第7話 新米捜査員は、深夜に夜襲を受ける!
「えー、お兄ちゃんの何処が良かったのですって!」
ナナが頬を染めながら布団の中でもがく。
「お姉ちゃん、もーコウタお兄ちゃんは、お姉ちゃんの旦那様でしょ。いつまでも、お兄ちゃん呼びは変じゃないの?」
リタは、ニタニタと姉の様子を見ている。
「此方は、英雄とも呼ばれる人物の事が気になるのじゃ。聞けば聞くほど、コウタ殿はバカとも言えるお人好しなのじゃ。ウチのタケもイイ加減お人好しじゃが、更に上回るのじゃ!」
わたくしは、シームルグ号内に仮設された寝室で、異種族姉妹と一緒に雑魚寝でいる。
どちらもタケより少し歳下らしいが、童顔のタケと比べても遜色なく幼げを残した、しかし美しい風貌で、とても可愛らしい女性達だ。
……此方よりは胸は、かなり大きいのじゃがな。
「うん、コウタさん。あー、言っちゃった、ボクはずかしーよぉ!」
「お姉ちゃん、イイ加減お兄ちゃんを名前で呼ぶの慣れないの? 後、ボクっていうのも、大人なんだから恥ずかしいんだよ?」
ナナは両手で両頬を覆い、首をフリフリしながら恥ずかしがる。
ソレに対して、リタは姉を抱っこしながら、いちゃつく。
「ボクね、コウタさんとは従兄妹同士で生まれた時からずっと一緒にいたの。いつもボクを助けてくれて、ある時なんて邪神相手にタンカ切ってボクを守ってくれたの!」
頬を真っ赤に染めるナナ。
それを羨ましくも楽しそうに見ているリタ。
「そりゃコウタさんは、すぐに人助けだーって飛び出しちゃうんだけども、最後は必ずボクのところに帰ってきてくれるし、愛してくれるもん」
「お姉ちゃん、ご馳走様です」
……こりゃ、此方の想像以上じゃな。コウタ殿は皆の英雄である前に、ナナ殿の英雄なのじゃな。
「そういうリーヤちゃんは、タケシさんの事好きなんでしょ?」
「うんうん。リーヤちゃんてば、わたしにも焼餅するんだもん、かなりだよね」
姉妹は、わたくしにぐいぐいと迫ってくる。
……いかぬ、風向きが急に変わったのじゃ!
「う、そう言われれば、此方はタケを好きなのじゃろうな。此方も何度もタケに命を救ってもらったのじゃ。ある時は震えながら此方を背中に庇い、ある時は此方に迫る砲弾を撃ち落としたのじゃ!」
「あーん、イイよぉ。そういうスリルとラブロマンス!」
「いいよね、お姉ちゃん。わたしにも早くそんな白馬の王子様来ないかなぁ!」
わたくしの発言に、身もだえする姉妹。
「でも悲しいかな、此方とタケでは寿命が大きく違うのじゃ。どうしてもタケの方が先に居なくなるのじゃ。これが悲しいのじゃ。それに此方は、この通り幼子の姿じゃ。どうやってもタケとは釣り合いにならぬのじゃ!」
わたくしは、普段は心に秘めた悩みを話してしまう。
この優しくて温かい姉妹の前では、本音をつい言ってしまいたくなるのだ。
「命の違いは、どうにもならないよね。でも今を大事にして一緒にいたらイイと思うよ。だってボクとコウタさんでも10歳は歳が違うもの。多分コウタさんの方が先に逝っちゃうの。でもね、コウタさんをボクが必ず看取れると思ったら、楽になったのよ」
ナナは、「ひまわり」のような温かい笑顔で、わたくしの両手を包むようにして握る。
「だって、コウタさんがボクを失って悲しむ姿を見なくていいんだもん。ボクは悲しいかもしれないけど、コウタさんの、お兄ちゃんの泣く姿はあんまり見たくないよ。まあ、これまでお兄ちゃんの泣く姿は結構見ちゃったけどね」
小さく舌を出して恥ずかしそうにするナナ。
その一言は、わたくしの心に刺さった棘を溶かした。
「そうか、此方は必ずタケを看取れる。最後までずっと一緒に居れるという事じゃな。うむ、ナナ殿、リタ姫、アリガトウなのじゃ!」
「あーん、リーヤちゃんかわいー。話し方なんてチエ姉ぇにそっくりだけど、まだまだお子ちゃまで、たまんなーい!」
「お姉ちゃん! リーヤちゃんは、わたしのだよー!」
わたくしは姉妹にぎゅっと抱かれてしまう。
……こんな警備も、たまにはイイのじゃ!
