第23話 新米捜査員は、カレーを作る。
「タケ、今は警備に集中よ。気になるのは分かるけど、今は料理の事は忘れてね」
「はい、気をつけます」
今は、周辺諸国との会議中。
帝国側席に座る辺境伯婦人と皇帝陛下を守るのが、僕達の役目だ。
因みにエルフ姫は、本日お休み。
上位魔神、朧さんの作った別位相空間内の別荘でくつろいでもらっている。
……警備戦力を分散しないでも良いから、助かるね。ウチにも朧さんみたいな人来ないかなぁ。
「何が、お情けだ。オマエの国ごとき、帝国が本気を出せばイチコロなのだぞ!」
「ぶ、無礼では無いですか。確かに我が国は南方の島国で、人口も少なく大した資源もありません。しかし、今は帝国とも交流をさせて頂いております。それを御破算になされるような条件を言われても困ります」
南方の民らしく浅黒い肌のエルフ種の方が、帝国タカ派領主の言いがかりに反論をしている。
「クレモナ伯、そのくらいにしろ。ここは喧嘩や戦争の場ではない。お互いに利を分け合う場所なのだ。以前の覇権主義を余は好まぬ。まずは共存共栄から始めねば、災害復興もままならぬぞ」
「は、しかし、帝国を舐めるような発言は許しがたく……」
少年皇帝は、タカ派の領主を押し留めるも、彼は屁理屈を捏ねて陛下に反論をする。
「おい! グリゴリーよ、余の意見が聞けぬと言うのか!」
陛下は魔力を全力で展開させ、クレモナ伯を威圧する。
「そ、そのような事はありませぬ。陛下が宜しければ問題はございません」
クレモナ伯は、顔を青くして引き下がった。
……こりゃ、近日中に何かやらかすね、コイツ。要警戒だな。でも、これだけ短絡的なら、暗殺計画とか考えそうも無いな。すぐにやっちゃいそうなタイプ。なら、別の主犯が居るのかもね。
その後は、別段問題も無く会議は終了した。
近年、帝国が融和方針を見せた上に、各国とも災害からの復興をなしている状況、支援はいくらあっても無駄はならない。
更に帝国経由とは言え、地球からの援助・支援があるのは周辺国としても歓迎だ。
ポータムの繁栄具合を聞いていれば、どこも同じように発展する事を望む。
……さて、誰が黒幕なのかねぇ。案外、陛下の近くに敵がいるのかもね。
◆ ◇ ◆ ◇
「さあ、いっくよー!」
警備が終わった後、僕は神殿調理場に向かう。
「タケ様、既に具材の下処理は終わっております。それとスープストックも準備済みです」
神殿調理担当のお兄ちゃん、中々筋が良くて僕の指示する調理方法をどんどん学習している。
今後の成長が楽しみだ。
……ハーフエルフなんだから、僕よりも時間はあるんだ。がんばれー!
鶏肉や人参、ジャガイモにナスが切り分けられており、別に玉葱も大蒜・生姜を加えてアメ色になるまで炒められている。
……ナスもカレーに合うんだよね。
「ありがとうございます。後はバターと少々の生クリーム、ヨーグルト、潰したトマトを炒めた玉葱の中に入れます」
僕は、玉葱をゆっくり混ぜながら水分が無くなるまで炒めた。
「よし! では、ここからスパイスを入れますね」
火を弱めてターメリックから加える。
続いてレッドチリ、今回はフェア君用をメインにするので少なめ、大人用は後から別鍋で追加だ。
さて、続いてクミン、コリアンダーを少し多めに入れて、オールスパイスを逆に少し。
ネットレシピによると、クセがある肉を使う場合は、オールスパイスを多めにするといいらしい。
最後に塩を加えて、後は弱火で2分ほど炒める。
火力調整が楽なIHの勝利だ。
……地球科学ばんざーい!
これでカレーの元、いわばルーの完成。
ちょっと味見。
……よし少し塩っぱいけど、旨味が爆発だね。
後は、ここに鶏肉を加えて肉の表面が白くなるまで加熱!
そして野菜系を加えて、水とスープストックを半分づつ更に追加。
最初は強火で沸騰、その後はことこと弱火で15分。
「ここからは、焦げ付かないように混ぜながら加熱します」
最後に隠し味&臭い付けでパセリの微塵切りと砂糖をちょっこり加えて、かき混ぜたら完成!
