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第6話 新米捜査員は、マムと一緒に夜更かしをする。

 僕がとりあえずで作った鍋料理を美味しく堪能した後、全員で交代しながら簡易シャワー室を利用して、夜の準備を始めた


「フォルちゃん、ギーゼラちゃん、キャロリンさん。ベットにお誘いせずに、ごめんなさいね。タケお兄ちゃん、ヴェイッコさんは警備御願いします。エレンウェ様も宜しくお願いします。では、わたし今から寝ますの。おやすみなさいませ」


「ウチの妹が無理言って、ホントにすいませんです。では、先に休ませて頂きます」


「皆の衆、すまぬのじゃ。此方は、このままリタ姫を身近で警護するのじゃぁ!」


 リタ姫はリーヤをぎゅーっと抱っこしたまま、上品に夜の挨拶をした。

 そして姉のナナは、妹の様子を恥ずかしそうに見ながら、僕達にペコペコと謝った。

 そして、リーヤは顔を赤くしながら、しょうがなく姫に抱かれる。


 きゃいきゃいしながら、3人はシームルグ号内に仮設された寝室へと入った。


「さあ、これからが警備活動本番よ。フォルちゃんとキャロは4時間半毎に交代でシームルグ号のC3システムで警備。休む人は運転席で御願いね」


「はいですぅ!」

「了解です」


 対人レーダや暗視システムを装備するシームルグ号。

 十分な発電・蓄電能力を持つので、夜間エンジンを切ったままでも空調や警備システムを稼動出来る。


 ……シームルグ号さえ無事なら、姫様は何があっても無事だよね。寝ずの警備もシステムがあるから楽だしね。


「わたくしとタケ、ヴェイッコとギーゼラはセット。4時間半交代で周囲の警戒をします。休む人は、男女別のテントで。ルーペットさんは男性用テントで先にお休みくださいませ」

「アイ、マム!」


「すいませんねぇ。私だけ楽させてもらって」

「いえいえ、お客様ですもの。ごゆっくりお休み下さいませ」


 ルーペットは、マムにすまなそうにしながら男性用に準備したテントへ入っていった。


「では、どっちが先に休みますか? 僕は、別にどっちでも構いませんけど」


「タケ殿、恨みっこナシのジャンケン勝負でどうでござるか?」


 僕の提案にヴェイッコがジャンケン勝負を申し出る。


「マム、ギーゼラさん。宜しいですか?」


「ええ、よろしくてよ」

「わんこサムライ、負けたら承知しねーぞ!」


 マムはにこやかに、ギーゼラも冗談半分で許可をしてくれた。


「じゃあ、行きますよ! 最初はぐー。ジャンケン、ポン!」


 「最初はぐー」

 これは、とある有名コメディアンが番組で日本全国へ広めたらしい。

 この方は、10年程前に世界全土を襲った疫病にて亡くなった。

 まだ70歳程で、それまで活動的に仕事をしていたのに。

 実に惜しい人を亡くしたものだ。


「ぱー!」

「ちょき、でござるぅ!」


 ……うー、負けたよぉ。酒の席とかだと頭が回らなくなるので、単純なパーやグーのどっちかになりやすい。なので、パーをすれば負け越しはしないという隠し業を使ったのに、その裏を読むとはヴェイッコさん、やるでござるな。


「ヴェイっち、でかした! では、マム、タケっち。アタイらはさっさと寝ますね。交代は深夜1時半で。おやすみー!」

「では、お先にでござる!」


 2人とも急いでテントへ向かっていった。


「では、タケ。ゆっくりお話しでもしながら、警備しましょうか?」

「はい、マム」


 今は午後9時。

 少し夜風が寒いので焚き火を絶やさないようにして、僕は風除けのポンチョを被った。


  ◆ ◇ ◆ ◇


あの人(オロフェア)が大災害で亡くなってから、わたくしは頑張ってウチの子、フェアノールを大事に育てましたの。オロフェアが亡くなった時、フェアはやっとオシメが取れたくらいで、それはもう大変でしたわ」


