第13話 新米捜査員は、神殿で食事をする。
「いただきまーす」
神殿の皆様の分も頑張って料理を作った僕である。
……20人分のご飯作成はしんどかったよぉ。簡単な料理でこれとは……。
やはり遠出で沢山の人数のご飯を作るのには野外炊具が必要だ。
マムに頼んで自衛隊から中古でいいから2号を回してもらおう。
あれなら50人分は大丈夫だし、今後の災害時にも温かいご飯を食べられるのは良いはずだ。
……あれぇ、僕は何を考えているんだろう。本来なら検査機器の購入を優先すべきなのに、フィールドキッチンを要求するなんて。
僕は脳内で思いついた事をいったん却下した。
……よし、部隊の装備ではなくて警備隊全体の装備で要求しよう。それなら1号でも頼めるし。
より悪化したような気がするが、美味しいご飯を前に余分な事は考え無い事にした。
「毎度毎度美味しいのじゃぁ!」
「お肉も美味しいし、このスープがお腹の中から暖かいわね。フェア熱いから気を付けて食べるのよ」
「はい、おかーたま。おいしいですぅ」
「拙者、まだ勤務中なのが惜しいでござるぅ。次回は非番の時に熱燗込みで作ってもらうでござるよぉ」
「この野菜わたしが切ったのね。このスープ簡単みたいだから、そのスープの元を何処で買えるのか教えてくださいね、タケお兄さん」
「ワタクシが味付けしたのですから、美味しいのが当たり前ですの。市販品でも使い方次第なのね」
いつもどおり、ウチの方々&フェアには大好評だ。
「モリベ様、この味はどうやって出しているのですか? こちらでも市井よりは素材を吟味して料理をしておりますが、なかなかここまでの味は出せません」
神殿の調理担当の男性が僕に聞きに来る。
「僕の料理の基本は調味料と出汁、西洋風に言うならフォンやブイヨン、ストックです」
僕は科学的に料理を説明する。
「人の味覚を刺激するものは、甘味、酸味、苦味、塩味の他に、うま味というものがあるんです。これは難しい地球科学用語でいうところのアミノ酸という身体を作っている成分からなっていて、身体が欲しがる味なんです」
調理担当だけでなく、女性の神官やウチのチームの皆も、僕の話に聞き耳を立てる。
「肉や魚や海草、茸を茹でた汁にはアミノ酸、うま味が沢山含まれています。このうま味を出す素材を複数組み合わせる、あわせ出汁にする事で、違うアミノ酸が混ざり合い複合作用でより美味しいものになるんです」
ふむふむと頷く皆。
確か、ウチのチームには以前説明した記憶がある。
「この出汁をスープのベースにしたり、他の料理のうま味を増す為に使うと塩分が少なく美味しいものが作れます。僕が今回使ったのは地球で作られている市販のスープの元です。本当なら時間さえあれば、素材を選んで最初から作るのですが」
「いえいえ、十分美味しいです。この市販品は私共で入手する事は可能ですか?」
僕の説明を聞き、スープの元の入手方法を聞く調理担当。
……楽して美味しいご飯を食べられるのなら、そうしたいよね。
「ポータムでは買えるのですが、帝都では地球の商品は少し難しいかもです。ただ、作り方や素材の入手方法はわかりますので、今晩中にでも印刷してお渡ししますね。スープストックは冷暗所に蓋をしておいて、使う前に加熱すれば2日くらいは保存できますので、朝から昼の間にでも作っておけば、夕食の材料や翌朝や昼のスープとかに使えますね」
「ありがとうございます。ある程度日持ちするなら、調理担当としても助かります」
僕の提案に安堵する調理担当のハーフエルフ兄ちゃん。
……こうやって皆の舌を肥やすと大変だろうけど、料理人としては、食べた人が美味しいと喜んでくれるのは見たいよね。こういう思考しちゃうから、僕は料理人として扱われちゃうんだけどねぇ。
「あれ、ちょっとすいません。はい、モリベです」
そんな時、突然僕のスマホに着信がある。
そこに表示された電話番号は、先だって番号交換したナナの物だ。
「タケシさーん! こっちのご飯美味しくないよぉ。そっちに、ご飯残っていないー?!」
「タケシおにーちゃーん、わたしにもご飯ちょーだい!」
ナナ達からの電話は、宮廷料理に対する不満であった。
毒見をしてから食べる料理は冷めており、また味付けがかなり濃いらしい。
その上、まだフォンの活用が殆どなされていないので、日本の味付けに慣れた異種族姉妹にとっては、とても苦痛らしい。
「余裕を持って作ったから、3人分くらいならなんとかなりますけど?」
「じゃー、今から朧さんに送ってもらうから、そっち行くね。あ、場所は中央神殿だよね。だいじょーぶ、朧さんなら内緒でこそっと転送してくれるから!」
僕の返答も待たずに、ナナは「がちゃり」と電話を切った。
「まあ、しょうがない姫様達だこと。まあ、タケちゃんのご飯食べたら宮廷の冷めた料理は美味しくないわよね」
「それはそうじゃ! 此方でもタケのご飯の方が上品な宮廷料理よりも美味しいのじゃ!」
スマホから聞こえたナナの叫び声で状況を把握したマム。
その横でうむうむと頷くリーヤ。
それを不思議そうに見上げる幼児であった。
「では、城の様子を聞くのを兼ねてお呼びしましょうか」
「はい。って言うか、多分もうすぐ来ると思いますけど」
僕がマムに苦笑しながら答えた次の瞬間、神殿食堂の壁に突如ドアが現れて、欠食姉妹が飛び出してきた。
「あー、美味しそうな匂いだぁ! 醤油に白米ばんざーい! ボク日本人でよかったぁ!」
「鶏がらスープもあるっぽいよ、お姉ちゃん!わたしも、日本人になってよかったー!」
「お2人とも、高貴な立場を忘れてはならぬのじゃ。まあ、私めも日本食に慣れましたので、助かりますが……」
◆ ◇ ◆ ◇
「おいしーよー! ね、リタちゃん」
「そうだよねー! お姉ちゃん」
「食事中は口に食べ物を入れてお話しするのはいけませぬ。しかし、この根菜のスープは身体が温まりますのじゃ」
確保していた料理やご飯をバクバクと食べる3人。
「そ、そんなに宮廷料理はダメだったのですか?」
マムは、苦笑しながら2人に聞いた。
「肉料理が冷めて、油が白い膜になっていますし、香辛料をバンバン使うし、塩分多いし。もう少し繊細な料理を作って欲しいですね。タケシさん、今度宮廷に料理教室に行きましょう! 絶対、好評ですよ」
ナナは箸を休めずに、僕に宮廷での料理教室を提案する。
「すいません。流石にそれはご勘弁を。マムの実家の神殿で料理教室をするのとは違いますよぉ」
僕は半分悲鳴を上げてナナに抗議をした。
「で、姫様達を襲った犯人について報告はありましたの?」
「エレンウェ様、それは何も説明なかったですの。陛下も何も言われていませんでしたわ」
リタの話だと、襲撃自体が何も無かった風になっているらしい。
「皇帝陛下が列席なさっていたのですか?」
「はい、正式な国交樹立前のレセプションという扱いでしたので」
どうも暗雲消えぬ帝都を感じる僕達であった。
欠食乙女達には笑っちゃいます。
しかし、帝都には何かが暗躍しているのを、皆が感じ始めています。
では、明日の更新をお楽しみに。




