第19話 新米捜査員は、皇帝陛下と作戦会議をする。その2
「ほう、金で無く、技術や情報を諸侯へ与えると」
地球文化を知った陛下であれば、また情報の大事さを知っている陛下なら僕の言っている意味が分かるだろう。
また儲けが分散されれば妬みが減るのも道理。
敵対するよりお互いに取引をした方が損が無いのだ。
「ええ、代わりに帝国からは魔法の理論、手付かずの地下資源、未知の動植物等を地球に売れば良いのです。もちろん、先日発生した悪徳業者による環境破壊は起さない様に、取り決めはしっかりとすべきですが」
地球側からすれば、エルフやドワーフのDNAマッピングデータですら飛びつきたくなる情報、夢の不老不死に近付くものだ。
その上、高等魔法には重力制御や核融合まで含まれる。
それが手に入れば物理学者が欲しがる統一場理論にも近付く。
また、この帝国がある惑星は、どうやら銀河系、天の川銀河では地球と反対側に存在するらしいから、天体観測データが揃えば、今まで欠損していた銀河系内のマッピングが完璧になる上に宇宙全体の観測には最適だ。
僕は、こちらから売り出せそうな科学的データをざっと陛下に報告した。
「僕は医学や天文学、物理学には素人ですが、ちょっと考えただけでこれだけの『売れる』情報があります。これをうまく使う事で、地球との取引はWin-Winの関係まで持ち込めるかと思います」
「余には詳しくは分からぬが、地球人の其方がそう言うのならばお互いに有意義な取引が出来よう。タケ、余の経済アドバイザーにならぬか? 地球との取引に、向こう側の事が分かるものがおると助かる」
陛下は再び僕を欲しがる。
異世界側よりの地球知識人が必要になるのも理解は出来る。
しかし……。
「陛下ぁ。以前から申しておりますが、タケはわたくしの部下なのよ」
「そうじゃ、タケは此方の婚約者なのじゃ。いくら陛下でもあげられぬのじゃ!」
マムとリーヤが早速陛下に物申す。
そして2人とも僕を両側から挟んでハグした。
その様子をウチの面子は、毎度の事とため息をこぼす。
「陛下、もう良いではないですか。タケ殿は、しばらくはこちらの世界に居られます。その間、定期的にお手伝い願った方が、お互いに損はございませぬ。しかし、陛下はいつも人の所有物を欲しがります。困った御癖でございますぞ」
側近のアレクは、苦笑いをしながら陛下に僕の取り扱いを進言なさってくれた。
「はい、僕はリーヤさんに一生仕えます。なので、こちらにもずっと居る予定です。その間は、いつでも陛下のお役に立たせて頂きます。だって、陛下は僕と遊び仲間でしょ?」
僕は、半分ふざけて陛下のお仕事を手伝う旨を言った。
「よう言ってくれた。余、いや、僕を手伝ってくれてありがとう。僕もタケとはこれからも友達でいたいから、宜しくね」
「はい!」
陛下は、気取った「皇帝」の仮面を取り払い、少年の顔で僕に手を出した。
僕は、差し出された陛下の暖かい手をそっと握った。
「しかし、タケはこんなに良い子なのに、コウタは実にケシカラン。僕の仕事を手伝う気が全く無いんだから。ナナ、僕からコウタには文句があるって言っておいてくれないか?」
「は、ははは。はいです。ちゃんとウチのバカ旦那に言い聞かせます。だって、結婚してから一ヶ月も継続してボクと一緒にいないんだもん。嫁孝行も陛下孝行もしない馬鹿なんだからぁ」
陛下は僕の手を握りながら、辺境伯へ文句を言う。
その文句に嫁も一緒になって苦情を言った。
「陛下、くれぐれもプライベートな場以外では、今のお姿を見せぬ様に」
「そんなの分かってるよ、アレク。僕だってたまには息抜きしたいし、皇帝って仮面を脱ぎたいよ。タケなら地球人、身分も関係ないし気楽に友達になれるもん」
アレクにラフに会話する少年皇帝。
その様子に皆は苦笑しながらも温かく見守る。
「そうじゃな、その点は此方も陛下と同意見じゃ。タケは、へいぼんでのほほんとしておる安心できる顔と性格じゃからな」
「うむ、その通り。見ていて気が抜ける顔が僕もいいなと思う」
リーヤと陛下、僕の顔を見て決して褒めているとは思えない感想を言う。
「そうだね、旦那とは違う方向性だけど、安心できるのは同じとボクも思うの。ね、リタちゃん」
「うん、お姉ちゃん。タケシお兄ちゃんは、今のままでいいと私も思うの」
「まあ、そこはわたくしも分かりますの。今はフェアが居ますが、ポータムでは寂しくて時々タケを可愛がっていましたわ」
「タケっち、こんなでもアタイの村を救ってくれた英雄だし、アタイは大好きだよ」
「アタクシには弟的なイメージしかありませんが、可愛いのは確かね」
「わたしは美味しいご飯作ってくれるし、いつも優しいタケお兄さん好きですぅ」
異種族姉妹にウチの女性陣が僕を妙な風に褒めてくれる。
……全員に共通するのは、僕って安心できる、という事だね。間違っても男前とか緊張しちゃう程美形って事は無いと。
今更ながら、自分の評価に困惑する僕であった。
「大変でござるね、タケ殿。ますます足抜け出来ない深い沼に踏み込んでいるのでござるよ。拙者同情するでござる」
ぼそっと日本語で話すヴェイッコの声が聞こえた。
……うん、リーヤさんだけでなくて皇帝陛下にも捕まっちゃったよ。母さん、僕、そっちには里帰り以外は帰れそうも無いです、ぐすん。
皆に可愛がられるタケ君でした。
ちょっと裏設定も公開しましたが、「古のもの」が高度文明を築いていた本拠は、遠い別銀河。
ポータムのある異世界は、天の川銀河全体へのハブ惑星という存在です。
では、明日の更新をお楽しみに!




