第9話 新人捜査官は、事件解決を誓う。
「ユスタ様、少しで良いのでお話を聞かせてもらえませんでしょうか?」
僕達は子供部屋にいる姉弟に話を聞きに来た。
「う……」
しかし、お嬢様は僕を怖がって先程聴取をしたメイドのヘレナにしがみ付いている。
弟君のユリウスも姉のスカートにしがみ付いたままだ。
「まあ、しょうがないですよね。無理に聞くものでもないですから、お暇しましょうか、リーヤさん」
僕はリーヤに、日本語で帰宅する様に話した。
父親を亡くしたばかりの少女と幼児、屋敷には何人もの大人の人が入れ替わり立ち代り入ってくる状態では、心も落ち着きはしまい。
いくら僕が童顔とはいえ、男の人に近付かれたら怖がられるのもしょうがない。
事件当日、僕がDNA採取をしたので余計に怖がられている気もする。
……僕の父さんが亡くなった時も大変だったよね。そういえば佳奈もしばらく僕から離れなかったし。
「タケや、ちょっと待っておれ」
そうリーヤは僕に日本語で話すと、ユスタの前に近付いてしゃがみ、顔を見上げる形で覗き込んだ。
「ユスタ様、わたくしリーリヤと申します。仕事で貴方様のお父様について調べていますの。もし宜しければ、お父様がどのような方だったかお話頂けませんでしょうか?」
リーヤは、にっこりと笑いかけて、今まで聞いた事も無い風な丁寧な共通語でユスタに話しかけた。
……あんな話し方できたんだ。さすがは御貴族、領主様のお嬢様だよね。
「リーリヤ様? 貴方様はわたくしと歳もそう変わらないのにお仕事をなさっていらっしゃるのですか?」
「ええ。わたくし、魔族の血を継いでまして、これでも100年以上生きていますの。でも種族ではユスタ様と同じお子様ですのよ。だって、背もここ10年以上殆ど伸びていませんもの」
そう自虐気味に笑い、立ち上がって背伸びしてみせるリーヤ。
リーヤは、たとえ100歳越えていてもメンタリティは少女だし、その愛らしい容姿で話しかけられたら、怖がっている子も警戒を解くだろう。
「あら、そうなのですか。良かったらお姉様とお呼びして宜しいでしょうか?」
「ええ、リーヤとお呼び下さいませ」
「はい、リーヤお姉様」
先程までのこわばった表情が一転、にこやかな表情に変わったユスタ。
ふんわりとした赤みがかった金髪とそばかすが可愛い女の子だ。
情報によると11歳、サーの前妻の子になる。
「ユスタ様のお父様は、大変なお仕事をなされていたそうですね。地球との国交を結ぶのにご尽力なさったと聞いていますの」
「はい、お姉様。お父様はわたくし達にとっても大事な人でしたし、とても優しかったですの。お母様が亡くなられた時、お仕事が忙しいのにわたくしにずっと寄り添って下さいました。また継母様もその時以前から、わたくしを大事にしてくださいましたし」
過去を懐かしむユスタ。
その表情から見るに、両親や継母から愛されていた事が見受けられる。
……ほう、表情が乱れていますよ、ヘレナさん。
「継母様は、昔からお父様に仕えていまして、お母様が亡くなった後わたくしや家の事を面倒見てくださいました。そしてお父様とご結婚なさったのです」
「ユスタ様。失礼な質問になってしまいますが、貴方様はお父様が再婚なされるのを反対なさらなかったのですか?」
リーヤは、かなり不躾な質問をユスタにした。
「いえ。どうして反対する必要があるのでしょうか、お姉様? 継母様はわたくしにとっても元々第二の母でしたし、お母様も頼りになさっていたと聞いております。お父様が寂しくなさっていた時にも支えて頂きましたし、今では弟をわたくしに与えてくださいましたの」
ユスタは、なぜリーヤがそんな事を聞くのか不思議そうに答えて弟を抱きしめた。
ユリウス、淡い金髪の幼児、情報だと4歳らしい。
お姉さんに似て実に愛らしい。
「申し訳ありませんわ、ユスタ様。わたくし、世間の闇を覗き込み過ぎましたのね。でも仲が宜しいのなら良いですわ。これから大変でしょうが、皆様揃ってお元気でいらして下さいませ」
「お姉様こそ、お仕事ですもの。お気になさらないで下さいませ」
にこやかに笑いあう少女達。
良く見ると、ユスタの方がリーヤよりも身長も体格も大きい。
……この笑顔を守るのが僕たちの仕事だよね。
「ユスタ様、もしお困りの時はコチラに連絡して下さいませ。わたくしで出来ます事は何でも致しますから」
そう言って名紙をユスタに渡したリーヤ。
「ありがとう存じます。……、え、お姉様! お姉様のご実家は!?」
「まあ、そういう事ですわ。今は実家のゴタゴタがイヤで実質家出中なのですけれども」
リーヤの家名を見て驚くユスタ、そして苦笑して答えるリーヤ。
一代貴族とは言え、隣接領主の家名を覚えているとは、ユスタはかなり優秀なお子様だ。
……まあ、僕も最初はびっくりしたけどね。でもユスタちゃんに話す様に僕に話していたら信じていたよ。でもあの日本語会話で信じろというのもね。
「では、次にお会いできます時は、無事お父様の事を解決して吉報をお知らせしますわ」
「はい、お姉様!」
そう言って、リーヤと僕は子供部屋を離れた。
「リーヤさん。アレ、犯人か犯人関係者ですね」
「あそこまで露骨に表情に出てしまえば、言い逃れも出来まいのぉ」
執事が先導する廊下で、僕達は日本語で話す。
……後は、裏取りが出来ればチェックメイト。下町に聞き込みに言っているヴェイッコさん達の情報待ちかな?
「執事殿。申し訳ありませんが、この屋敷に勤める方々の個人情報をわたくし達に教えていただけませんでしょうか?」
「はい、ペトロフスカヤ様。後で纏めて捜査室でお持ちいたします」
後は皆が仕入れた情報を持ち帰ってからだ。