第17話 新米捜査員は、皇帝陛下と遊ぶ。
「ははは! 余の居る帝都でカツアゲをするなぞ、千年早いのだ! 助さん、格さん。こらしめて上げなさい! お銀もいけー!」
「御意でござる!」
「何で僕が格さんなのぉ!」
「アタイ、そんなにグラマーじゃないもん!」
今日も僕達は市場へ来ている。
しかし、買い物に来たのでは無く、皇帝陛下のお供&護衛としてである。
そして始まる大捕り物、というか時代劇ごっこ。
恐れ多くも陛下の目の前で、集団によるカツアゲをしていた馬鹿な悪ガキ達を懲らしめている最中なのだ。
「成敗、でござる!」
「ほいやー!」
「銃で峰打ちなんて出来ないよー!」
楽しく陛下のノリ遊びに付き合うヴェイッコ。
そして、文句言いながらも楽しんでいるギーゼラ。
僕も半分楽しんではいるものの、2人と違って接近戦は苦手。
ギーゼラからショットガン借りて、ゴム弾でなんとか相手をする。
「しかし、どうしてこんな事になっておるのじゃ? 確かにあの時代劇は面白かったのじゃが?」
騒動の後ろでボソッと日本語で呟くリーヤ。
「ちょ、リーヤさん。ぼーっと見ていないでサポートしてよぉ」
「そうだな。黄門様は、お供に他所の姫君を連れておった。リリーヤ、其方はその役をせよ!」
「陛下、御戯れを申されても、此方は困るのじゃぁぁぁ!」
リーヤは露骨に嫌そうな顔をしながらも、僕に迫りくる暴漢相手に軽く雷撃を飛ばしてくれる。
……陛下は半分遊びだから、ここで拒否しても怒りはしないでしょ。まあ、僕はお付き合いするけど。
「陛下、いい加減お遊びはこの程度になさって下さいませ。住民の方々に御迷惑でございます」
今日も陛下の御付は黒づくめの執事、アレクセイのみ。
このような陛下の「遊び」に他の側近が呆れているのか。
それとも陛下はワザと自らを「うつけ」っぽく見せて、他の側近を遠ざけておいて市井からの情報収集をしているのか。
……うん、おそらく両方だよね。なんか陛下の顔が生き生きして楽しそう。歳相応の幼げな笑顔しているし。
僕は楽しそうにしている陛下を見るのが嬉しくて、こうやって「悪い遊び」を手伝っている訳だ。
「アレクよ! お前も参加するのだ。さもないと、『うっかり』の役を回すぞ!」
「陛下、それだけは御勘弁を――!」
周囲の住民は陛下の活躍に、ヤンヤヤンヤと声援を上げていた。
「へいかー、やっちゃえー!」
「かわいーよぉ、へいかぁー!」
……この可愛い皇帝陛下、皆に愛されているね。
「よし、余も加勢するのだ!」
「へいかぁぁ」
アレクの悲鳴を聞かずに陛下も騒乱に乱入した。
「では、陛下。僕が支援致します。それじゃあ、ちょっと痛いぞぉ!」
僕もすっかり楽しくなって、陛下の横でショットガンを乱射した。
◆ ◇ ◆ ◇
「では、もう良いかな。格さん!」
「はっ!」
僕はショットガンを後ろに隠し、懐から印籠、じゃなくて皇帝の紋章が柄に掘り込まれた短剣を出した。
「ひかえ、ひかえおろう! この紋所が眼にはいらぬか? ここにおわすは現帝国皇帝、ミハエル2世陛下にあらせられる。皆のもの、頭が高い!」
……よし、時々「水戸黄門」見ていて良かったよ。芸は身を助ける……。って、僕なにやってんのぉぉぉ!
「ははぁ」
妙にノリの良い観衆達とボロボロになった悪ガキ共がひれ伏す。
「よいか、其方達の行った行為、よりにもよって皇帝の目前で犯罪を犯すという事は、本来であれば無礼討ちもありなのだぞ。今回は未遂ということで、これからたっぷり守備隊にしぼられるが良い。もう悪さするでないぞ!」
陛下はドヤ顔でカツアゲをしていた悪ガキ共に説教をする。
「はい、もうしませぇん」
涙目の上、真っ青な顔の悪ガキリーダー。
市場にいた気弱そうな旅行客を裏通りに連れ込んでカツアゲをしようとしたところを、よりにもよって何処かに「悪」がいないかと探していた陛下に見つかり、後は……。
間が悪すぎにも程がある。
これを期に反省して更生の道へと歩んでいって欲しい。
……というか、皇帝陛下自らの手でド突かれたら、怖すぎるよぉ。
おっとり刀で騒ぎを制圧する為にやってきた守備隊の方々、陛下の顔を見てびっくりするは、腰抜かしそうになるわ。
こちらもある意味可哀想だった。
……うん。大変な上司を持つと、お互い困るよね。
守備隊が悪ガキ共を連れていっている間に、陛下は横に居たオバちゃんと何かを話している。
どうやら何処にでもいそうな中年オバちゃんが、陛下の「草」らしい。
世直しやりながらの情報収集が、陛下の退屈軽減方法なのだろう。
……しかし、なんで僕達は陛下と「水戸黄門ごっこ」なんてやるようになったんだろうか?
