第5話 新米捜査員は、エルフの姫様に翻弄される。
「なんじゃそりゃ! 此方は、話を聞いておらぬのじゃ!」
「ええ、そうですわね。わたくしの処にも情報無しですの」
リーヤとマムが文句を言っている。
「さて、どうしますか? 橋が直るまで待っているわけにもいきませんから、別ルートにしますか?」
僕達は、帝都へ繋がる街道にある大河を渡る橋の手前で立ち往生をしている。
「そうねぇ。大分遠回りにはなるんだけれども、それしかないわね。燃料や食料は大丈夫よね?」
「はい、大分余裕を見て買い込んでいましたし、冷蔵庫もザハール様のところで追加購入した食材で満載ですから、大丈夫ですね」
僕達はザハールのところで逗留した後、再び帝都への街道を進んでいる。
北へ進む街道、アンティオキーア領内は快適なもので石畳ながらちゃんと舗装されていたので、順調に旅は進んでいた。
しかし領内を抜けてしばらく進んでいた時に、事件は起こった。
「しかし、橋が壊れたとは、どういう事なのでしょうか?」
「そうじゃ、お父様は何も言っておらぬから、急な話に違いないのじゃ!」
リーヤは首を傾げる。
……ザハール様の事だから、連絡忘れとかは有り得ないよね。なら僕達がザハール様のところを立つ直前か直後の事故なのだろう。
「おーい、今聞いてきたけど、昨夜の夜遅くに突然橋が崩れたんだって。復旧の目処なんて立ちそうもないね、これ。遠回りもしょうがないや」
立ち往生している群集や無理やり橋を通ろうとしている人を制止している兵士にギーゼラが聞き込みに行ってくれていた。
「ギーゼラ、聞き込みお疲れ様。では、バックして別ルートに変更しましょう。キャロリンさん、運転御願いね」
「了解ですわ、マム」
マムの命令でシームルグ号は、ものめずらしそうに車体を見ている群衆を避けながらバックをし出した。
「さて、では姫様。申し訳ありませんが、ここは通れませんので、別ルートへ参ります」
「はい、良しなになさって下さいませ。では、今晩は野営ですか?」
リタ姫は、どこか嬉しそうに僕に聞く。
「そうですねぇ。マム、別ルートですと暗くなるまでに次の宿場町へは行けそうも無いですね」
「ええ、ちょっと難しいわね。それに事前に連絡もせずに王族をお連れできそうな街もないですね。姫様申し訳ありません。姫様にはこちらの車内にて寝室を設けますので、ご容赦を頂けたらと思います」
別ルートだと、川を遡って山間部を通るルートになる。
そこなら川を、こちらの自動車でも走破できる場所がある。
しかし街道沿いでは無いので、宿場町も満足に無い。
「それは気にしませんわ。お姫様モードをしないでいいのでしたら楽ですもの。ね、お姉ちゃん。お姉ちゃんとキャンプなんて久しぶりだよね」
「そうね、リタちゃん。という事でお気になさらずに。料理人も居るんですから問題なしですね」
「まあ、しょうがないですじゃ。姫様、はしゃぎ過ぎないようにしてくだされ」
姫様達は、想定外の事も楽しむ様だ。
「では、僕達もバックしてから進みましょうか!」
「おー!」
◆ ◇ ◆ ◇
「今夜は、この辺りで野営しましょうか?」
「そうね、見晴らしも良いですし、時間的にも良いわね」
午後4時頃、僕達は草原の中に車を止めた。
「では、タケは晩ご飯の準備、リーヤとキャロリンは姫様の寝室の準備、ヴェイッコは周囲の偵察、ギーゼラはテントやシャワー、トイレの設置を、フォルは各種装備や自動車のチェックを御願いね」
「アイ、マム!」
僕達は、野営の準備を始めた。
「あのー、ボク何かしましょうか?」
「うん、わたしも待っているだけは嫌なの」
「そうですな。姫様方ならそう言うと思いました。私もお手伝いしますぞ」
アルフ組も手伝いたいらしい。
……本当なら姫様にお手伝いさせるなんてダメだろうけれども、今はそんな状態じゃないし、他所の目も無い。姫様がやりやすいようにした方が良いよね。
