第22話 新米捜査員は、新作料理を皇帝へ献上する。
「おそらくだが、明日の周辺諸国との会議では反対派は大人しくしておろう。問題は明後日のリタ姫のところとの国交樹立レセプションであろうや。地球との国交樹立は、地球の方が圧倒的に優位だったのに平等条約であったために反対は起きなかったが、リタ姫の星は言ったら悪いが弱小もいいところ。そんなところと平等条約などを結ぶのは無意味、遠くなければ侵略併合も考えるべきというのが、タカ派共の考えだ」
少年皇帝は、僕が作った雑炊を美味しそうに食べている。
「わたしの星は、まだまだ復興途上。確かに帝国とは圧倒的に国力が違いますの。でも、陛下は平等条約を結んでくださるのだから、わたしはちゃんと代表として頑張るもん。そして陛下や皆のお役に立つんだ!」
エルフ姫も、上品ながらも凄いペースで雑炊を食べる。
「ボクはどっちとも関係あるから、皆が幸せになれる方法を探すの。しかし、この雑炊美味しいよ。でも本当なら、これだけの出汁がでるお鍋食べたかったよぉ」
伯爵夫人は、悔しがりながらも元気よくモリモリと食べる。
「姫様方、もう少し上品になさいませ。まあ、皇帝陛下も一緒にこの状態なら今更という気もしないでも無いですが。しかし、脂っこくて塩辛い宮廷料理よりは、このような優しい味のほうが胃も心も休まります。私もすっかり日本食に慣らされたものじゃ」
執事も、慌てないものの、じっくりと雑炊を味わって食べていた。
「陛下、宜しいですか?」
「うむ、なんだ?」
僕は、一息ついた陛下に聞いてみた。
「ルーペットさんも言っていますが、宮廷料理ってそんなにダメなんですか?」
「まあ、はっきり言えば素材を何処まで飾り立てるかを競った料理では無いかと思う。古来、古くなった素材をどう食べられるようにするか、そして交易で手に入った貴重な香辛料等高価で珍しいものをどれだけ不断に使うか、そんな方向に行ってしまっておると余は想像する」
地球のヨーロッパ諸国では、王侯貴族が香辛料を手に入れる為に戦争をした事例まである。
……肉を美味しく食べる為に、胡椒や丁子が多く用いられたのは地球であった話だね。過去には、悪くなった肉の臭い消しという説があったけど、同じ重さの金と等しいと考えられた香辛料の値段から考えて、そうではなくただ美味しかったからというのが現在の学説らしいけど。
しかし、香辛料を使いすぎて、料理が美味しくないのは本末転倒だ。
塩分が多いのも、冷蔵庫がまだ無い異世界での保存性を考えてのことだろうが。
「タケの料理を食べるまでは余もさほど気にはならなかったが、繊細な味付けを行うタケの料理を食べたら、もうダメだ。タケ、今回の会議中の夕食はタケに頼む。必要な経費はここで食べる人全員分を国庫から出そう。また、会議が終わり次第、城内料理教室を行ってくれ。これは、皇帝命令では無い。トモダチとしての頼みだ!」
少年皇帝は皇帝の仮面を取っ払って、僕に懇願した。
「陛下に、友達として頼まれたら嫌とは言えませんよ。はい、喜んで給仕させて頂きますね。でしたら、これからはちゃんと神殿に来られる時間を決めてくださいな。そうすれば温かい内に食べられるように予定しておきますね。さて、陛下。明日の夕食のご希望は、何かありますか?」
僕は、陛下の頼みを快諾した。
その様子をマムは眠りかけた息子に毛布を掛けながら、温かく見てくれる。
「そうだな。今まで余、いや僕が食べたことが無いものを御願い。大丈夫かな?」
陛下は子供っぽい顔で僕にリクエストをした。
ならば、子供、いや大人すら魅了するアレの出番だ。
「でしたら、陛下。香辛料の手配をお願い致します。全く同じものが無ければ後は考えます」
「香辛料で不評だったのに、香辛料で勝負とな。タケよ、面白いぞ。アレク、頼んだ」
「御意」
僕はいくつかの香辛料、香草、その他食材の注文を御願いした。
「アレクさん。唐辛子、ウコン、クミン、カルダモン、オールスパイス、コリアンダー。後は玉葱、生姜、大蒜、人参、ジャガイモ、トマトに生クリーム、ヨーグルト、バター、鶏肉。これらが欲しいです。出来ればコリアンダーまでは粉末になっていると助かります。地球と食品流通している業者があれば一番なんですが。それと手に入るならコメも御願いします」
「ふむ、少し難しいものもありますが、調べてみます」
「はい、お願い致します」
先日、市場を見た際には類似していたものが売られていたから、おそらく入手は可能であろう。
僕が頼んだもので何が作れるのか、分かる人は……。
「タケ、禁断のあの料理を投入するのですね。アタクシ、期待してしまいます。今思えばルーを沢山持ってきておくべきでしたわ」
流石、料理通のキャロリンは、スパイスとライスで料理が分かったらしい。
「禁断とは一体どういう意味なのだ? ちゃんと食べられる料理であろうな? タケの事だから心配はせぬのだが」
皇帝陛下は、少し心配になったようだ。
……そりゃ、禁断と言われたら心配になるよね。
「陛下、そこはご心配なく。美味しすぎて再び欲しくなるという意味での禁断でございますから」
僕は、笑いながら陛下に答えた。
……うん、嘘は言っていないよね。
「タケ、それは此方も食べた事が無い料理かや?」
「もしかしてアレかな? ボクはお母さんが作ってくれるのが好きだな。隠し味にリンゴ、蜂蜜、にインスタントコーヒーだったっけ?」
「あ、わたしも分かったの! スパイスからでも作れるんだ!」
リーヤは、自分が知らない料理に興味ワクワク。
異種族姉妹は当然食べているので、すでに正体が分かっている。
「確か、一度捜査室の皆さんには市販品を使ったのは、食べてもらっていますね。今回僕が挑戦するのは、スパイスから作るのでどこまで出来るか。自分でも挑戦してみたくなったんです」
僕は、半分答えを捜査室の人に言う。
「あ、拙者は分かったでござる。確かにアレならこちらでは禁断でござる。中毒性も高いでござるよ、あの味は」
「なんだろー、アタイも食べたなんて?」
「スパイスいっぱいで辛いのは、わたし苦手かもぉ。猫舌だもん」
「タケ、うちの子が食べられる辛さにしてちょうだいよ。お子様向きは地球製品であったわよね、『王子様』っての」
ウチの面子でも禁断の料理に心当たりがあるのは半分くらい。
マムは商品名も把握していて、辛さ控えめを要求しているのが面白い。
「では、モリベタケシの勝負の一皿、行きますね!」
……えーっと、確か僕は科学捜査検査技師で、スナイパーでも調理師でも無いよね。最近の展開、実に解せぬ。
タケ君は、新作に挑戦します。
さて、このレシピでナニを作るのか、マムが最大のヒントを言っていますので、もうお分かりですよね。
では、明日の料理回をお楽しみに!




