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第14話 新米捜査員は、街に買出しに行く。

「いってらっしゃい。多分大丈夫だけど、リーヤ。迷子にならないでね」

「いってくるのじゃ。しかし、マムや。此方(こなた)を子供扱いするでないのじゃ! 一応、ウチの中ではマム以外は此方より歳下なのじゃ!」


 今から僕達は帝都の市場に食料品の買出しに行くところだ。

 昨日、神殿の人だけでなく異種族姉妹(ナナ・リタ)にもご飯を作ったので、予定よりも食材の消費が多いのだ。


 ……野宿の分の消費もあるから、結構ピンチなんだよね。幸い、お米は多めに準備していたので大丈夫……、と思いたいなぁ。でも、皆パンよりは白米派なのには困っちゃうよ。


 マムは息子(フェアノール)の手を取り、振らせる。


「お兄ちゃん達、美味しいご飯の材料買ってきてくれるんだって。フェアはお母さんと一緒にお留守番ししょうね」

「はい、おかーたま。おにーちゃん、おいしいごはん、ありがとー。こんばんもつくってねー」


「うん、今晩もフェア君をびっくりさせるくらい美味しいご飯作るね!」


 小さくて可愛い子が応援してくれているのは、とても嬉しい事だ。

 荷物持ち&警備にヴェイッコを借りて、僕、リーヤ、キャロリンは市場へ向かった。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「うーん、この辺りは使えそうですね」


 僕は市場に並べられているキャベツもどきを持ち上げて重みを確認する。


「地球でいうところのケールとキャベツの間かしら。原種に近いなら苦そうだけど」

「そうですね。塩で下茹でしたモノを油で炒めるか茹でるのが良いかもですね」


 キャロリンはケールらしい野菜の葉を触る。

 ケールはキャベツの原種、結球しないもので青汁の原料に良く使われる。

 苦味が少々あって、キャベツよりはクセがある野菜だ。


「ネットによると肉との相性が良いので、それで行って見ましょう。あ、ベーコンとジャガイモ・玉葱とで煮込み料理に使うのも良いですね。リーヤさん。確か、こっちでもジャガイモは既に導入されていますよね?」

「うむ、美味しくて飢饉(ききん)に強い作物ということで、早い時期に地球から種芋が送られ、今では帝国全土で栽培されているのじゃ! 此方もタケの作る『肉じゃが』が大好物なのじゃ!」


 僕はスマホでケールを美味しく使えそうなレシピを調べつつ、リーヤに異世界でのジャガイモ事情を聞いた。


「たぶん既に指導が入っているかと思いますが、ジャガイモはナスやトマトと同じ仲間で、仲間同士の作物を連続で植えると連作障害といって苗が枯れたりするので、注意が必要なんです」

