいる辺境伯婦人は赤い振袖を着て、今日は青いドレスに身を包んだリタ姫の通訳兼御付をやっている。
もう既に、陛下は上位魔神の朧さんと面識があって、その上の魔神将を姉とするナナさんが陛下の配下にいる形だ。
魔神族との関係公表は、国内へのアピールということだろう。
……つまり、「弱小国と国交を結んだんじゃないぞ、向こうも強いぞ」って国内の強硬派を押さえる為の発言だね。
「条約締結に異論あり!」
議場に大きな声が響いた。
「そこなエルフの小娘、魔神族の力を借りて陛下を誑かそうとしておる。何より地球人の辺境伯婦人とは義理の姉妹だとか。帝国を揺るがす為に異界の力を持ち込もうとしておるのだ!」
クレモナ伯グリゴリーは、リタ姫とナナが帝国を乱すために魔神族の力を使って暴れる、と思っているらしい。
……とうとう動いたか、タカ派のバカが。
僕は急いで議場内を見回した。
ここでタカ派が兵力を投入したら不味いからだ。
……まだ、市場では怪しげな動きは無かったはずなのに……。あれ、誰も動かないぞ?
議席から立ち上がり、大声で吼えているのはグリゴリーのみ。
他の領主や高官達は、何が起こったのかと右往左往している。
「クレモナ伯、一体何を言い出すのか?」
「伯、悪い癖が出ております。落ち着いて」
……もしかして、クレモナ伯って頭に血が上ったら、すぐに行動しちゃうタイプ? 連携とか暗躍とかできずに暴走するタイプだったり? なら、リタ姫を最初に襲ったグループとは完全に別だ。
僕は周囲の喧騒を聞き、こいつは単独行動のバカと判断した。
「マム、どうしますか? アレ、単独犯っぽいですが、撃っちゃいましょうか?」
僕は、グリゴリーをライフルの照準に捕らえたまま、議場入り口近くの高台からマムにイルミネーターで連絡をした。
「そうねぇ。あ、今ナナさんから連絡が来たの。どうやら、自分で火の粉を払うようよ。お姫様は」
マムは、うふふと笑って僕に返答をしてくれた。
……自分でって、まさかリタ姫って戦うの!?
「あら、何を証拠にわたしが陛下に悪い事するって言うのかしら。わたしがチエお姉ちゃんに泣き付いて、魔神族の力を借りるっていうの? そんな事しなくても、わたし強いよ。少なくともおじちゃんよりはね。わたしと戦ってみますか?」
リタ姫、かなりお怒りなのか、それまでのアルフ神聖語をやめて、日本語で話し出した。
それを妹が侮辱されたのでお怒りなナナが、お怒りの共通語で通訳する。
「なに、小娘め。言わしておけば、西方最強のワシよりも強いとほざくか! 陛下、私はこのエルフに侮辱されました。恥をそそぐべく、決闘を申し込みたいので宜しいですか?」
グリゴリー、自分が弱いといわれたのですっかり怒り、陛下にリタ姫との決闘を申し込んだ。
「ナナ、妹君は本当に戦えるのか?」
「はい、陛下。リタちゃんはものすごく強いですよ。一応、命のやり取りはナシで御願いしますね」
陛下はナナにリタ姫が本当に戦えるのか小声で話し、それにナナも小声で自慢げに妹を褒め太鼓判を押した。
なお、陛下やリタ姫、ナナには僕達へ繋がる通信機を持ってもらっている。
そのため、僕にもこの会話が聞こえた。
「あい分かった。諸侯の中にもリタ姫、いやアルフが魔神族の力を借りねば帝国と並ばぬと思う者も多いと聞く。姫自身が戦いを望んでおるのだ、決闘を認める。ただし、命のやり取りは無し。どちらかが参ったと言うか、若しくは戦闘不能となった段階で終わりとする。双方、戦準備をせよ!」
なんか、話が物騒な方向になって言っているけど、陛下は面白がっているし、リタ姫やナナはすっかりプンプンモード。
これはどうなるんだろうか?
◆ ◇ ◆ ◇
「皆、ごめんなさい。わたし、我慢できなかったの。わたしはどんなに悪口言われても気にしないけど、チエお姉ちゃんやナナお姉ちゃんを馬鹿にされるのは嫌だったの。それに、もしあの人が陛下に悪い事する人なら、ここで懲らしめたかったし」
リタ姫、先ほどまでの青ベースのドレスを脱ぎ、どこからかジャージを持ってきて着替えている。
「ナナお姉ちゃん、戦闘ジャージ持ってきていて良かったね。ステッキも充電十分だから、負ける気しないの」
「リタちゃん、油断はダメよ。先手で『ぎゃふん』って言わせるの。それに他の敵もいそうな予感がするのよ。一応、チエ姉ぇやダンナにも一報入れているし、ボクも横で待機しておくね」
ナナも振袖から、戦闘ジャージに着替えている。
因みに、ナナ。
今回、ドレスで無く態々振袖を着ていたのは、地球ではもう着る機会がまず無いかららしい。
着付けについては、母から習ったとの事。
……年齢的にも外見的にも振袖着てても違和感は無いけど、近年振袖は未婚女性が着る着物とされているそうだからって。可愛くて綺麗なのに、もったいないね。
「お2人とも、イルミネーターを使ってね。わたくしもイヤな予感はしますの」
マムは2人にイルミネーターを渡している。
「皆、たぶんこの決闘中に敵は動くと思うの。陛下や御二人に敵対する人物は即時排除、殺害も許可します。戦闘装備で集合して。ルーペットさんはシームルグ号へ。キャロとフォルはシームルグ号で待機、戦術支援を御願い」
「あい!」
「リタ殿、本当に大丈夫かや? 戦うのは怖く無いのかや?」
リーヤは、装備を確認中のリタに怖く無いかを聞いた。
「うーん、そうだねぇ。怖く無い事は無いよ。でも、邪神と戦ったり、魔神将に捕まったりした時よりは怖く無いかな?」
リタは、さらっとものすごい事を言う。
……マジ、凄い修羅場を潜って来ているんだ、姫様達って。
「だいじょーぶ。わたし、ものすごっく強いんだから! リーヤちゃんは安心して見ていてね」
リタはリーヤを安心させるべく、少ししゃがんでリーヤの頭を撫でた。
後に、僕は可愛い女の子を怒らせると大変な事になる事を理解した。
リタちゃん、お怒りの回です。
さて、決闘はどうなるのか、帝都に暗躍する敵はどう動くのか。
明日の更新をお楽しみに!