「あら、ではお言葉に甘えさせて頂きますわ。皆様何が出来ますか?」
「わたしは料理のお手伝いしたいの」
「では、ボクはテントをお手伝いするね」
「それならば、私は寝室の準備をお手伝いしますのじゃ」
各員、それぞれに分かれての作業を開始した。
「タケお兄ちゃん、御願いしますね」
「はい、姫様」
「姫様なんて他人行儀はおやめくださいな。せっかく日本語で話しているんですもの。ここではわたしは1人の女の子。リタちゃんとお呼びくださいな」
「はい、リタさん」
「えー、ちゃんって呼んで下さいよぉ」
リタは「ひまわり」のような笑顔でボクに笑いかける。
僕がリタと冗談まじりに話していたとき、強烈な悪寒と視線を感じた。
「ひ!」
視線の先に居たのはリーヤ。
今にも、持っている枕を引きちぎりそうな雰囲気だ。
「あら、これはこれは……」
マムは、この状況を笑ってみている。
「リ、リーヤさん。僕は別に姫様にうつつを抜かしているのでは無いです。僕の主はリーヤさんです。浮気なんてしませんから」
「う、それは分かって居るのじゃが、此方はタケが綺麗な女性と仲良くしておるのが辛抱ならぬのじゃ!」
強烈な焼餅をされているらしい。
……リーヤさんて独占欲が強かったのね。さて、困ったぁ。
「うふふ、タケお兄ちゃんはモテるんだね。リーヤちゃん大丈夫だよ。わたし、リーヤちゃんからタケお兄ちゃんを取ったりしないよ。先にリーヤちゃんが捕まえたんだからタケお兄ちゃんが嫌にならないかぎり、リーヤちゃんのモノ。だって、わたしコウタお兄ちゃんもお姉ちゃんに譲ったんだよ」
「もー、リタちゃんたらぁ。あの時の話は、もーいーよぉ」
異種族姉妹は、同じ「ひまわり」の笑顔でふざけ合う。
「しょうがないわね。リーヤ、貴方もタケのお手伝いに行きなさいな。寝室の準備は、わたくしがしますから」
「エレンウェ様、すいません。わたしの冗談でリーヤちゃんを困らさせてしまったの。後、御願いがあるんですけど?」
しょうがないって言いつつも苦笑いのマムはリーヤに僕の手伝いを命じる。
そこにリタは何かを頼む。
「はい? なんでしょうか?」
「寝室を少し大きめに出来ませんか? お姉ちゃんやリーヤちゃんと一緒に寝たいんです」
「なんじゃ? 此方は別にテントで構わぬのじゃぞ? 貴族だどうだは今は関係ないのじゃ。此方はリタ姫の警護役じゃからな」
リタは姉やリーヤと一緒に寝たいらしい。
元々、姉妹に寝室を使ってもらう予定ではあった。
しかし、リーヤは自分が一緒に寝る理由が無いので、どうしてと思う。
「だってぇ、リーヤちゃん可愛いんですもの。わたし、一晩抱っこしたいの」
「あ、リタちゃんの悪いクセでちゃった。すいません、ウチの妹って可愛い子みたら抱きつくクセが昔からあって、わたしも幼い頃から抱き枕状態だったんです」
「そ、それは此方は別に構わぬが……」
……俗に言う「百合の花」なのだろうか? もしかして姫様はそっちの方?
「あ、誤解しないように先に言いますが、わたし女の子も好きなだけで、殿方も嫌いではありませんから。コウタお兄ちゃんが一番だけど、もうお姉ちゃんのものだし、マサトお兄ちゃんもコトミお姉ちゃんと結婚して、もう幼稚園の女の子いるんだもん。どーしてわたしの好きな男の人ってステキなお姉ちゃん達と早々に結婚するんだろーねー」
……うん、知らなくて良い情報ありがとうです。リタ姫は、両刀なのね。
とまあ、色々あって楽しい夜になったのだ。
リタちゃん、どっちもありな子に育ってしまいました。
婦女子傾向は薄いんですけど、困った事です。
ナナちゃんの英才教育なのか、マユ母さんの影響なのか。
リーヤちゃんも影響受けたら困るかも。
可愛い事は正義派の作者でございます。




