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第15話 新米捜査員は、皇帝陛下に謁見する。

「誰?」


 僕は、声の方向を見た。

 そこには、上品そうな貴族っぽい服に身を包んだ魔族種の少年がいた。

 ヒト種であれば中学生くらい、身長150cm程度の細身、真紅に見える立ち上がった赤髪と利発そうな琥珀色(アンバー)の瞳、優雅に巻く角、そして尊大な態度。

 魔族種らしい整った顔から、声変わりしたばかりの声が放たれる。


「店主よ、其方(そなた)は商品を盗まれたにも係らず、商品を返した少年を許し、そして恵みを与えた。まことに立派である!」

「ははぁ」


 地べたにひれ伏す店主を見て高らかに話した後、獣人少年を見る魔族種の少年。


「そこな少年、どうにもならぬ理由があったとはいえ、盗みは悪。もうそのような事に手を染めてはならぬぞ。しかし、己の間違いを認めて謝罪をし、更に感謝をした。その行いに店主は感動して其方を救ったのだ。今後とも、その心がけを忘れるでないぞ!」

「はい、ありがとうございます!」


 獣人少年は、びっくりした顔で魔族少年に礼をした。

 更に魔族少年はヴェイッコを見て話す。


「獣人の勇者よ。其方はこの2人を救ったのだ。その行いに()は最大の感謝と祝福を送りたい。名を名乗ってはくれぬか?」

「はい、拙者はヴェイッコ・スシ・カルヒと申します」


 ヴェイッコは、膝を付き、少年の前に(かしず)いた。


 ……この子、ものすごい魔力量だし、その雰囲気はタダものじゃないぞ。上級貴族? いや、そんなクラスの風格(オーラ)じゃない。


 僕らも思わず傅いてしまう。


「タケや、この御方は……」


 どうやらリーヤは少年の正体に心当たりがあるらしい。


「後の者達はヴェイッコの仲間か?」

「はい、拙者の大事な仲間でございます」

「そうか。では、皆これから余の元に来い。少々話がしたい。そこな少年よ。すまぬが後から使いを出すので、安心して待っておれ。妹君にも決して悪いようにはせぬぞ」


 いきなり魔族少年に呼び出された僕ら。


 ……この子は一体何者?


「あの方達、大変ね。陛下、イイ子なのにちょっと強引だから」

「ええ。でもこの街、いや帝都を守ってくださるイイ子よね、陛下って」

「陛下が街中まで見回ってくださるから、俺達安心だもんな」


 周囲のオバちゃん、オジちゃん達から小声が聞こえる。


 ……つまり、この少年の正体って!?


「ああ、エレンウェ(マム)にも使いを出しておく。リタ姫の件もあるから、其方達とはゆっくり話をしたかったのだ」


 ……あー!!! この子が皇帝陛下なのねぇ!!!


 なお、後日聞いたところでは、帝都の下町では飲み水の汚染により下痢が流行していたそうで、井戸の整備・浄化が行われ、問題の兄妹も無事助かったそうな。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「すいません、皇帝陛下に僕達が呼ばれるはずが、どうして神殿に陛下が来られているのでしょうか?」

「ん? エレンウェが子守で出向きたくないというし、リタ姫は宮廷料理は勘弁してくれと言う。なら、余が神殿に赴いて話をして、リタ姫お勧めの料理とやらを一緒に所望するのが一番合理的であろう?」


 マムに茶を注いでもらい、(くつろ)ぐ皇帝陛下。

 陛下の後ろには、側近なのか、執事なのか護衛なのか、良く分からない黒ずくめの魔族青年が涼しい顔で立っている。


 また、陛下の横にはちゃかり異種族姉妹(ナナとリタ)が座り、そのお付き(ルーペット)も姉妹の後ろに居たりする。


「それはその通りなのですが、ぼ、いえ私には陛下がお喜びになられる様な料理等は到底出来ません。また、お毒見も無しにお食事をされるのは危険でございます」


 僕は内心、頼むから無茶言わないでー、と思いながら陛下に話した。


「それは可笑しな話よ。リタ姫やナナ殿は、其方の料理を絶賛して居ったぞ。それに、ホレ。今、余はエレンウェが注いだ茶を毒見無しで飲んでおる。そのエレが信用し重用するタケシが、余に害するとは思えぬ。第一、その本人が毒見を要求するのだ。これ以上安全な事はあるまいて」


 陛下、実に優雅かつ威厳を持って茶を飲んでいる。

 その雰囲気は男子中学生っぽい外見とは、まったく似遣わない。


 ミハイル・ウラジーミロヴィッチ・オルロフ、異世界帝国オルロフ王朝の一子。

 第5代皇帝、通称ミハイル2世。

 幼い頃に父母を疫病で亡くし、前皇帝であった祖父も彼が成人を迎える前に崩御した。

 そして彼が帝位に付いた直後、あの次元融合大災害が発生し、その鎮圧に彼は八面六臂(はちめんろっぴ)の大活躍をしたそうだ。


 陛下が神殿に来られる前、僕は上記の事をマムやリーヤから聞いた。


 ……だからって、どーして僕が陛下にまで「ごちそう」をしなければならないのだろうか?


「マム、ちょっと何とかしてくださいな。マムが出向けないなんて陛下に言わなければ問題なかったですのに」

「え、タケったら。本当にそれだけの理由で陛下がこちらに来たと思っていたの?」


 マムは狼狽する自身の両親を横目に、フェアを膝の上であやしながら、なんでもない風に僕に話す。


「まあ、今までの話はお題目だな。本音を言えば、城内には何処に賊の手のものや『目』があるかわからぬ。ここ神殿であれば怪しい人物は入れない上に、エレの実家。これ以上、秘密の会談に便利な場所もあるまいて。のう、アレクよ」

「はい、陛下の言われる通りでございます」


 皇帝陛下は、後に立つ執事にも確認をする。

 どうやら、城内には色々と暗躍する勢力があるらしい。


 ……この坊や皇帝陛下、外見と態度は脳筋っぽいけれども、流石は帝国を率いる賢い面もあるらしい。


「まあ、料理に興味があるのは、本当だがな! ははは!」


 ……前言撤回、この子も欠食児童だ。


 あまりに残念な本音を聞いて僕は、ついため息をついた。


「では、ご期待ほどのモノが出来ますか努力いたします」


「うむ、励んだぞ!」


「タケシお兄ちゃん、がんばるのー!」

「タケシさん、ボク期待しているよー!」

「タケ、ふぁいとーなのじゃ!」

「アタイ、応援しているよー!」

「タケちゃん、ウチのフェアも食べられる料理を宜しくね!」


 僕は皇帝陛下と能天気な女性達に励まされて厨房へ向かった。


 ……もー、全員に絶対「うまいぞー」ビーム吐かせたるんじゃーー!!

 サブタイトルで台無しですね。(苦笑)

 そして皇帝陛下も残念欠食児童枠です。


 では、明日の更新をお待ち下さいませ。

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