第10話 新米保安官は、作戦を練る。
「あの連中は一体何者だ? この間から麓の村にしょっちゅう出入りしているが」
ヒューバルトは、社長室で秘書のアントニーを怒鳴りつけた。
「はい、彼らは次元門のあるポータムの治安維持警察隊の一部門の者たちです。数人地球人が居て、魔法と科学を併せた捜査をしている様です。これまでも、ややこしい事件を解決して周辺の領主からも支持を受けているとか」
「では、俺達の所業も……」
「はい、気が付かれている可能性が高いです。ウチの従業員によると、村では飲料水の浄化、投薬が行われていて、症状の酷い患者には点滴も行われているとか」
「それは不味い……」
ヒューバルトは頭を抱える。
資産を増やすべく、経費を節約して環境や従業員・地域住民の健康の無視、給料を減らして行ってきた行為が、このままでは本社にバレてしまう。
そうなれば身の破滅、私欲を肥やして来た事も分かってしまえば、業務上横領にも問われてしまう。
「アントニー、なんとかならんのか?」
「そうですねぇ。荒事になっていいのなら、『事故』で村ごと消えてもらう手がありますが」
アントニーはニヤリと笑う。
「またグループ内のPMSCに頼むのか?」
「はい、それが間違いないかと。これまでも『そう』であった様に」
ヒューバルトは顔を上げ、アントニーへ命令を出す。
「ロイドを呼んで来い!」
「はっ!」
◆ ◇ ◆ ◇
「フォルちゃん、警備は銃を持ったお兄さん達がやっているんだよね」
「はい、タケお兄さん。金網と鉄条網、監視カメラがいっぱい。門には警備員さん、時々巡回をしていますね」
僕はシームルグ号にあるC3システムのディスプレイを見る。
そこにはフォルが各所にしかけたカメラや上空のドローンからの映像が映る。
M4系アサルトカービンにマルチポケットを装備した兵士、しかし私服っぽいので正規兵には見えない。
「出来ればハッキングもしたいのですが、わたしでは接近できないですぅ。ギーゼラお姉さんと一緒に行けば端末を回線に仕込めるかもです」
「それは危険だから上空からのドローン支援で十分だよ。まさか向こうは、魔法で不可視になったドローンが上空待機しているなんて思わないだろうし」
いつもは異世界人に地球科学で攻めるが、今回は地球人相手に魔法で攻める。
これが双方のいいとこ取りが出来る捜査室の強みだ。
「この装備だとPMSC系かな。大手メジャーならグループ内に警備部門としてPMSCを持っていても不思議じゃないね」
「お兄さん、PMSCとは何ですか?」
フォルが僕に聞く。
「PMSCって民間軍事会社の略なんだ。国が持っている軍隊じゃなくて、民間の警備会社が戦争のお手伝いをしているってのがイメージに近いかな? 国は軍に掛かる経費や死者を抑えたい。PMSCはお金が国からもらえる代わりに技術や人員を提供する。PMSCで死人が出ても、兵士じゃないから国は国民に報告しなくても良い。PMSC側は職務上の殉職扱い。食いっぱぐれた元軍人さんが採用されている事が多いんだって」
「なんかそれズルっぽいですねぇ」
「僕もそう思うよ」
湾岸戦争以降、戦争の民間委託化が進み、PMSCという存在が生まれた。
戦争すらも民間の範疇、もはや公務と民間に境目が無いのが現在だ。
「ふむふむじゃ、怖いのぉ。で、タケはどういう作戦で攻めるのじゃ?」
横から顔を突っ込んできて会話に加わるリーヤ。
「あら、リーヤさん。お暇しているんですか?」
「そうじゃ、此方には出来る事があまり無いのじゃ。力仕事も出来ぬし、攻撃魔法を撃つ相手もおらぬのじゃ!」
大火力攻撃型のリーヤ、普段の捜査ではお嬢様の立場を利用しての聞き込みが得意だが、今回みたいに地球企業相手、また聴取する相手が村人相手では活躍の場が少ない。
「では、僕達と一緒に作戦を考えますか? もう各方面へは地球側含めて証拠を送っています。後は動くばかりですが、敵は今までと違って地球の武装を使うプロです。今までとは戦い方を変える必要がありますから」
「それは楽しみじゃ。精一杯暴れてやるのじゃ!」
リーヤはやる気満々っぽい。
「ではリーヤさんや皆さんの使える術、作戦を全部使ってワルモノ退治と行きましょうね」
「おー!」
◆ ◇ ◆ ◇
「ロイド、社長はなんて言っているんだ?」
「ハンフリー、どうやら社長は全部『無かった』事にしたいんだとよ!」
PMCSの控え室、銃の手入れをしていたハンフリーは、現地法人社長に呼び出されていたロイドに経緯を聞いた。
「また、そりゃ大変だな。前回は『事故死』だったけど、今度もかい?」
「ああ、敵さんが村に居る時に村ごとだとさ。鉱山横のズリ山(鉱山から出た使えない捨石を積んだ山)で山崩れやれってさ」
ロイドは大量殺人をすることについて、何も無かったかのように話す。
「なら、沢山のC4が必要だな。ウチに爆破専門家とか居たかよ?」
「確か、グリンベレー上がりのやつが居たはずだ。さあ、忙しくなるぞ」
「小人皆殺しかよ。この間は爺さんを溺死させたが、今度は生き埋めか。無抵抗な敵を殺すのは好きじゃねーんだがな。張り合いってもんがねぇ。」
ハンフリーは、殺す事には何も思わないが、無抵抗な相手では面白くないらしい。
「腐るなよ、ハンフリー。じゃあ、魔法使いと戦うか? 今度の敵にはお子ちゃまだが『魔族』のバケモンが居るぞ」
「ほう、そいつと戦いてぇなぁ」
「ロリっ娘相手に頑張りな」
「え、メスガキかよぉ。そりゃねぇぜぇ」
「戦争の犬」共が戦を求めて群れている。
もはや普通の暮らしが出来ず、人を殺し、殺されるスリルが忘れられないのだ。




