第16話 新米保安官は、心を癒す。
「タケ、お帰りなさい。リーヤもお疲れ様でした」
僕達がシームルグ号に帰って来た時、マムが満面の笑みで迎えてくれた。
「他の皆さんは?」
「皆、中の調査に行って貰ってるわ。それでね、タケ。無理は絶対しないでね。何かあったらすぐわたくしに相談すること。背負い込みすぎても良い事はないわよ」
マムは、僕を心配してくれているらしい。
「でしたら、いつもの無茶振りも程ほどで御願いします。だって、いつもマムに僕は振りまわされているんですから」
「えー、だって困った顔のタケちゃん、可愛いんですもの」
そう言ってマムは苦笑する僕を抱きしめた。
「今回、貴方は立派な事をしたわ。そして沢山の命を救ったの。それだけは覚えておいてね」
マムの温かさが、じんわりと僕に伝わる。
「もし心が痛むのなら、すぐにわたくしやキャロリンに相談してね」
「はい、ありがとうございます」
……僕には、お母さんが2人いるのかもしれないな。
「もー、マム! タケは此方のモノじゃ。そろそろ開放するのじゃ!」
さっきまで黙ってみていたリーヤ、今はいつもの幼女姿だが、辛抱し切れなくなってマムの反対側から僕に抱きついた。
「えー、リーヤ。タケはタケ自身のものよ。そりゃ貴方とは主従の契りはしたかもしれませんが、ここでは貴方含めてわたくしの部下、可愛い子供達なの!」
そう言って、マムはリーヤも僕と一緒に抱いた。
「貴方達、自分で全部抱え込まないでね。いつでもママは貴方達を見守っているんですからね」
「……はい」
「……ありがとうなのじゃ!」
僕達は、しばらくマムに抱かれた。
◆ ◇ ◆ ◇
「で、現在の状況はどうなっておるのじゃ?」
「フォルちゃん、情報を映して」
「はいですぅ」
少しして落ち着いた僕達は、マムに現在の状況を聞いた。
「まず鉱山内は、ほぼ制圧出来ました。ヴェイッコさんが向かった社長室方面ですが、建物内で銃撃戦になり苦戦、騎士団に怪我人が多数発生しました。そこでわたしが操るオートマトン投入で逆転、敵兵の無力化に成功しました。なお、逮捕モードで使ったので、敵兵の死亡は作戦全体でも7名程になっています」
死者の内、僕が4人殺した。
狙撃兵、狙撃補助のスポッター、爆破装置設置者、指揮官らしき人。
そうしなければ、リーヤや村の人々が危なかった。
この事は忘れてはならないこと、そして殺すこと、殺される事を必要以上に怖がっては駄目だ。
もっと腕を上げて、敵を殺さなくても冷静に無力化できるようにしなくてはならない。
「タケ、大丈夫かや? 顔が青いのじゃ。大丈夫、タケの怖いものは此方が倒してやるのじゃ!」
リーヤは僕の手を、小さいけれども温かい手で握ってくれた。
「ありがとうね、リーヤさん」
……そうだ、リーヤさんを守る。これが一番大事な事。
僕は、リーヤの唇の感触を思い出す。
……大事なものを守る、その為に僕は戦う! そしてもっと強くなって、敵すらも守れる様になるんだ!
