第4話 新米捜査員は、エルフの姫様の外交を手伝いつつ料理を作る。
「ようこそ我が領地へ、リタ姫様。私めザハール、再びお目通り頂き光栄でございます」
「いえ、わたくしもまたザハール様にお会いできまして嬉しいですわ」
ザハールやレディと会談を行うリタ。
貴族っぽい会話を行っている。
「では、エレンウェ、リリーヤとタケ、この3人と通訳の方に執事殿以外は退席を御願いできますかな? ウチの方も、警備も側仕えもいらぬぞ」
「はい」
「ヴェイッコ達は外部の警護と今晩の準備を御願いしますね」
「アイ、マム!」
「あ、キャロリンさんはアレの準備も頼みます。重い荷物はギーゼラさん御願いしますね」
「はい、今日も頼みますわ、タケ。うまいぞー、ってビーム吐かせてね」
「りょーかい。タケっち楽しみにしてるよー!」
ザハールが、皆に退席を言う。
マムはヴェイッコ達に外部警護を頼んだので、僕もキャロリンやギーゼラに今晩の「アレ」を頼んだ。
しかし、何故僕がこの面子に残るのか不明だけれども。
……そりゃ一応、僕は保安官なので貴族格は持っているけれども。
「さて、もう気取った会話は終わりだ。息を抜いて宜しいですよ、リタ様。ナナ様におかれましては、ご主人にはお世話になっています。リーヤも、もう普段どおりで良いぞ。」
ザハールは、表情を柔らげて話す。
「それは助かります。はー、お姫様モードは疲れますの。ついこの間まで日本で女子大生していましたから。ザハール様には、お兄ちゃん共々お世話になっています。このたびは娘さんにまでお世話になりました」
「ザハール様、ウチの旦那がご迷惑をおかけして申し訳ありません。この間は領内での地球企業の横暴も止めてもらってすいません」
「いやいや、地球企業の件は、そこのタケ殿の仕事だよ」
……そうか、ザハール様と姫様は面識が既にあるんだね。コウタさんがザハール様と一緒に戦ったのなら、その時一緒に居たであろう2人と顔見知りなのは当たり前だよね。しかし、ここで僕に話を振らないで欲しいぞ
「タケシお兄ちゃんには、もう随分と助けてもらっています。皆さんと日本語で気軽に話せるだけでも、わたしには嬉しいですもの。リーヤちゃんにもね」
「あ、すいません、妹がリーヤちゃんって言っちゃって。あ、ボクもだ」
「お父様、此方が良いと言ったのじゃ、2人を責めてはならぬのじゃ!」
3人娘は仲良く話す。
……姫様に褒めてもらうと、くすっぐったいです。
「いえいえ、娘を大事に思ってくれているのなら、私も大歓迎です。な、レディ」
「ええ、リーヤちゃんですか。可愛い響きですわね。ね、わたくしもそう言いましょうか、リーヤちゃん!」
「お母様、嬉しいのじゃ! 家族だけの時は、今後『ちゃん』で頼むのじゃ!」
姉妹と娘の仲良さげな雰囲気に領主夫婦も、にこやかだ。
皆のほっこりとした会話に僕だけでなく、マムや気難しいはずのルーペットも微笑む。
「姫様が皆様に大事になされられるのは、私にとっても嬉しい事でございます」
「もー、ルーペット。大げさですわよ。わたくしにはお兄ちゃんやお姉ちゃん、お母さんに一杯のお友達もいるの。大丈夫だよ!」
愛らしさだけでなく、強いところも持つ高貴な姫。
その魅力に、僕はリーヤと同じものを彼女に感じた。
◆ ◇ ◆ ◇
「さて、タケ殿。キミの事だ。私がキミに望む事は予見済みだよね」
「はい、ザハール様。すでに準備万端でございます」
会談が終わる頃、ザハールは僕に話を振ってきた。
それに、ニヤリと返す僕。
……食いしん坊な親子だものね。何を望むのかは想定内。今回は事前に下処理もしてきたから大丈夫。
「流石はタケ殿、夕食が楽しみだよ」
「タケ様の作る料理、いつも見たことが無いものですが美味しいですの。先だっての豚のしょうが焼きは、ウチのシェフも特訓中ですわ」
すっかり僕を料理人だと思っている領主夫妻である。
「あら、タケシお兄ちゃんは、料理が出来ますの?」
「へー、ウチの旦那にタケシさんの爪の垢飲ませたいよ。家じゃ、ぐーたらして家事の手伝い何もしないんだもん。そりゃウチのお母さんの料理の腕はスゴイけど」
「タケの料理は絶品じゃぞ。此方は、タケをお嫁さんにして毎日ご飯を作ってもらうのが夢なのじゃ!」
