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第8話 新人捜査官は、聞き込みをする。

「では、御遺体発見当時の事をもう一度教えて頂けませんか?」


 僕とリーヤは、貴族街の中にあるサー・コンスタンティヌス・ホノリア邸で聞き込みを開始した。


「はい、わたしが旦那様のお部屋にお呼びにいったのは、七の鐘がなる少し前でしょうか?」


 僕達は今、第一発見者のメイド、ヘレナの証言を取っている。

 この世界ではまだ時計というものが発達しておらず、上級貴族の家庭で取り入れられ始めたくらいだ。

 教会など宗教施設の塔にある鐘が定時にならされており、それで貴族庶民とも生活を行っている。


「七の鐘というと、……大体午後8時前くらいか。死亡推定時刻が午後4時半前後、死後硬直の具合から考えておかしくはないかな」


 僕はリーヤと、こそっと小声の日本語で話す。

 証言をしている人物に聞き取られないから、こういう時の秘密話に日本語は好都合だ。


「つまり発見時刻と死亡時刻は間違いないという事じゃな。」

「はい、そうですね」


 僕は、共通語で再びヘレナに話を聞いた。


「さて、でその時サー・コンスタンティヌスはどういう状況だったのですか?」


「はい、旦那様をお呼びしてもドアをノックしても一向に反応が無く、ドアには施錠がされていました」


 ……つまり密室殺人?


「そこで、カギはどうやって開けましたか?」


「鍵は基本旦那様と執事が持っていらっしゃいますので、執事を急いで呼んでまいりまして開錠しましたが、旦那様は椅子に座られた状態でぐったりとなさっていました」


 ヘレナの証言内容に、執事の証言と食い違いは今のところ無い。


「いそいで旦那様のところに行きましたが、旦那様のお身体は冷たくなっていて、硬くなり始めていました。わたしは、急いで奥様とお嬢様、お坊ちゃまをお呼びしました」


 この証言内容も、執事の証言と同じだ。


「その時までに、いつもと変わった事に何か気が付きませんでしたか? 窓とかは締まっていましたか?」


「そうですねぇ……。窓は閉まっていたと思います。後から月光(つきあかり)を入れる為に開きましたから。他は別にいつも通りだったと思います」


 憔悴しきった表情のヘレナ、二十代半ば前くらい、身長が160cmくらい痩せぎすで黒い髪をひっ詰めた黒い眼の地味なヒト種女性だ。


「サーの事ですが、違法薬物を使用されていたのに気が付かれていましたか?」


「違法薬物ですか? わたしは気が付きませんでした。でも、それを使われて亡くなられたのでしょうから、わたし共や奥様が気が付いていないところでご使用なさっていたのでしょう。旦那様は、何かとお忙しい方でしたから」


「そうですか。お忙しいところ、どうもありがとうございました」


 僕はヘレナに礼をして、聞き込みを終わった。


「リーヤさん、今の聞いた?」

「うむ、どうやらソウイウ事らしいのぉ」


 次は、奥様に聞かないとね。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「レディ・ホノリア、大変なところ申し訳ありませんが、教えて頂けませんか?」


「はい、わたくしで分かることでしたら」


 サー・コンスタンティヌスの妻、レディ・ホノリアことアガタ、ヒト種、28歳。

 9年前の次元融合大災害時に亡くなった妻の後妻として6年前に再婚したらしい。

 栗色の髪とヘイゼルアイが魅力的な女性だ。


「まず、日頃のサー・コンスタンティヌスについてですが、何か変わった事はありませんでしたか? 誰かに恨みを買うとか?」


「いえ、主人は代々の文官の家系で恨みを買う事もまず無いかと思います。地球との交渉で皇帝陛下に偉勲(いくん)が認められ、一代貴族(ナイト)となる事が出来ました。もし妬まれるとしたら、その事くらいでしょうか?」


 ここ異世界でも9年前の災害で大きな被害が発生し、その後の地球との外交交渉は大変な事だっただろう。

 無事今のように地球と交流があるのも、コンスタンティヌスのような人々の活躍があっての事だろう。


「しかし、サー・コンスタンティヌスは激務ではあったでしょうね。そのストレス軽減に違法薬物を使用していたとは思いませんか? 実はご主人の死に違法薬物が関係しております」


「違法薬物とは何ですか? 主人は何で死んだか、わたくしはまだ教えていただいておりません。一体どういう事なのですか?」


 黒い喪服とベールで表情が見難いアガタ。

 しかし、コンスタンティヌスの死因について知り、驚きでこちらに身を乗り出してきた。


「落ち着いてください、レディ。ご主人、サー・コンスタンティヌスは違法な向精神薬、心に作用する薬の過剰摂取によって亡くなられております。サー・コンスタンティヌスは日常的に何か薬物を服用なさっておりましたか?」