「タケお兄さん、大丈夫? 苦しかったら説明やめてもいいよ」
「僕よりもフォルちゃんの方が大変でしょ。お兄ちゃんの僕が逃げていられないよ!」
モニター越しとはいえ、沢山の殺戮を見ているフォル。
その精神的負担は、僕よりも酷いかもしれない。
「わたしは、だいじょーぶだよ。お兄ちゃんには話した事無かったけど、わたし元はスラム出身で身近に『死』は沢山、それこそ毎日あったの。だから、優しい皆と一緒にいる今が一番幸せなの!」
フォルは、その童顔を満面の笑みで満たした。
……皆、色々な事情を抱えているんだ。僕、皆を助けられる様な立派なオトコになりたいよ。
「ごめん。僕、皆に随分と気をつかってもらっちゃったよ」
「いいのよ、タケ。誰も無敵じゃないのだから。さあ、続けていいわよね」
「はい、どうぞ!」
「社長ですが、数人の部下と一緒に大型輸送トラックに乗り、ポータム方向へ逃亡したのを確認しています。すでに次元門管理局と港湾管理局等に連絡済みで、社長達をポータムへの街道上で足止めしています。証拠物件に関しては、パソコン類が一部破壊されていましたが、残るサーバや書類で彼らを追い詰める事は可能です。それと、ズリ山の兵士達は生存者全員回収中です。爆発物解体については、地球からの専門家待ちですね。以上、報告終わりですぅ」
「どうも、ありがとうね、フォルちゃん。さあ、保安官殿! ここからどう動きますか?」
マムは半分茶化して、半分僕の様子を心配して僕に問いかけた。
……ここでしっかりしなきゃね!
「はい! では、ここは騎士団に後をまかせて、僕達は社長を追撃しましょう。おそらく多数の銃火器を所有する上に大型トラックや、港にはエンジン付き機帆船を所有する相手、ポータム警備隊の方々だけでは厳しいかと思います」
「そうね、ではわたくし達はヴェイッコやギーゼラを呼び戻し、回収次第ポータムへ戻るわ。先にタケとリーヤは4WDでポータムへ戻ってね」
「了解です!」
「おう、なのじゃ!」
さあ、追撃するぞ!!
◆ ◇ ◆ ◇
「タケや、本当に大丈夫かや?」
「リーヤさん、ありがとうございます。まあ完全に大丈夫とは言いません。まだ僕が殺した人の姿は、はっきり頭の中に残っていますから。でもあの時の恐怖は、リーヤさんのキスで全部吹っ飛んじゃいました」
僕は急ぐ車中でハンドルをしっかりと握り、ポータムへと一路急いでいる。
「それは良かったのじゃ! いや、足らぬなら此方は……もう数回キスしても良いのじゃ」
リーヤ、恥ずかしそうに僕に話す。
多分、今顔を見たら耳まで真っ赤にしていることだろう。
「えーっと、今の姿でやっちゃうと僕は完全にザハール様に殺されるのでご勘弁を。そのお気持ちだけ、ありがたくお受け取り致します」
僕は運転に集中しつつも、リーヤに感謝を述べた。
「もー、此方は本気でタケが心配なのじゃ! 婚約者を心配して何処が悪いのじゃ!」
そうリーヤが叫んだ後、僕の眼の前が何かに塞がれて、唇にまた温かく柔らかい感触がした。
……え、この感じは!
「え――!」
「今度こそ、ちゃんとした主従契約のキスじゃ。ありがたく受け取るのじゃ!」
……リーヤさん、ナニしてくださるんですかぁ!
「ちょ、ちょっと運転中にナニしてくれるんですかぁ! 眼を塞がないで下さいな! それにシートベルトしていないと危ないですよぉ!」
「うみゅ、タケのマナは甘いのじゃ! これ以上はお父様にばれたら此方もタダではすまぬのじゃ。後は頑張るのじゃぞ、タケ!」
「いきなり何するんですかぁ! それにリーヤさんの婚約者なんて、いつのまに僕なったんですかぁ!」
「この間、此方をユーリから助けた時からじゃが?」
「あ――! そういえば、そーだったぁ!」
ポータムまでの車中、僕達は大声で叫びあいながら向かった。
色々と危険な事も多かったが、幸い交通事故は起きなかった。
……僕、もうリーヤさんの御手付きなのね、ぐすん。
なお、後から気がついたが、この時点で僕にPTSD要素が完全に無くなっていたのは、リーヤやマム達に感謝である。
タケくん、キス魔のリーヤちゃんのおかげで心が守られました。
良かったね、タケくん。
でも、これから気をつけないと、ザハール様が怖いぞぉ。(笑)