「タケちゃん、今回も御願いね。わたくしもタケちゃんを息子にして三食作ってもらいたいわ」
姦しさを越えたウチ&姫様組にも料理を期待されてしまっている僕。
……どうやら料理の腕ではコウタさんに勝っているらしい。まあ、本職でないもので勝ったからと言って、どうなんだろうねぇ。一体、僕は今後どうなるのやら。
「リーヤちゃん、タケ様を逃しちゃ駄目ですよ。絶対ウチで確保するように」
「はい、お母様。タケは絶対逃がさないのじゃ!」
……僕の存在価値って、なんだろーねぇ? 料理の腕をそこまで買われるなんて。絶対プロほどの腕も無いのに。
考えてもしょうがないことは、今は放置。
美味しいご飯を作るのが、今の僕の任務なのだ。
「では、調理場をお借りします。電源やコンロは、もう持ち込む準備をしております」
「うむ、宜しく頼む。ウチのシェフにも見学をさせて良いな」
「もちろんでございます」
さあ、僕の「戦場」が始まるぞ。
……まー、戦場と言っても命のやり取りはしないから、それは良いけれども、ここまで期待させておいて、不味い料理は出せないのが怖いや。
◆ ◇ ◆ ◇
「今回は、豚の角煮を作りました」
僕は、領主夫妻やアルフ組、そして捜査室の方々に料理を出した。
「ほう、前回は焼き物だったが、同じ豚でも今回は煮物か?」
「匂いがとても良いわ。豚なのに臭みがなさそう」
領主夫妻は興味津々である。
「へー、煮卵もいっしょなのね」
「お母さんも時々作るけど、これも中々っぽいね」
「マユ子様の料理も絶品でございますが、これは見事ですね」
アルフ組にもウケが良い。
まあ、こっちは和食食べ慣れているだろうけどね。
「美味しそうなのじゃ! 絶対美味しいのじゃ!」
「タケ、まだお肉残っているわよね。帝都でウチの子にあげたいのよ。御願い!」
「タケっち、この肉料理の作り方教えてよ。お父ちゃん達にも食べさせてあげたいよ」
「拙者、もう我慢できないでござるぅ。これは銀シャリがススムでござるぅ」
「あーん、コウタお兄ちゃん。わたしも早く食べたいのぉ」
「今回もホロホロ豚肉。なかなかやりますわね。ワタクシ、うまいぞービーム吐く自信ありですわ」
ウチの面子も「おあずけ」が我慢できないらしい。
「はい、では皆様どうぞ御賞味くださいませ」
「いただきまーす!!」
後は、毎度の「うまいぞー」の連呼。
お米と大型炊飯器も持ち込み済み、今回の遠出のために各種料理器具やら車載型冷蔵庫やらをシームルグ号に増設したのだ。
……将来、もしかしたら自衛隊の野外炊具2号辺りを捜査室で買ったほうがいいのかも。
野外炊具とは自衛隊が誇る野戦用調理器具、フィールドキッチンだ。
戦争をしない自衛隊、その威力は震災時に発揮されている。
数多くの被災民を救い、美味しいご飯で皆の荒んだ心を和ませた。
2号は小部隊用の小型タイプ、僕が異世界でご馳走するなら、これくらいで良いかも知れない。
「この口の中で蕩ける豚肉はどのようにして調理したのだ? それに臭みが一切無いぞ! 大根や煮卵もどうだ!」
よし、今回も大成功だ。
米のとぎ汁で豚バラ肉のブロックを下茹でした後、料理酒と青ネギ、生姜を加え、圧力釜で煮る。
20分程茹でたら、煮汁を分けて、豚肉を一口サイズに切り分ける。
今回は、ゆで卵や大根の下茹で含めて、ここまではポータムで準備してきた。
後は、ザハールの居城調理室に器具やら電源を持ち込んで調理の続き。
豚肉の表面を油で炒め、その後下茹で済みの大根を入れて料理酒、味醂、砂糖、醤油に隠し味の蜂蜜を少々入れて弱火で圧力釜で15分加圧加熱。
圧力が抜けたら、殻を剥いたゆで卵を入れて、更に10分加熱にて完成だ。
……僕ってほんと料理人向きなんだろうか? 本職の化学分析よりもウケ良いのだけど。でも料理のレシピって化学反応の手順と同じだから、順番と量・方法を間違えなければ、美味しいご飯になるのにねぇ。
わいわいと賑やかな食卓の中、僕は半分頭を傾げながら美味しい豚肉を食べた。
……うむ、解せぬ。
なお、マムのお子様用にちゃんと一食分は確保し冷凍保存しました。
毎度の料理回。
今回の料理も実際のレシピ参考にしていますので、ご参考になさって下さいませ。
しかし、物語の方向性がどんどん変わる。
科学捜査ネタ、もっと増やさねば(笑)