「うん、美味しいね。ではフェア君用はこちらに移して、後は大人用にちょっこりレッドチリを追加と」
さあ、皆が待っている。
多分スパイスの匂いで全員おなかが「くー」だろう。
◆ ◇ ◆ ◇
「これはなんだー!!! 辛いのに旨いぞー!!」
予想通り皇帝陛下は、吼える。
「お母さんのとは少し違うけど、美味しいの。タケシお兄ちゃんすごいよ!」
「そうだね、リタちゃん。鶏肉がタンドリー風で本格インドっぽいの」
「和風カレーとは一味違いますが、お見事です」
アルフ組にも好評だ。
……和風に寄せても良かったけど、具材が手に入りそうもないから、逆にインド風に攻めてみたんだ。
「見事ナリ、タケ殿。我が領地にお寄りの際にも再び御願いする」
「ええ、貴方。この辛味が癖になりますの。リーヤちゃん、絶対タケ様を逃がしちゃダメよ」
何故か神殿に来ているアンテキオキーア領主夫妻。
どーやら、リーヤがこそっと話をしたからだとか。
……まったく親子揃って欠食児童どもめ。(笑)
「タケ、こういう事じゃったのかや。此方には少し辛いが美味しいのじゃ!」
「予想を超えた美味しさでござるぅ。拙者もポータムへ帰ったらカレー作ってみるでござるよ」
「アタイもこの辛さは好きだね。確かポータムでカレールー売っていたから、アタイでも作れそう」
「タケお兄さん、美味しいのぉ! 猫舌のわたしでも大丈夫!」
「タケ、美味しいご飯をありがとうね。フェア、辛くない?」
「うん、だいじょーぶ。おにいちゃん、おいしいごはんをありがとー!」
ウチのメンバーにも大好評だ。
なお、不足気味になっていたコメもインディカ種のものが大量に入手できたので、さっと洗って湯取り法で炊いた。
また、料理人のハーフエルフのお兄ちゃんには、あらかじめナンの焼き方も教えていたので、焼いててくれたナンを使ったバージョンも美味しい。
……炊飯器にインディカ米モードがあれば、もっと楽かもね。昔、冷夏で米が不足した時にタイ米を輸入したけれども、調理方法を知らずに不味いって苦情が出たって話だし。さて、これで本場型カレーも制覇したぞ。美味しいご飯は皆が幸せそうな顔をするから好きだね。
「陛下、この辛さは病みつきになります。ぜひ、この料理も宮廷へ」
「うむ。タケ、これも絶対宮廷に教えに来てね!」
「御意!」
僕は、ふと思った。
僕が今後、この異世界で目指す事を。
それは、皆が平等で幸せに食卓を囲める世界にする事。
そこには僕が居て、リーヤが居て、マムや仲間達が居る。
そして、他にも皇帝陛下やザハール、その他多くの人々が一緒に笑顔で食卓を囲む幸せで優しい世界。
この世界を守る為に、僕は自分が持つ科学や料理、そして射撃の力を使う。
優しい世界を邪魔する奴らをぶっ飛ばして、料理をご馳走してそいつらを観念させるのだ。
「タケや、何か思いついたのかや?」
「うん、皆がこんな食卓を囲める世界を作りたいなって」
「そうじゃな。この気持ちが良い世界は、此方とタケで作るのじゃ!」
リーヤは、僕に賛同してくれた。
これで、もう怖いものは何も無い。
どんな敵にだって立ち向かえる。
……見てろよ、悪党共。僕は負けないぞ!
最後の部分、タケ君の決意ですが、執筆中に頭の中に降りてきて気がついたら書いていました。
衣食住、すべては生活する上で不可欠です。
この中でも食、ただ腹を満たすのでは無く、大事な人達と一緒の食事は嬉しいものです。
タケ君が望むのは、幸せな食卓を囲む人々が世界中に広まる事。
料理で世界を幸せにする、その為に科学・魔法・武力の力を借りていくのです。
自分で作劇していく中で、最終目標が決まった回でした。
プロット段階ではタケ君には料理上手という役割は無かったのですが、化学と料理が繋がる事から、こういう流れになっちゃいました。
でも、我ながらステキな目標ですね。
では、明日の更新をお楽しみ下さいませ。