「いえ、そのようなものはわたくしは全く存じません。それに主人もそのような悪いものを使用するはずもございません。お酒も付き合い以外殆ど呑みませんもの」


 レディのこの反応には、嘘は無いように僕は思う。

 これまでの色んな人の証言で、ガイシャが飲酒をあまりしないというのも既に確認済みだ。


「そうですか、分かりました。失礼ながら、一応の確認ですが御遺産の扱いはどうなされますか?」


「遺産は、娘と息子が生活するのに使う予定です。わたくしは、あのコ達を立派に育てあげるのが、あの方へ出来る最後の奉公ですから」


 情報によると、レディは過去メイドとして屋敷に入っており、前妻やコンスタンティヌスに大事にされていたとある。

 そして前妻の死後、お嬢様を可愛がってくれた彼女とコンスタンティヌスが結ばれ、ご子息がお生まれになったそうだ。


「悲しい事をお聞きして申し訳ありませんでした。最後に、これは事件とは関係無い話です。サーの家系でこれまでに突然激しい頭痛がして倒れた人が居ませんでしたか?」


「お仕事ですものね。主人の事件を解決して頂きます様、宜しくお願い致します。主人の家系ですが、確かにおっしゃるとおりの事で急死なされた方がいます」


 僕は、ガイシャの直接的死因であったクモ膜下出血について家系で同じ患者が発生していないか聞いてみた。


「そうでしたか。これは自分、いえ僕個人の考えですが、お子様達が大人になる頃までに一度地球の病院で脳の精密検査をなされた方が良いかも知れません。ご主人の直接的死因となった脳内出血は、家系で発病しやすさが伝わっていく可能性があります。もし早いうちに対応できれば、急死からお子様達を救えるかもしれませんので、良かったら検査をどうぞ」


「あ、子供たちの為にご助言、わざわざありがとう存じます。わたくし、必ず検査をして子供たちを守ります」


「いえ、これは僕の勝手なお節介ですから、お気になさらずに」


 レディは涙を流し、僕に礼をした。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「最後のは一体何じゃ?」


「アレ? お子様達が将来脳血管関係の病気で死なないように助言しただけですよ。悲しい事は起きない方が良いですし。それにあのレディ、継母だけど信用出来そうですよ」


 僕は、子供達が不幸になる事が一番嫌いだ。

 今回の事件でも子供達が泣いている。

 絶対に事件を解決しなきゃ。


「後は、お嬢様達に話を聞いてみますか?」


此方(こなた)は、あまり気乗りはせぬ(しない)のぉ」


 リーヤも僕と同様に、その端正な顔を悲しみで歪ませていた。


「ですよねぇ。とりあえず一言だけ聞いて帰りますか」


 僕達は執事に案内されて子供部屋に向かった。

(追記)

 1:くも膜下出血の遺伝性

 くも膜下出血の遺伝性についてですが、出血原因として動脈瘤と動脈奇形などの血管異常があります。

 このうち、動脈瘤については10%ほど家族性で遺伝する場合があり、作中のように親族で多発する場合は、確実に遺伝性が考えられます。

 身内に遺伝性が考えられる病気が多い方、脳ドックや人間ドックをまめに受診しましょう。

 そして日頃から健康管理を大事に。


2:死後硬直

 死者は、心臓が止まって死んだ後も一部細胞は生存しており、体内酵素も働いています。

 死後硬直とは、御遺体の筋肉が固まって関節が動かせなくなる現象です。


 心臓が止まり筋肉に酸素が送られなくなると、筋肉内のATPがどんどん嫌気性代謝で消費され枯渇すると、筋繊維を収縮させるアクリンとミオシンが結合、アクトミオシンを生成し、筋肉は硬くなります。

 おおむね、死後2、3時間後から始まりピークは10~12時間後。

 30~40時間後には硬直が融け始め、90時間で完全に解ける。

 これは筋繊維が体内分解酵素で切断されるから。

 なお、食肉は硬直が取れて「熟成」された時が、美味しい状態だとか。


 死後硬直は死体の特徴、腐乱死体や首等の欠損同様「社会死」状態と判断され、救急車では搬送してくれません。

 検視では、体内温度(肝臓や肛門に温度計を突き刺して計ります)、死後硬直の具合、死斑(死後の体液の滞留によりできる痣)で死亡時刻を判断します。


 これは余談ですが、葬儀会社が納棺する際に、死後硬直で眼や口が開く場合や関節が固着している場合、湯灌や部分加温で硬直を解して整えたり、最悪開いたまぶたを医療用接着剤で閉じさせたりします。

 ちゃんとした業者は、まぶたを接着剤を使わず目薬や綿棒でうまく閉じさせてくれるそうですが。


以上、医療的解説でした。



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