「念のためにお父様を通じて、国中に知らせておくのじゃ!」

「はい、昔地球のアイルランドで起こったジャガイモ飢饉は、こっちでは起きて欲しくないですものね」


 僕は、市場に並べられたジャガイモや玉葱を見て、良さそうなものを買い集めた。

 19世紀、アイルランドで主要作物であったジャガイモがカビの一種による疫病で枯れた。

 その後、人口の20%程が餓死や病死をし、多くの難民を生み出したと聞く。


「さて、肉類は今後を考えて保存性の高いベーコンやソーセージと、今晩のメイン用に鶏肉とかが欲しいですね」

「なら、肉屋はこっちの方ですわ。それらしい臭いもしますし」

「うむ、おそらくそうじゃな」


 キャロリンは綺麗な表情を少々崩し、リーヤも手で小さな鼻を摘んだ。


 ……いつ見てもリーヤさんの、その仕草可愛いんだけど。


 僕は苦笑しながら、沢山の野菜を抱えたヴェイッコを見上げて言う。


「ヴェイッコさん。重いでしょうが、もう少し御願いしますね」

「お安い御用でござる。タケ殿が美味しい食事を作ってくださるのでござるのなら、拙者いくらでも手伝うでござるよ!」


 僕らが肉屋の方向へ歩みだした時、大きな叫び声が前の方から聞こえた。


「これは何でござるか?」

「ヴェイッコさん、一応拳銃の準備を。キャロリンさん、リーヤさんも戦闘準備御願いします」


 僕は皆に戦闘準備を言い、自分も(SIG_SAUER)(P365)をホルスターから抜き、安全装置を解除した。


「では、いきましょう!」

「らじゃー!」


  ◆ ◇ ◆ ◇


「オマエ、盗んだものを返せ!」

「いやだー、これが無いと妹が死んじゃう! 妹は病気で今にも死にそうなんだ! お金なら働いて返すから、頼むよぉ!」


 目の前の路上では、卵を数個抱えたみすぼらしい10歳になるかならないか位の小柄な狸系獣人の少年が、興奮したヒト族の店主らしき人に棒で殴られている。

 周囲には、その様子を苦々しい表情で見守る集団で輪が出来ている。


「これは、どうしよう……」


 僕は、頭を抱えてしまう。

 盗みをした少年が悪いのは確か。

 しかし話からして、おそらくお金が無い上に妹に命の危機を感じてやむなく盗んだのだろう。


「うむ、困ったのじゃ。安直に助けて良いのものか?」

「ええ、今助けるのは楽ですが、今後ずっと面倒を見られる訳でも無いですし……」

「拙者、個人的には助けたいでござる」


 仲間達、口で色々言いながらも少年を助けたい雰囲気。

 僕も助けたいけれど、この世界のあり方に関与、それも僕の権限が及ばない帝都で行動をして良いものか、考えてしまう。


「とりあえず、殴られているのは辞めさせましょう。話は、そこからです」

「そうでござるな。では拙者がいくでござるよ」


 ヴェイッコは僕に荷物を渡し、拳銃をしまって路上で殴られている少年に近付いた。


「店主殿、そこまでにしておかねば少年が死んでしまうのでござる。少年も一旦、盗んだものを返すでござる。お互いに落ち着くのでござるよ!」


 ヴェイッコは、振り上げられた棒をひょいと掴み、店主の方を睨む。

 そして店主を怯ませた後、少年の方を見てにっこりと笑った。


 ……こういう時、ヴェイッコさんは頼りになるんだ。強面にも優しげにも出来るんだし、その大きな体格で睨まれたら大抵の人は怯んじゃうよ。


「あ、ああ。ボウズ、早く卵を返せ。そうしたら、何も無かった事にしてやる。しょうがないから金を持ってきたら売ってやるさ!」


 少し落ち着いた店主は棒を離し、少年に商品を返すことを促す。


「さあ、まずは返すでござる。詳しい話は、その後に拙者達が聞くでござるよ」


 ヴェイッコは優しい表情で少年に話した。


「う、うん。おじさん、ごめんなさい。なんとかしてお金を集めるから、その時は卵売って下さい」


 少年は店主に卵を返し、深く頭を下げた。


「し、しょうがねぇなぁ。あ、卵にヒビ入ってら。もう売り物にならねーから、お前が処分しな。そ、その代わり、次はちゃんとお金払うんだぞ」


 少年の素直な様子にバツが悪くなった店主は頭をかきながら、どう見てもヒビ一つ入っていない卵を赤い顔をしながら、少年が盗んだのよりも多く少年に渡した。


「え、おじさん!」

「早く持ってけ。その代わり、今後肉や卵を買うときはウチから必ず買うんだぞ!」

「うん、ありがとう。このご恩は一生忘れません!」


 少年は、再び深く店主に頭を下げた。

 その様子に、周囲で心配していた群集から拍手が起きた。


「お、おまえら! 本当ならウチは値引きなんぞ一切しねーんだからな! 見世物じゃねーんだ。おまえら、ウチの商品買えよ!」


 恥ずかしそうに叫ぶ店主。


「お兄ちゃんもありがとう。僕、どうしたら良いのか分からなくて、つい目の前の卵に手を伸ばしちゃったんだ。もうこんな事はしたくないよ。僕、どうしたらいいんだろう?」


 少年は、ヴェイッコにも頭を下げた。


「いやー、拙者はキミの様子を黙って見ていられたかっただけでござるよ。そうでござる、妹君が病気でござったな。ウチには医者がいるでござる。良かったら話を聞くでござるよ」

「良いんですか!」


 少年はそれまでシュンとしていたケモノ耳をピンと立てて、ヴェイッコを見上げた。


 ……まあ、こういう展開になるよね。でも、縁が出来ちゃったから、もう見てみぬ振りも出来ないし。僕達もコウタさんの事言えないや。


 僕は、キャロリンやリーヤと苦笑をしながら顔を見合わせた。


「もうしょうがないですよね」

「うむ、成り行きじゃが、人助けをせぬわけにはいかぬのじゃ!」

「問題は、医薬品の備蓄かしら? そう沢山持ってきてないのよ」


 リーヤもキャロリンも少年を助ける方向で考えている。


「では……」


 僕が話そうとした時、凛とした少年らしい大きな声が聞こえた。


「その(ほう)ら、まことに見事である!!」

 タケ君達、警官なんてやっているので、基本全員お人好し。

 困っている人を放置できないんです。

 コウタ君も大概だけど、キミ達も良い子だよ。


 さて、最後に出てきた、妙に威厳のある少年の正体は如何に?

 明日の更新を乞うご期待!

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