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第14話 幼女は、変身を躊躇する!

「お疲れ様、リーヤ。タケもお見事ね。殺気も無いし、ここに敵は残っていないわよ」


「マム、こちらこそ魔法支援、ありがとうございました。おかげで狙撃手を倒せました」


 マムが僕達を(ねぎら)う。

 僕もマムに祈願の礼を言った。


「いえいえですわ。リーヤにしてもタケにしても勝ったのは自分の力。わたくしは、後押ししただけよ」


 マムは、僕達を慈愛のまなざしで見た。


「しかし、あやつ何か変じゃった。妙に攻め手を(こまね)いていたのじゃ。本来なら狙撃をどんどんやって此方(こなた)を追い詰めるべきじゃった。まるで、此方をココで足止めしたいかの様……」


「あ! まさか、何か時間稼ぎする理由があったのかも! リーヤさん、あいつ死んじゃいましたか?」


 僕は、リーヤの呟きで敵に目的があった事に気が付く。

 まだ生きているなら敵から白状させるのが一番だ。


 ……でもコンクリートに突き刺さっていたから、多分死んだよねぇ。


「うみゅぅ。そこまで手加減の余裕は無かったのじゃ。死んでいたら、ごめんなさいのじゃ!」


 僕達はハンフリーの元へ動いた。

 他の騎士団、兵士の方々は現場確保に動いてもらっている。


「あら、まだ生きているわ。こいつ悪運と生命力だけはあるのね」


 マムは擁壁(ようへき)に半分埋まったハンフリーを一瞥して、最低限の治癒呪文らしきものを使った。


「痛いの痛いの、飛んで……いかないでいいわ!」


 ……なんかマムの祈願呪文って、投げやりな気がするのは僕だけだろうか。


「悪党は死ななきゃ、痛くても構わぬのじゃ!」


 マムの治癒祈願でほんのり身体が光ったハンフリー、意識を取り戻した。


「ぐぅぅ!」


「おう、この口だけオトコ。気分はどうじゃ? 派手に負けて、さぞかし悔しくて痛いじゃろ?」


 リーヤは、まるで悪役令嬢の様な冷たい目でハンフリーを見下げる。


「く。ふん、俺の負けさ。しょうがない。だが、戦略的には……」


「つまり時間稼ぎは成功、社長は逃げたのじゃな」


 リーヤが先に言うと、「ぐっ」と唸るハンフリー。


「やはりな。マム、ヴェイッコらに連絡じゃ。多分、社長には逃げられた後じゃな。それとポータムの次元門管理局と港湾管理局等に連絡じゃ。しばらく地球とのゲートを閉鎖するのじゃ。どうせ逃げるのは地球か沖の工場くらいじゃからな」

「ええ、既に各方面には連絡済み、ヴェイッコからは連絡待ちね」


 マムとリーヤがテキパキと差配をしてゆく。


「ふ、ふん。そうやって勝利宣言していたら良いさ。それも暫くの間、もうじき……」


「ほう、オマエ馬鹿じゃな。負け惜しみで次のネタを話してしまうとは。マム、尋問を頼むのじゃ!」

「ええ、どういうのが良いかしら。『脳みそくちゅくちゅ』とか指を一本ずつ千切りとか。リーヤどれがいいかしら?」


 余程リーヤに完封されたのが悔しかったのか、悪役にありがちな「種」を話してしまうハンフリー。

 そこに、どっちが悪役か分からない相談をするマムとリーヤ。


 ……僕、絶対2人を敵に回さないようにしよーっと。


 不味い事を言った事に気が付き、更に恐ろしい拷問を聞いたハンフリーは顔を青くする。


「お、おまえら、ジュネーヴ諸条約とかしらねーのか? 捕虜に拷問は禁止だぞ!」


「あれ? それは正規兵対象ですよね。PMSCは民間、民兵で今回はテロ幇助。その上、こちら異世界では逮捕した犯人に対しての拷問は死ななきゃOKですし。悪い事は言わないですよ、早く言っちゃって下さい。証言次第では司法取引はあるかもですね」


 僕は正規兵捕虜としての扱いを望むハンフリーに、トドメを刺す。


 ……クチで言う分にはタダ。『かもね』、だし。


「わ、分かった。俺、死にたくないから命だけは助けてくれ。脳をいじるのも拷問も無し! 上の命令でやったんだ。俺が頼まれたのは、社長の逃亡と仕掛けが出来るまでの時間稼ぎだ。仕掛けは、村の裏にあるズリ山を崩落させる為の爆弾設置だ。たのむ、全部言ったんだから助けてくれ!」


 ……もし爆弾設置が本当なら村が危ない!


