第7話 月夜の夜に、悪党は悪巧みをする。
地球の月よりも少し小さめな満月の月明かりが照らす社長室。
そこで2人の地球人が話し合っている。
「急に、御貴族様が来るなんて困った事だ。まったくワガママにも程がある」
RHPグループ、現地法人社長のヒューバルトは秘書に愚痴る。
彼は豪華な椅子に座り、ブランデー片手に優雅な雰囲気をかもし出している。
「そこは古臭い田舎貴族。平民は何でも自分の言う事を聞くとでも思っているんでしょう。私共からすれば時代錯誤です」
横に立つ秘書のアントニーがヒューバルトに同意する。
「手付かずの資源が無ければ、こんなド田舎。RHPグループが動くわけは無い。出来る限りかっぱらって、美味しいところを吸い尽くしたら逃げるに限るさ。しかし、アイツら俺達よりも寿命が長いってのが気に食わない。神は不公平だ」
ヒューバルトは天を仰いで神に不平を溢した。
「では、宗旨替えでもしますか? この地には力を行使する神らしき存在も居ますが」
アントニーは、ふざけてヒューバルトに話した。
「まさか。俺はさっさと本社へ帰りたいだけだ。莫大な売り上げと実績を持って帰れば、本社でも良い地位に付ける。だから、現地人には地球の最低賃金以下しか払わないし、環境対策を手抜きしているんだ」
RHPグループ、正式にはレッドヒル・プロプライエタリー・カンパニーというアメリカ合衆国に本社がある重金属メジャー。
全世界でも10パーセント弱の金属供給に係る超大企業である。
すでに地球上では目ぼしい鉱山は取り尽しかけていた矢先に、異世界という手付かずの地が発見され、各資源メジャーは活発に動き出した。
しかし、皇帝からの許可、各領主の認可が下りず各社苦戦の中、RHPは領主が不在がちなモエシアに食い込み、開発を開始した。
「ええ、おかげで経費を誤魔化して私共の私腹も肥えていますが」
「こんな田舎暮らしなんだから、それくらいの役得は欲しいさ。どうだ、エルフ娘でも抱くか?」
「性病が怖いので眺めるだけにしておきます」
時代劇の悪代官と悪商人風の会話をしている2人であった。
「はい、分かりました。では、よしなに『対応』をお願い致します」
そんな中、秘書のアントニーは電話を取り、命令をした。
「どうした? 何かあったのか?」
「はい、現地の太った『ドブネズミ』が警備を突破して廃水処理施設に侵入した様です」
アントニーはヒューバルトに、侵入者があった事を報告した。
「『対応』とは? 見てはならないものを見たのだから……」
「ええ、『近くの池で溺れて』頂きます」
「なら、良い」
悪巧みが更に続く。
◆ ◇ ◆ ◇
「あー、どうしよう。何も準備なんてしていないのに、御接待なんて出来ないよぉ!」
僕は、遠く離れたマム相手に文句を言いながら、自室の冷蔵庫の中を探す。
「ザハール様達を満足させるのって……あれ?」
僕は、冷蔵庫の中に入れた覚えの無い大きな紙箱を見つけた。
「マムぅ、不法侵入ですよぉ!」
箱の中にはマムの手紙と上質な豚肉ロース、野菜数々、それに玉露のペットボトルに茶菓子としてイチゴ大福、捜査室名義のクレジットカードが入ってあった。
「なになに?」
マムの手紙には、こうあった。
「急な話になってごめんなさい。今回、ザハール様が協力してくださる際の条件として、タケのご飯を食べたいというのがあったの。材料費はカードから使って存分にもてなしてね。この上ロース肉とかは、わたくしからのプレゼント。もし好評だったらわたくしにも作ってね。はーと」
……つまり最初からハメられていたのね。僕の存在価値って一体?
「もー、こうなったらやってやる! 口から旨いぞビーム吐かせたるんじゃぁ!!」
それから僕は、捜査室の応接間で待っているザハール達にお茶と茶菓子を出し、時間つぶしに地球経由の放送を閲覧してもらった。
「リーヤさん、今から僕は買出しと料理に入るから、ご両親の相手宜しく!」
「分かったのじゃ! 美味しいご飯を頼むのじゃ!」
さあ、勝負だ!
……毎回思うのだけれども、僕の本職って??
◆ ◇ ◆ ◇
「これは見事だ。どうやってこの味を出しておる! 豚肉であろうが、この味わいは始めてだ! それにこのライスも旨い」
「ええ、貴方。お肉は爽やかな風味と甘辛なソースがすごいですわ。またこのミソスープも上品な味わいですの」
「旨いのじゃ、旨いのじゃ。いつもどーりに旨いのじゃ。此方、やはりタケをお嫁さんに欲しいのじゃぁ!」
なんとか満足して頂ける味を出せた僕は一安心。
毒見を兼ねて先に食べたのだけれども、緊張で味があまりしなかった。
落ち着いて、豚肉のしょうが焼きを味わう。
……この間、ウドン用にイイところの生姜や味醂、醤油を仕入れていて良かったよ。味噌汁にも水出し煮干と鰹節でイイ出汁出せたし。味噌は普通の白味噌だけれども、次回は魚料理に赤出汁も良いかもね。
今回のメインディッシュは、豚上ロースを使った「しょうが焼き」。
付け合せにニンジン等の温野菜グラッセに刻みキャベツ。
スープとして、白味噌で豆腐と油揚げの味噌汁。
ライスは美味しいと話題の新品種を、僕とリーヤさんは茶碗、ご夫妻には皿で。
僕達はお箸で、ご夫妻には銀のカトラリー。
「うむ、この肉は気に入った。是非とも当家のレシピに加えようぞ。タケ殿、帰ったら教えてもらぬか」
「ええ貴方、そうですわね。リーヤ、貴方もせっかく料理上手な人が身近にいるのだから、学んでみたらどう?」
「はい、これは比較的簡単ですから、必ず。この料理は豚肉の質もありますが、どちらかというと調味料が味の決め手ですね。僕の料理の味の基本は出汁、フォンと各種調味料ですから」
「えー、此方は食べる役の方がいいのじゃ!」
僕達は、笑いながら食事をした。
「待っておる間に地球のモノを沢山見せてもらったが、これがそのまま全部流入すると危険だな。便利すぎるし、影響力が大きすぎる。しかし、もう導入され始めている以上、無視も出来まい。今後の対応が必要だ。だから、我が家のも研究の為に導入を……」
「あら、貴方。素直に自分がもっと見たいとおっしゃったら? リーヤと一緒になって楽しんでいたのに」
コロコロと笑いながらザハールをからかうレディ。
……つまり大義名分をつけて、色々したいのですね、ザハール様。こういうところは親子そっくりだね。
「お父様、ここは家族と家族同然の者しかおりません。じゃから、本音で話すのじゃ!」
……リーヤさん、僕を家族扱いしてくれるのは嬉しいけど、困っちゃうよ。
「うむ、でははっきりと言おう。タケ殿、ウチに自動車、通信回線、映像機械などなど導入できるよう手伝ってくれぬか?」
「はい、喜んで。ザハール様のお役にたてて光栄です」
「では、わたくしからも御願いしますの。かっこいい殿方の出る映像作品を紹介して頂けませんか? わたくしも、もっと見たいですの!」
「うむ、此方もアニメを実家でも見たいのじゃ! タケや、頑張るぞ!」
……この親に、この子ありだね。
その後、食後に僕が買ってきたアイスクリームの取り合いになったのは閑話休題でしょうか。




