第8話 新米捜査員は、小鬼達を蹂躙する!
「グレネード、ファイヤー!」
マムの宣言で、僕達は射撃を開始した。
弓矢を撃とうとしているゴブリン達の頭上にグレネードの「雨」が降る。
激しい爆発音と共に、ゴブリン達が空に舞うのが見える。
更に火炎球も、慌てるゴブリン達を焼き払う。
……ヴェイッコさんだけでなくて、シームルグ号の無人砲台からの砲撃もだから、ひとたまりも無いよね。ダメ押しリーヤさんで、一方的勝利だよ。
しかし、爆発の中から狼らしき動物に跨ったゴブリン、俗に言うゴブリンライダーが飛び出してきた。
……ほう、少しは根性があって頭があるゴブリンも居るんだ。その通り、危険域を駆け抜けるのは悪くない策だよ。でもね……
「続いて射撃開始!」
「アイ!」
マムの命令で、ヴェイッコは軽機関銃、ギーゼラがPDWを撃つ。
更に無人砲台から重機関銃が吼え、ゴブリン達は僕達に近付く事もなく、全て虐殺されていく。
「タケ、そろそろバカを無力化してね」
「はいです!」
僕は、スコープの中心に慌てふためく馬鹿たちを捕らえた。
◆ ◇ ◆ ◇
「おい、話が違うぞ! なんだアレは?」
「ああ、ゴブリン達が一瞬で全滅だ。アイツらバケモノかよ」
「こんな事言っている間に逃げなきゃ、オレ達もアブネーぞ」
3人は、目の前で行われている惨劇に恐怖した。
予定では、弓矢で牽制している間にライダーで蹂躙、混乱しているうちに邪魔者を殺し、目的のオンナ共だけ回収する予定だった。
しかし、一瞬のうちに30匹ものゴブリン共は爆炎と煙の中に消えてしまった。
「こ、こんな事があるのかよぉ」
「は、早く逃げなきゃ!」
「もうオレは逃げるぞ!」
1人が振り返って逃亡しようと走り出した瞬間、その右膝が破裂した。
「ぎぃやぁぁぁ!」
右膝を抱えて悶える男。
「え?」
次の瞬間、疑問を呟いた男の左膝も破裂する。
「ひぃぃぃ!」
1人残った男は倒れ伏し痛みに悶える仲間を見て、硬直する。
「オレ達は、とんでもない悪魔を敵にしていたのか……」
そして彼の右膝も破裂した。
◆ ◇ ◆ ◇
「ふぅぅ。マム、3人とも膝撃ちで無力化できましたよ」
僕は殺さずに無力化で来た事に安堵しつつ、マムに報告した。
「タケちゃん、お見事ね。フォルちゃん、敵の様子はどう?」
「はい、ゴブリン達は粗方殲滅、残った数匹は北西の方向へ敗走していますぅ。後方のヒトは倒れていますが、今のところ命に別状無し。このまま捕まえて尋問兼ねて応急処置でいいですね。センサー範囲内に他の敵の動きなし。状況終了ですぅ」
対人レーダーやドローンなどからの情報を集約してマムに報告するフォル。
今回もフォルの情報支援と砲撃で、僕達は楽勝だった。
「ありがとうね。では、ヴェイッコとギーゼラは残敵の始末、わたくしとキャロリン、タケでバカを捕まえに行きましょうか。リーヤとフォルは姫様達を警護宜しくね」
「アイ、マム!」
僕達は、それぞれ戦場の後片付けに行った。
「わたし出番なかったのぉ」
「リタちゃん、それはボクもだよー」
「お2人とも落ち着いてくださいな!」
……可愛いのに物騒な姉妹だことね。
◆ ◇ ◆ ◇
「ねえ、貴方達。一体、誰に雇われてわたくし達を襲ったのかしら?」
マムは冷たい表情で、縛り上げ地面に転がした3人を見下す。
「た、助けてくれぇ。早く手当てしてくれ。じゃないと足がぁ」
「そうだ、早くしてくれぇ」
「痛てえ、痛てえよぉ」
3人とも助かりたい一身で、手当てを要求する。
「あら? 其方からわたくし達を襲ってきたのに、そんな態度を取るのかしら? 貴方達は」
「ええ、そうですわね。こんなバカ、野原に放置して野犬にでも食われたらイイのに。ワタクシ達は急いでいますのよ」
「ですね。情報も一切吐かないのでは、都まで連れまわすのも面倒ですから、ココで後腐れなくヤっちゃうのも手ですね」
僕は、彼らにライフルの先につけた銃剣を押し付けて脅した。
……たぶん近代銃を見たことないから、銃を押し付けても怖がらないよね。
「ひ、頼む。知っている事は全部話すから命ばかりは……」
「ああ、街で俺達を雇った仲介役が言うには、頼んできたのは中央の役人とか言ってたぞ」
「エルフの姫とヒトのオンナを奪ってこいって。生かして連れてきたら倍額を払うって言ってた!」
……ふむ、中央にリタ姫やナナさんを煙たがる、つまり辺境伯に恨みでもある人がいるって事だよね。人質にでもする気だったんだろうか? でもそうなら、こんな不確実な手は打たないよね。博打すぎる。
「なら、街道の橋を壊したのも貴方達かしら?」
マムの問いに3人は慌てて答える。
「いや、オレ達は姫を捕まえる事以外は知らねー」
「後から姫を迎えにくるのが居る。そいつの方が詳しく知っているはずだ」
「だから、早く手当てしてくれぇ! 足がぁ」
……こりゃ、ただの嫌がらせだな。リタさんの魔力を知っていたり、僕達の実力を知っていたら、こんな奴らでは勝負にならない事は承知のはず。そしてもし成功した場合、コイツらがどうなるかなんて……
「もう知っている事はこれで全部ですか? 隠している事は無いですか?」
僕は銃剣を男の顔に付きつける。
「いーや、全部話した。迎えは明日、この先の街に夜来る。だから助けてくれぇ」
男の表情は必死だ。
「マム、これは本当でしょうか?」
「そうねぇ、つじつまは大体合うけど。襲う相手の目的が見えないわね」
「こんなゴロツキでワタクシ達を襲う時点で、戦力の読み間違いですもの」
僕の日本語での問いに、マムとキャロリンは僕の予想と同じ事を話す。
「では、しょうがないので命だけは助けますか?」
「ええ。ホント、バカ殺すのも嫌だしね。顔確認の為にも生かしておかないと」
「では処置しますね」
僕は2人の許可を聞いて、縛られた男達に共通語で話した。
「キミタチ、運が良かったね。今後の顔確認もあるから生かしてあげる。神妙にしなさいね。別の意味でも運が良かったよ。もし姫様を連れて迎えに来た人に渡しても、キミタチは死亡確定だったもの」
「え、それはどういう意味だ!」
男達は、僕の言葉に驚く。
「だって、キミタチは色々知りすぎているもの。こうやって今でも僕達にも情報を話しているでしょう。今後、自分達の情報が漏れる事無いようにキミタチを口封じするに決まっているじゃない。僕がワルモノならそうするよ。トカゲの尻尾切りってね」
「そ、そうか」
僕の非道かつ合理的な答えに納得する男たち。
こんなバカだから簡単に騙されるのだ。
虐殺ショーになっちゃいましたね。
近代火力相手では、魔法使わないと勝負にならないでしょう。
では、明日の更新をお楽しみに。
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