◆ ◇ ◆ ◇
「ほう、これがその時代劇とな」
「はい、こちらの恰幅の良い方が八代将軍吉宗公を演じられています。市井に入る際には旗本、こちらでいうところの皇帝陛下直属の騎士になりますが、その次男坊、徳田新之助を名乗り、下町に行っては暇つぶしがてらに情報を集め人助けをして、その裏に居る大きな悪、この場合将軍家を倒そうとする人、住民に圧制をする領主、悪代官、悪商人などをバッタバッタと峰打ちで倒し、事件を解決する物語です」
僕達はヴェイッコが持ってきていたタブレットで時代劇専用チャンネルの番組を写した。
ちょうどタイミングがイイ事に「暴れん坊将軍」のオンデマンド放送があったのはラッキーだ。
「ほう! タケが言うように、この将軍とやらは、まるで余みたいだな」
我ながらざっとした説明だとは思うけど、それで納得してくれた陛下。
「これから最後のチャンバラ、戦闘シーンに入ります。かっこいい音楽をバックに切り合いをしだします。もちろん、お芝居ですので実際には切りませんが」
今回は街娘が襲われるところを吉宗が助け、その裏には不正な密輸組織の存在があり、そしてバックに長崎出島に繋がる高級役人、大商人がいた。
娘がさらわれ、それを助けに許婚が行くも、危機一髪!
そこにいつものテーマで現れる吉宗。
吉宗の顔を謁見で知っていた役人は、「こんなところに上様が来られるはずは無い」と毎度の死亡フラグ台詞を言って戦闘シーンに入ったところだ。
「おお、この役者。腰が入った良い動きだな。日本刀とやらは、余も一本コウタから贈ってもらったが、切れ味抜群だったぞ!」
ばったばったと敵を薙ぎ払う将軍様。
日本でも随一の殺陣を行える俳優、仮面ライダーの中の人とそん色ない剣術アクションが出来るのは見事だ。
……映画では仮面ライダーよりも強そうに見えたのは、内緒だぞ。
「これは楽しいのだ。余の戦闘時にも音楽が欲しいぞ!」
「陛下、さすがにそれは御戯れが過ぎますぅ」
黒執事、アレクさんも文句を言いながらも画面に釘付けなのが面白い。
「他にもこのような劇は無いのか?」
「そうですね、地味なものも派手なものも色々あります。古典的なパターンですと『水戸黄門』、現代的なら『必殺シリーズ』、歴史物語なら大河ドラマなどなど」
一時代、時代劇はゴールデンタイムを席巻した。
今のバラエティばっかりの番組よりも、こういうのが良いと僕は思う。
「古典の『水戸黄門』とは?」
「はい、これはさっきの吉宗公の時代から随分前、五代将軍徳川綱吉の時代に初代将軍家康公の孫、水戸藩2代目藩主の徳川光圀公をモデルにした人物が身分を隠して全国を行脚して同じように各地で事件を解決していく物語です」
「ほほう、これも面白そうだな。その徳川家とやら、今はもう絶えたのか?」
「徳川幕府自体はもう150年以上前に崩壊しました。しかし、初代からは傍流ですが、先ほどの吉宗公の子孫紀州徳川家や、尾張徳川家、そして水戸徳川家の子孫は現在でも沢山生きていますよ」
最後の将軍15代徳川慶喜は倒幕後、写真撮影を趣味に静かに余生を暮らし、大正2年77歳で世を去ったんだとか。
「タケやコウタの国は面白いな。以前の将を殺さずに、今も子孫が生きて居るとは」
「戦ったのは戦いましたが、どちらも国を、そして民を守りたいという気持ちは一致していましたので、無血開城しました。だから、無事に生き残ったのでしょうね」
幕末の騒乱、倒幕も尊皇も幕府維持も、すべては国家の維持、西洋列強から国民を守る為の戦いだった。
だからこそ、必要以上に血が流れるのをお互い嫌ったのではないかと僕は思う。
例えば豊臣家は滅んだけど、織田家は今にも残っているし。
源氏も直系は居ないけど傍流は一杯、平氏も落ち延びて多数生き残っている。
国内内戦だったからこそ、殲滅戦になりにくかったのかも知れない。
その後、陛下が水戸黄門にも嵌り、翌日僕達は「水戸黄門」&「暴れん坊将軍」ごっこに借り出されたのだった。
とっぴんぱらりのぷー。
皇帝陛下、時代劇に嵌るの回でした。
実際、上のものが全く市井を知らずに政治をするのはよろしくないのは古今東西毎度の事。
今の政治家の方々も、下々を守るべく動いて欲しいものですね。
では、明日の更新をお楽しみに。