「マム、これは!?」

「そうねぇ、裏づけの出来る情報が欲しいですけれども、ここまできて嘘というのもねぇ。ハンフリーと言ったかしら、もし嘘だったら貴方の脳みそ、くちゅくちゅしますが良いのですね?」


「あ、ああ、俺はそう聞いた! だから信じてくれ!」


 ……この必死な感じからすると、すくなくともコイツの中では真実を言っているんだ。


「マム、こちらギーちゃん。連絡どおり、社長は逃げているよ。それと聞こえていた話は本当らしいんだ。ズリ山の何処に爆薬を仕掛けるのか指示した地図を見つけたよ。お願い、お父ちゃん達を助けて!」


 その時、ギーゼラから泣きそうな報告と写真が送られてきた。

 そこには詳細な地図と爆破ポイントが書かれている。


「マム! 僕行きます。誰も死なせたくない! あーでもどうやったら?」


 僕は、今からでも飛んでいって爆弾設置を辞めさせたい。

 知り合った人々が死ぬのは、絶対に見たくない!

 しかし遠く離れた村には、ここからなら車でも30分はかかる。


「しょうがないのじゃ! マム、此方が限界突破、先祖がえりをして1人で行くのじゃ!」

「え、リーヤ。それは禁じ手、ザハール様から禁止されているのではないですか?」


 リーヤが何か秘策をマムに提言したが、マムは驚く。


「もう時間が無いのじゃ。此方もタケ同様助けられる手段を持っておって、それを使わずに助けられないのはイヤなのじゃ。ナニ、短時間なら大丈夫なのじゃ。それにタケなら……」


 リーヤは、僕の方を見て悲しげに話す。


「タケや、これから此方を見てはならぬ。今から此方はバケモノになるのじゃ。さもないと今から村へは間に合わないのじゃ。此方、タケからは怖がられたくは無いのじゃ!」


 リーヤの悲痛な顔に、僕は「あえて」空気を読まない発言をした。


「えー、今更何言うんですか? どんな姿になってもリーヤさんはリーヤさんでしょ。それに1人で行くなんて水臭い。僕が一緒なら楽に遠距離攻撃出来ますよ。リーヤさんがイヤでも僕は着いて行きます。1人にしたらザハール様達から怒られますもの」


「た、タケ。此方がどのような姿になっても此方を見てくれるのか?」

「もっちろんです。正義のために異形へ変身なんて、まるで特撮ヒーロー。カッコイイじゃないですか!」


 僕は堂々とリーヤに宣言した。


「僕は一生リーヤさんと一緒にいるんです。どんな姿になってもリーヤさんはリーヤさん。さあ、時間も無いんだ、さっさといきますよ!」


 僕は、リーヤの暖かい手を取った。


「た、タケ。ありがとうなのじゃ。此方は、あの姿には良い思い出が無いのじゃ。でもそれも変わるかもなのじゃ! さあ、変身じゃ!!」


 袖でぐっと涙を拭ったリーヤ、僕から少し離れて魔力を全力展開した。


「うぉぉぉ!」


 リーヤの咆哮が徐々に低い声になる。

 そしてその身体は魔力の渦に覆われてゆく。


「はぁぁ!」


 叫び声と共に魔力は弾け、リーヤは新たな姿になる。


「か、……」


「タケや、やはり此方の姿は恐ろしいのかや」


 僕が口ごもるのを見て悲しむリーヤ。


「かっこいー! きれー!」


 僕は、そんな空気を読まずに全力でリーヤを褒めた。


「羽がすっごい! 角もかっこいー。顔がちょーびじーん! スタイルばつぐーん。しっぽもかっこいー」


 おどろおどろしい姿を一瞬連想していた僕は、目前のリーヤに感動していた。


「はぁ? この姿、怖く無いのかや? 異形な悪魔そのものなのじゃぞ?」


 僕が全力で褒めるのでズッコケるリーヤ。


 漆黒の肌、大きなコウモリの羽、立派なヤギの角、トカゲの尻尾。

 口元にはキバ。全身に金色の隈取。

 確かにヒトにかぎりなく近かった魔族姿とは大きく違う、まさしく悪魔の姿。


「えー、身長も高いし、スタイル抜群だし、美人だし。どこが怖いのですか?」


 身長は僕と同じくらい、3サイズはボンきゅボン、幼さを残していた美貌は超絶な美女になっている。


「は、はぁぁぁ。心配して悩んでいたのがバカらしゅうなったのじゃ。でも良かったのじゃ。ではタケ、村を救いに行くのじゃ!」


 リーヤはため息をついた後、凄く綺麗な笑顔で僕に話す。

 マムは、僕達をにっこりと笑って送り出してくれた。


「リーヤ、言ったでしょ、タケは絶対貴方を否定しないって。さあ、2人で村を救ってらっしゃい!」

「はい!」

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