第12話 新米保安官は、味方の活躍に喜ぶ!
「さあ、此方の出番じゃ。一気に行くのじゃ!」
「リーヤさん、くれぐれも大量殺傷はご遠慮くださいね」
僕は、やる気満々で背中の羽がブンブンしているリーヤを見て笑う。
「だいじょーぶなのじゃ! 此方は先日覚えたのじゃ、ユーリの技借りるのじゃ!」
そう言うとリーヤは、シームルグ号の影から出ようとする。
「リーヤさん、まだ危ないです。ヴェイッコさん、サポートを」
「御意でござるよ!」
ヴェイッコは巨大な盾を持ち、車の陰から出る。
「リーヤ姉さん、どうぞでござる」
「ヴェイッコ、ありがとうなのじゃ!」
リーヤは盾の影に隠れて、呪文を詠唱し出す。
……ヴェイッコさんの持っている盾って重量200kg近いんだよね。下に車輪ついてても僕じゃ無理。こんな遮蔽戦で無いと使えないよね。
ハイテク素材を用いても重機関銃、飛行機をも落す50口径のM2機関銃とかを受け止めるのは、超重量の盾が必要になる。
そしてこんな物を持って運べないから車輪、そして動力が必要、ついでに大砲とか撃てれば良いな……あれ、戦車になっちゃった。
そういう意味で遮蔽戦になる警察機構以外、現在の軍隊では盾は使用されていない。
「喰らうのじゃ、『昏睡雲!」
リーヤは盾から少し顔を出して呪文を発動させる。
それは以前、リーヤや僕達が昏睡させられた呪文。
僕達を苦しめ、最後は偶然が重なって僕が倒した凄腕の暗殺者、ユーリの技だ。
……ユーリの犯罪は許せないけれど、その忠義と能力は見事。その技を借りますね。
催涙弾等を喰らい混乱状態だったPWCSの方々、防護マスクを準備していたようだけれども、魔法相手ではムダだ。
それは実際に喰らった僕らが良く理解している。
体内魔力を活性化させ、更に他の手段を行わなければ確実に昏倒する。
「うぅ」
バタバタと倒れてゆく戦闘オペレーター達。
流石、強力な無力化呪文だ。
「よし、敵の無力化を確認! 騎士団や兵士の方々、倒れたオペレーターを確保、捕縛してください。下着以外剥いじゃって良いから、武器を持たせないでください」
「アイ、さー!」
◆ ◇ ◆ ◇
「こちら、ヴェイっち。現在、足止めを喰らっているでござる。少々殺っちゃって良いでござるか?」
「ヴェイッコお兄さん、もう少し頑張って。わたしがコントロールするオートマトンがもうすぐ到着するはずですぅ。沢山殺しちゃうと地球との関係がややこしくなるから、辛抱してね」
「フォルちゃんに頼まれればしょうがないでござるよ。あ、今来たのでござるな。フォルちゃんのお手並み拝見でござる!」
どーん!
イルミネーター越しにそれぞれの活躍が聞こえてくる。
今、ヴェイッコとギーゼラは騎士団等を連れ、社長確保のために社内の社長室へ攻めている状況。
激しい銃撃音が聞こえてくる。
「ヴェイッコ、苦戦しておるようじゃな。此方があちらに行くべきじゃったか?」
「そうも行かないでしょう。こっちも苦戦しているのですから」
僕達とマムのチームは、廃水施設を目指して動いていた。
がきん!
僕達の攻撃は簡単に弾かれる。
「まさか、パワードスーツを異世界で見るなんて思わなかったですよ」
「此方も、まだアニメの世界の物と思っておったのじゃ。アイアンゴーレムより賢い分厄介なのじゃ」
次元融合大災害は、数多くの悲劇を生み出した。
しかし、逆にそれに匹敵するくらいの利益を双方の世界にもたらした。
その一つがサイバネティック。
日本とアメリカが協力して機械式義手義足を開発した。
人体と義手の神経接続や人工臓器、それらに使える拒否反応が殆ど無いバイオ素材など等。
これらはゲート式通信規格同様、同じ女性が開発に絡んでいると聞く。
どれだけの天才なのか、科学者である僕も一度会いたいものだ。
さて、そういう技術を軍事技術に応用したのが、武器付きの義体であり、パワードスーツ。
地球では極秘開発中との噂だったが、横流しされたのか僕達の面前で、ソイツが暴れているのだ。
「あれ、中の人間を気絶させたら勝ちよね。あたくし、やってみようかしら?」
マムが急にやる気を見せる。
「マム、貴方が治癒呪文が得意で剣術もすごいのは知っていますが、あんな機械のバケモノ相手に大丈夫ですか?」
「あら、タケちゃん。お母さんを心配してくれるの? ありがとうね、大丈夫よ。さっきから動きを見て、武装や操縦者のクセは把握したわ。では援護を御願いね!」
そう言って、マムは軽やかに遮蔽物にしていた大岩から飛び出した。
「マムぅ、もう勝手にぃ!」
「そうじゃ、此方の事を言えぬのじゃ!」
僕達は支援攻撃をする。
「甘いぞ! 俺と、このスーツにはそんな攻撃は効きやしない!」
確かに僕の射撃もリーヤの雷撃も効いていない。
銃弾は装甲で、雷撃はアースで無効化されている。
「では、わたくしの攻撃はどうかしら?」
「ほう、エルフの美人さんとはおもしろい。そのべっぴんな顔潰したくねーからさっさと投降しな!」
マムに対して強気なパワードスーツ。
「あら、美人って褒めてくれてありがとうね。でも、悪い子はこーよ!」
マム、英語で褒められた事に感謝しつつ、攻撃を行った。
がががが!
マムの姿が消える。
それと同時に爆風に似た衝撃波が吹きあれ、高速な打撃音が後から響いた。
「さあ、おしまいよ」
棒立ちで止まるスーツを背にマムはこちらに帰ってくる。
「マム、危ないです」
「大丈夫よ」
マムは笑みを浮かべたまま、僕達のところへ帰ってくる。
かちん、とスーツから何かが地面に落ちた音がした。
そしてスーツがゆっくりと地面に倒れた。
「うわぁ。マム一体何をやったのですか?」
僕はスーツが倒れた時の音にびっくりしながら、マムに聞いた。
「頭の周囲に音速以上のスピードで打撃を数百発叩き込んだの。一応装甲だけ飛ばしたから中身に傷は無いはずよ」
確かにスーツの頭部を見ると、ヘルメット部分が全て無くなっていて顔がむき出しだ。
スーツの装着者は、白目を剥いて気絶をしていた。
「なるほど、高速でのーみそを揺らして脳震盪とやらにしたのじゃな」
「ええ、正解よ。さっすがリーヤちゃんね」
マムはリーヤを胸に抱き、いいこいいこしている。
「マム、鎧が痛いのじゃぁ!」
マムの胸当てで、頭をぐりぐりされて悲鳴を上げるリーヤであった。