わたくしは、温かさと優しい匂いにつつまれて、警備も忘れいつしか姉妹の真ん中で眠りについた。
◆ ◇ ◆ ◇
「おめーら、準備いいか!」
「へいでさぁ。ゴブリン使い、おめーはどうでい?」
「だいじょうぶでさぁ。しっかし、予想だと川沿いにキャンプするはずが、こんな水場も無い処に設営するなんて、あいつら素人かよ!」
3人の男達が足早に歩く。
その後方には小鬼共が群れをなして付いて行く。
「手始めにゴブリン共が弓矢で牽制、ゴブリンライダーが強襲、混乱したところでオンナ共を確保だ。雇い主はエルフにヒトの女を所望だ。それ以外は好きにしたら良いさ。話だと獣人にドワーフの娘はいるらしーから、そいつらはゴブリンにでもくれてやったらいい」
「へいでさぁ」
「荷馬車2台で10人、その内姫様ご一行が3人。こっちは俺達3人の他にゴブリンが30匹。最初から勝負になんねーんだよ。楽な仕事さぁ。その姫様っての『味見』してもイイのかよ?」
「そんな訳ねーだろ。やりてーなら獣人で我慢しな」
「へい」
下品な会話をしながら戦闘準備をする3人。
「さあ、ゴブリン共いけー!」
「きしゃぁぁ!」
奇声を上げてゴブリン達が遠くに小さく見える荷馬車へ攻め入った。
◆ ◇ ◆ ◇
「敵ゴブリンの集団が速度を上げて迫ってきます。小銃射程範囲まで後2分。攻撃準備を御願いですぅ」
僕達は戦闘準備を完了し、すぐにでも迎え撃つ準備が出来ている。
「後方のヒトらしいの3人が指揮をしているのね。逃がさないように監視を御願いね、タケ」
「はい、いつでも殺さずに確保しますね」
マムは、イルミネーターからの情報と暗視双眼鏡で指揮を行う。
今回もフォルがドローン等を展開して、情報収集をしてくれている。
……さて、今日もお得意の膝撃ち、肩撃ち、指飛ばしで無力化しちゃうぞー!
僕は、ボンネットにマークスマンライフルを設置し、ターゲットをスコープに捉える。
「では拙者達は、先行するゴブリンライダーの足止めでござるね」
「アタイも、今日は遠距離から撃つね」
「此方も撃ち放題なのじゃ!」
ウチの攻撃手達は全員ノリノリだ。
ヴェイッコは、僕と並んで4WDのボンネットに2脚を展開して、軽機関銃をいつでも撃てる状態にし、更にグレネードランチャーを構える。
ギーゼラも愛用のショットガンではなく、PDWを構える。
リーヤ、魔力を身体中に満ちさせて、いつでも暴れられるぞという構えだ。
「ボク達も攻撃しちゃダメ? せっかく手加減しなくてイイ相手なのにね」
「うん、お姉ちゃん。わたしも、どっかーんしたいの」
「姫様、ナナ様もくれぐれも御淑やかさをお忘れなく。お2人とも淑女なのですぞ」
アルフ組も殺る気満々なのには、笑ってしまう。
リタ姫は、一見玩具に見える魔法少女っぽいスタッフを両手で握っている。
ナナも、バックパックを開いて何かごそごそしている。
「姫様、ナナ様。今はお待ち下さいませ。最初から敵に手札を全部見せるのは悪手ですもの」
「分かりましたの、エレンウェ様。でも、このイルミネーター懐かしいね、お姉ちゃん。これチエお姉ちゃんが作った物の量産型だよね」
「うん、大分軽く作っているけど、チエ姉ぇのよりは機能が限られているっぽいの」
……なんか聞き捨てならない事を聞いた気がするのだけれども……。
「あのー、リタさん。チエお姉様って、もしかしてイルミネーターやら異世界でも通信できたりするスマホの開発者ですか?」
「うん、そうだよ。他にも転送ゲートとか色々作っているしね。でも、チエお姉ちゃんはそれだけでないもん。わたしなんかよりも、ずーっと強いもんね。ね、ナナお姉ちゃん!」
「そうだね、チエ姉ぇはすっごいもん!」
どうやら、僕は踏み込んではならない世界に更に脚を踏み入れてしまったらしい。
……一体、姫様やコウタさんの周囲には、どんだけ規格外な人物がいるんだよー!
「バカ話はこれまでよ。さあ、攻撃開始よ! 照明弾!」
「アイ、マム!」
そしてシームルグ号から照明弾が撃ち上げられ、深夜の戦場を照らし出した。




