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第20話 新米捜査員は、会議の会場警備をする。

「では、今年の領主会議、議題の提案を御願いします」


 城内にある議場に、女性の声が響く。

 議場には、多くの帝国内領主が並ぶ。

 ようやく始まった領主会議、司会のエルフ嬢が議会の運営を行っている。

 以前は風魔法による声の伝道をしていたらしいが、ここ数年は地球科学を取り入れてマイクとスピーカーが使われている。

 魔法での暗殺を考えれば議場全体で魔法使用を禁じた方が守りやすいというのもあると、マムから後に聞いた。


 僕達はモエシア辺境伯夫人(ナナ)、及びモエシアとの友好国家たるアルフ星王女(リタ)の警備という名目で議場の後方に待機している。


 ……城内には発電施設があるから、色々とできるんだね。しかし燃料は何だろうか? 石油は輸送できないし、まさか石炭? こんど陛下に教えてもらおう。状況次第では改善の余地があるかもだし。


 議場の一番高い席に座るのは、皇帝陛下。

 一見真剣そうだが、その実あまり楽しそうにしていないのは、ここ数日陛下の「素顔」を見た僕だから分かるのかも知れない。

 

「では、最初に私からです。昨今、税収について不公平が言われております。それまで田舎であったモエシアは、今や帝都を上回る富を生み出しておりますのに、それが帝都に再配分されていません。この問題について、陛下はどのようにお考えでしょうか?」


 議場は、突然騒然とする。

 モエシアに対する不公平について、まさかモエシアと友好深いアンティオキーア伯(ザハール)から意見が出るとは思わなかったからだ。


「どうして?」

「黙っていたら自分が儲けられたのに?」


 アンティオキーアはモエシアと隣接すると共に領主同士が仲がよく、経済的にも恩恵を多く受けている。

 その恩恵を自ら放棄するような発言をすれば、議場が荒れるのも分かる。


 ……まあ、陛下やマム、僕の仕込みなんですけどね。ザハール様も問題を心配していたし。


「うむ、確かに今のままでは不公平が残るであろうな。なれば、富の細分化を考えねばならぬ。誰か、その方法に良い案はあるか?」


「はい、代理の身ですが、発言宜しいですしょうか?」


 若い女性が手を上げた事で、更に議場は騒然となる。

 その発言が、問題のモエシア辺境伯婦人(ナナ)からだからだ。


「ああ、言って見よ」

「陛下、ヒト族の若輩な女の身での発言をお許し頂き、ありがとう存じます。現在、我が主人が陛下より管理を依頼されておりますモエシアですが、地球との流通で莫大な資産を生み出しております。わたくし、この富は一地域で独り占めしてはならないものと思っております」


 ……ナナさん、すごい。前日、陛下も含めて打ち合わせをしたけれども、ちゃんと伯爵夫人らしい気品と気迫で、そこいらの野良領主を圧倒しているぞ。修羅場を沢山、コウタさんと一緒に潜ったそうだから、そこで度胸がついたのかも。


 真紅の振袖に身を固め長い黒髪をアップにしたナナは、周囲を知的かつ自信満々な表情で見回しながら話す。


「これまでは主人が留守をしていた為に管理が出来ておらず、申し訳ありませんでした。これからは、モエシアで独り占めすることなく、帝国、いえこの惑星全土に富を分配、皆で幸せになりたいと思っています」


 ナナは、にっこりと「ひまわり」の様な笑顔で話す。

 そのあまりに「お人好し」な発言に議場は、しーんとなる。

 普通、手に入れた富を自ら手放す様な事はしない。

 しかし、ナナは旦那のコウタ同様にお人好し作戦で行く事を選んだのだ。


 ……僕も随分とお人好しだね。この作戦を提案はしたものの、ナナさんやコウタさんがウンと言わなきゃ実現しなかったのに。でも僕が信じた通り、2人は二つ返事で自らの富を手放した。というか、最初から2人は富を得ずにいたのだけれども。


「そ、それではモエシアは大損するのではないか!?」


 年嵩の魔族種男性がナナに問う。

 確か、あの魔族は北方の守備を司る皇帝派の重鎮ジェミラ伯オレーク。


「はい、でも元から富は領主のものでは無く、領民全体のもの。引いては帝国全部の民のものですの。領土一部が損をしても国全体が富めば全く問題ないですわ。それに少々損をしても領民の暮らしを守るくらいは確保させて頂きますけれども」


 ナナは、堂々とおそらく自分よりも20倍は生きているだろう魔族(オレーク)に話す。


「ほう、よく言った。ヒト族の小娘と侮っていたワシの負けだ。陛下、ワシは辺境伯夫人の案に賛成です」


 重鎮が賛成を言えば、議場では反対意見は言いにくい。

 何せ損をする側からの提案では、どう反対意見を言えば良いのかすら分からないだろう。


 ……あの、おっちゃん。計算してナナさんに聞いたのかな? まさか陛下の仕込み?


 僕は最高席に座る陛下を見上げた。

 すると、僕と視線が重なった時に「えっへん」という格好を一瞬した。


 ……はいはい、陛下の勝ちです。


「さて、ではその富の分配について具体的な案はあるのか?」

「はい、では皆様に分配計画を印刷しましたものをお配りします」


 ナナが合図をすると、マム、キャロリンやギーゼラ、フォルが手際良く議場に印刷物を配布した。


「これは!」

「はい、これからは地球との取引は中央を必ず経由し、富は一旦中央へ集約、そこから各地へ再配分されます。また地球企業や国家に都合よく扱われぬように、貿易条約を締結し、技術提供・供与に関しても取り決めを行います。その上、人権環境基準全てを地球と同一にすべく定め、こちらでも更に教育を行い地球に劣らないようにしたいと思っています。これは地球生まれであり、異世界とも多く触れたわたくし個人が経験から得た考えです」


 ナナは僕が出した案を更に膨らませて、異世界全体の向上をも考えた。

 コウタと共に多くの世界に触れ、誰とでも仲良くなった「聖女」。

 その案には、殆どの領主諸侯は文句も言えない。


「その案では、まるで帝国が地球にひれ伏すようでは無いか! それでは名高き帝国の名折れである。確かに大災害時には地球からの援助で助かった。しかし、それは一時的なもの。我ら魔族によって建国された名誉ある帝国は、ヒト族の作った国家などよりも高貴なのだ。地球なぞ文句を言うのなら、こちらから侵略すれば良い! 今までも他種族が支配する近隣諸国を襲い併合してきたではないか!?」


 そんな事を言い出したのは、西方の守護を司り広大な牧草地を有する地域を持つタカ派領主。

 冷徹な印象、顔に傷が多く左目に眼帯をしている魔族種壮年男性、近隣への侵略を禁止した陛下に反発を持つ反皇帝陛下の最大勢力だ。


「クレモナ伯グリゴリー、其方(そなた)には、これより良い案があるのか?」


 陛下は、ナナの案が書かれた用紙を指で摘んでぴらりとグリゴリーに見せる。


「う、今はございませんが、将来必ず帝国が地球を追い越す案をお出しします」


 グリゴリーは先ほどまでの剣幕をやめ、慌てて陛下に答えた。


「では、今のところは辺境伯婦人の案で構わないな。他のものも良いな?」

「ははぁ」


 まず、これで中間派の切り崩しへの一石を投じた。

 これがどう作用するのか、僕は見守るしかない。

 ナナちゃん、カッコいい!

 作者も惚れ惚れしちゃうです。


 では、明日の更新をお楽しみに。

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