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第8話 新米保安官は、事態急変に驚く!

「え、お隣の人が池で浮かんでいたって!」


 僕とリーヤは、ザハールをアンティオキーアへ送迎後、再びライファイゼンへ戻った。


「そうなんだよ、タケっち。ヴィム爺さん、娘が寝込んでいて随分と心配していたんだ。キャロんに治療をしてもらって落ち着いたんだけど、原因が鉱山にあるのを耳に挟んで、爺さん鉱山へ行ったらしいの」


 家族の状態が落ち着いたギーゼラは、少し安堵した顔で僕に話す。

 村全体でもキャロリンの治療と、火酒製造装置からの蒸留水供給で、症状が改善されつつある。

 なお、昨日好評だった「しょうが焼き」のレシピは印刷してザハールに渡した。


「その発見された池って鉱山の近くなのですか?」


「うん、鉱山からふもとにある農業用水用の溜め池。娘さんから爺さんが夕べから帰らないという話を聞いて、今朝から村全体で捜索してさっき発見したの。キャロんが見てくれたけど、もう手遅れだったんだ」


 僕は、何か引っかかるものを感じた。

 今は夕刻に近い時間、遺体発見に時間がかかりすぎている。


「その溜め池って鉱山へ向かう道沿いですか? また夕べは暗かったですか?」


「うーん、道からは少し離れているね。だからすぐに発見できなかったんだ。それと夕べは満月だったから、明るかったよ」


 ……鉱山へ行く道沿いに無く、また月明かりで足元も分かる。つまり溜め池での事故とは考えにくい。これは検死した方が良い案件かも。


「キャロリンさんは、今どこですか?」

「御遺体の近くにいると思うよ。孫娘、アライダ姉ちゃんが心配そうだったし」


「ギーゼラさん、どうもありがとう。ちょっとキャロリンさんに聞きに行きますね」


「タケっち、まさか?」

「そのまさかで無い事を祈りますよ」


 心配そうなギーゼラを残し、僕とリーヤは顔を見合わせて、隣家へ行った。


「キャロリンさん、ただいまです。お疲れ様です。少しお話良いですか?」


「2人ともお帰りなさい。日本語で会話という事は娘さんに聞かせたくない事なのね」


 キャロリンは僕が日本語で話しかけたので、何が言いたいのかを察してくれた。


「はい。ヴィムさんの死因は溺死ですか?」


「ええ、鼻腔や口に沢山白い泡が見られるから間違いないと思うわ」


 溺死をした場合、呼吸困難を起こした際に気管に水が入り込み、気管内の粘液と空気・水が激しく攪拌(かくはん)されて、鼻や口に白い微小泡沫が付く。

 ヴィムの口周りにも多くの気泡が見えた。


「で、死亡場所は発見現場だと思いますか?」


「いえ、肺に溜まった水を採取しないと確定では無いですが、泡から硫黄臭がしますの。なので、おそらく死亡場所は……」


 ただの農業用溜め池には鉱山廃水は混入しないから、硫黄臭は普通しない。

 硫黄臭がするということは、……。


「では、確認の為に肺から水を取り出したいですが、……。無理ですよね」


 僕は、御遺体に寄り添って泣き喚く女性を見て呟く。


「そうなの。できるだけ早いうちに採取したいのだけれども、この様子では御遺体を傷つけるのは無理よね」


 キャロリンは、ため息を付いた。


「では、此方(こなた)とギーゼラの出番じゃな。タケや、ギーゼラを呼んでくれぬか?」


 今まで話を黙って聞いていたリーヤが動いた。


「では、ついでに僕はマムとフォルちゃんに別件を頼んできますね」


 死人を出してでも守りたい秘密、暴いてやる!


  ◆ ◇ ◆ ◇


「アライダ姉ちゃん、この人達は知っているよね」


「ええ、ギーちゃんの仕事仲間よね」


 少し落ち着いたヴィムの孫娘、アライダにギーゼラは話しかける。

 どうやらご近所かつ年齢が近いので、歳下のギーゼラはアライダに可愛がられていたらしい。


「この人達が皆の病気を治してくれているのも分かっているよね」


「うん、おかげでわたしも大分元気になったの。でもお爺ちゃんが……」


 アライダ、見た目はヒト族なら20になったばかりの感じ。

 素朴な感じのドワーフ女性だ。


「ヴィム爺ちゃんにはアタイもお世話になったよ。だから、このままお爺ちゃんが何で死んだのか有耶無耶(うやむや)にしたくないんだ」


「え、お爺ちゃんは事故死じゃないの?」


「まだ確かじゃないけど。タケ、この男の子とキャロ、お姉さんは地球の科学者なんだ。2人が言うには、お爺ちゃんは溜め池で死んでいないって」


「え!!」


 ギーゼラからの説明で驚くアライダ。

 僕やキャロリンからの説明では納得は出来ないだろうけれども、良く知るギーゼラからの話なら聞きやすいだろう。


「わたくしからもお話させて頂けますか? わたくしは隣領の領主次女、リーリヤと申します。ギーゼラとは同僚でいつも助けてもらっていますの」


「え、あの御領主様のお嬢様ですか?」


 ここで口を挟むリーヤ。

 自分の立ち場を利用した説得をするつもりらしい。


「はい。ですが、今はギーゼラと同じ捜査室の同僚です。今回は、ギーゼラの助けを求める声に馳せ参じて参りました。本当は全ての人を救えたら良かったのですが、御爺様の事、申し訳ありませんでした。わたくし共の不手際が御爺様を死に追いやってしまったのです」


 普段とは全く違い、丁寧かつ慈愛にあふれた表情で話すリーヤ。


 ……こういう所はちゃんと領主令嬢やっているよね。僕の前だと安心して地を出しちゃうのかな。


「何故、貴族のお嬢様がわたしに謝られるのですか?」


「それはわたくし共の活動で御爺様が鉱山へ行ってしまったからですの。おそらくわたくし共の話を聞いて、御爺様は村を襲う病気の原因が鉱山にあると思われたのでしょう。そして鉱山に行って不幸に見舞われたのですから」


 リーヤはアライダに深く頭を下げ、謝罪をした。


「そ、それはお爺ちゃんが勝手に動いた事、お嬢様の責任ではありませんわ」


「確かに直接では無いかも知れません。ですが、わたくしの目前で不幸になられる人が出るのはイヤなのです。特に事故では無く、殺人でなんて……」


「え、殺人って。まさかお爺ちゃんが……」


 リーヤは淡々とアライダに話す。


「はい、まだ可能性の段階ですが。もしわたくし共に御爺様の御遺体を解剖させて頂けましたら、事件か事故かはっきりします。もちろん、アライダ様がご希望になられなければ諦めます。御遺体に更に傷を付けるのはイヤでしょうし」


「アタイからも御御願いするの。もちろんお姉ちゃんがイヤなら断っても良いよ。お爺ちゃん以外から証拠を掴んでみるから」


 そっと涙を溢すリーヤと泣きながら話すギーゼラからの話を受けてしばらく考えていたアライダ。


「……お嬢様、ギーちゃん。御願いできますか? わたし、お爺ちゃんがどうして死んだのか知りたいの。もし殺されたのなら、その犯人を許せないわ」


「ありがとうなのじゃ。此方達が必ず事件を解決し、この村全体を救って見せるのじゃ!」

「うん、お姉ちゃん。アタイも敵討ちするからね」


 静かに泣くアライダを抱きしめ、泣きながら慰めるリーヤとギーゼラ。


 ……リーヤさん、「地」が出てますよ。でも、その思いは本当だよね。


 僕とキャロリンも貰い泣きをした。

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