第11話 新米捜査員は、神殿で幼児に出会う。
「私を騙したのか?」
「あら、そちらこそ雇った人を口封じするんですもの。先に騙していた人を騙し返して何が悪いのかしら?」
男が吼えるのをマムがあしらう。
「さて、大人しく捕まってくれませんか? 今なら痛くしないであげますわよ」
僕とヴェイッコは男達が混乱している間に隠してあったPDWを取り出し、構える。
マムも隠してあった細身の剣を抜き、男たちの目前に突き出した。
「お、おまえらこそ! こっちの方が人数が多いんだぞ。おい! 一気に襲え!」
男は狼狽して叫ぶ。
その声に、兵士達は僕達を取り囲むようにして飛び掛った。
「『昏睡雲』じゃぁ!」
その時、ギーゼラの作った影の中に一緒に潜んでいたリーヤが影から顔を出して呪文を唱えた。
「なにぃぃ……」
男たちの周囲に霧状のガスが発生し、バタバタと倒れていく。
「く、くそぉ……」
「この往生際が悪いのじゃ! はよ気絶するのじゃ!!」
リーヤは最後まで呪文に抗していた、上品っぽい男の頭を頭上からハリセンでどついた。
「きゅぅぅ……」
スパーンと良い音がして最後の一撃で気絶する男。
……何故にハリセン?
「これで一網打尽ね。キャロリン、フォルちゃん。馬車の方は押さえたの?」
「はいですぅ。すでに全員文字通り固めてますぅ」
壊れた窓越しに外を見ると、接着剤らしいもので身動きできないように固められた馬車に従者、馬がいる。
……お馬さん、少し可哀想。後でお馬さんは助けてあげなきゃね。
「では状況終了ね。朧さん、もう良いわよ」
「はい。ナナ様、リタ様、ルーペット様。もう終わりましたよ」
虚空から転移してくる朧。
彼の横に突然扉が発生し、そこからリタ達が出てきた。
「向こうから見ていましたが、案外一方的でしたの」
「うん、もう少しドンパチあるとボクも思っていたよ」
「姫様達、コヤツらは生かして吐かせる事もおおいでございますから、虐殺するわけにもいかないでございます」
その可愛い外見に似合わず過激な面がある異種族姉妹。
どんな状況でも落ち着いているのを見るに、踏んだ場数の多さを感じる。
……僕も、せめてこれくらいの落ち着きを持たなきゃね。
「では、後は……。ごめんなさい、朧さん」
「……エレンウェ様、了解致しました」
マムに頼まれて苦笑する朧、
僕達は捕まえた総勢18名の扱いに困り、再び朧に収容を頼んだ。
◆ ◇ ◆ ◇
「どうも旅の間の警護、ありがとうございました。また式典中や帰りにも宜しくお願い致しますね」
「ボクからも感謝致します。道中楽しかったですし、ご飯もすっごく美味しかったです。また帰りにも一杯楽しいお話しましょう。ね、リーヤちゃん!」
「リタ様、ナナ様。今度は皇帝陛下相手でございますぞ。そろそろ気を引き締めて下さいませ」
僕達は、あの後は何事も無く、無事帝都に到着した。
そして、僕達はリタ達と城の前で別れた。
なお、朧に捕まえてもらっていた犯人達は皇帝陛下直属の治安維持部隊に引渡し、これから厳しい事情聴取が待っているらしい。
「襲ったにも係らずお命を助けてもらってありがとうごぜいやす。このご恩は一生忘れませぬ」
最初の襲撃犯のおっちゃん達、僕の予想通り自分達が殺される予定だった事を知り、脚を引きずりながら兵士の方々に連れて行かれる前に、僕達へペコペコと頭を下げていた。
「マム、とりあえずは一件落着ですね。しかし、一体どの勢力がリタ姫を狙っていたのでしょうか?」
「そうね、詳しい事は後からある程度は教えてもらえるでしょう。では、わたくしたちは、帝都中央神殿へ向かいます。今晩からは、そこで泊まりますの。3日後の式典での姫様達の警備までは各自休憩です。タケちゃん、またご飯宜しくてよ」
「わーい、タケのご飯じゃぁ!」
「おー!」
僕は、マムやリーヤ達の喜び具合に苦笑した。
「わたしも、そっちのご飯の方がいいよぉ」
「ボクもタケシさんのご飯食べたいよー」
遠くからリタやナナの声が聞こえた気がする。
しょうがないけど、気のせいにしておこう。(笑)
◆ ◇ ◆ ◇
「おかーたまぁ!」
「ふぇあぁぁ!!」
マム目掛けて、地球人で言ったら幼稚園児年少くらいに見えるエルフの男の子が泣きながら一生懸命走ってくる。
マムもその子に向かって泣きながら走って行き、2人がっしりと抱き合った。
「ふぇあ、ふぇあ! おかあさん、ずーっと会いたかったのぉ」
「おかーたま! ぼくも、ずっとずうーっとおかあーたまにあいたかったのぉ」
男の子はヒッしとマムに抱きつき、その豊かな胸に顔を擦り付けている。
マムも男の子をしっかりと抱きしめ、その頭に顔をすりつけ香りを吸っている。
「あー、この匂い。ウチの子の匂いよ。タケとも少し違うけどやっぱりウチの子が良いのぉ」
マムはあらぬ事を叫んでいるが、僕達がその様子を温かく見守っていた。
ここは、マムの実家、帝都中央神殿である。
「リーヤさん、マム良かったですね。久しぶりに息子さんに会えて」
「そうじゃのぉ。やっぱり親子一緒が一番なのじゃ!」
リーヤは目に涙を一杯貯めて、マム親子の様子を眺めていた。
「ぐすん、良いよなぁ。アタイも今度里帰りしたらお母ちゃんに親孝行しなきゃ」
「拙者も近いうちに休暇を貰って里帰りするでござるぅ」
「アタクシも今晩、両親に電話しますの。すっかり帰っていないですし」
「皆さん良いですねぇ、親御さんがいるのは。わたしには、2人とも、もう居ないんです」
仲間達、皆それぞれ親の事を思い出していた。
「フォルちゃん、僕も父は居ないんだ。それに、ここは随分と実家からは遠いよ。でもね、僕はもう寂しくないんだ。だって、捜査室の皆が仲間であり、家族だもの」
「うん、そうだよね。マムはお母さんだし、皆はおにーさん、おねーさんだもん」
「そうなのじゃ。フォルはウチの末の妹なのじゃ!」
僕は、寂しがるフォルを慰め、更にリーヤは背伸びをしてフォルの頭を撫でた。