「そうですか。僕も、あの時父を亡くして母と妹が大変でした」


 ……マム、時々寂しそうな顔するものね。


 マムと僕、月明かりと焚き火の灯りの中、夜空を見上げながら警備をする。


「タケも大変だったわよね。その頃、タケはいくつだったの?」


「15歳で、高校一年生でした。妹は7歳で小学校に入ったばかり。しばらくは母や僕から離れませんでしたね」


 ……マム、遠い眼をするけど、エルフだからなのか、それとも母の顔だからなのか。とっても綺麗に見える。そして母を感じさせる甘い匂いがするよ。


「ウチもそうね。フェアは、わたくしから絶対離れなかったわ。でも、そんな頃に陛下直々、ウチの神殿宛にわたくしの召喚命令が来ましたの。ポータムに新たに設置される警察機構の代表になってくれって」


「陛下直々のご指名だったのですね」


「ええ、わたくし出産前までは陛下直属の神聖騎士団で副団長をしていましたのよ。あ、ウチの旦那、オロフェアが騎士団長でしたわ。とってもカッコよかったのですわ」


 マムは恋する乙女のような顔をする。


 ……なるほど、マムがべた惚れしたのね。


 時折、焚き火からパチパチという木が爆ぜる音がして火の粉が舞う。


「その時、陛下に会って直接お断りしましたの。今、わたくしは育児で大変ですって。あの人の忘れ形見をわたくしが育てないで、どうするのって!」


「そ、それは凄い事を陛下に言われたのですね」


「ええ、陛下ったらあの人と最後まで一緒に戦ったのですもの。それを考慮しないのは上としてダメですものね」


 ……マム、ものすごい剣幕で陛下に迫ったんだろうねぇ。不敬罪には……。まあ今、室長をしているんだから、それは無いよね。


「で今、室長をなされているって事は?」


「ええ、陛下ったら泣き落としに来ましたのよ。人材不足で()が頼めるのは其方(そなた)しかいないって。もう恥ずかしかったわ。まるで子供を泣かす親の気持ちでしたもの」


 マムは赤く染まる頬を両手で隠した。


 ……あれ? もしかして皇帝陛下って若いっていうか、案外幼いのか?


「専属の乳母や養育係を神殿に派遣してもらう事、毎日顔を見て話せるようにいつでも通信が出来るようにする事、そして季節ごとには里帰りを許可する事。これらをごり押しさせて来ましたわ」


「あら、では毎日スマホを見ているのは?」


「ええ、こっそりですけどウチの子の姿を撮影して送ってもらっているのと、夕方には直接お話していますのよ」


 ……マムって母性が強いんだろうね。ザ・母親って顔をしているよ。


「で、なんで僕はずっとマムの膝枕でいなきゃならないんでしょうか?」


 僕はマムの話を聞いている間、ずっとマムの膝に抱かれていた。

 半ばむりやりに膝に案内された僕、恥ずかしいったらありゃしない。


「だってぇ、タケちゃん。ウチの子と匂いが似ているんですもの。タケちゃんを抱っこしていたら、ウチの子と会えないのも我慢できるんですものぉ」


 話からしてマムのお子さんは、ヒト族でいうところの幼児くらい。

 片や、僕は成人してアラサーにもなる男。

 どこが一緒なのだろうか?


 ……僕、いつになったら「僕ちゃん」扱いから開放されるんだろーか?


 そんなこんなで深夜12時を越えた頃、妙な気配を僕達は感じた。


「あれ?」

「あら、タケちゃんも感じたのね。フォルちゃんかしら、今のC3担当は?」


 マムも何か感じたのか、シームルグ号のC3システムを呼んだ。


「はいですぅ。流石はマムですね。先程、設置センサーに反応がありました。現在敵の正体を確認中ですが、北北西、11時の方向距離1500m、対人レーダーに集団の反応ありですぅ。こちらに向かって接近中、現在の移動速度では接敵まで残り約15分!」


「では、全員起こしを! 戦闘準備!」

「アイアイ!」


 地球の月より少し小ぶりな三日月が照らす深夜、戦闘が始まろうとしていた。

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