第6話 新米保安官は、鉱山を視察する。
「これはこれは、良く御起しになられました、ザハール様。私は当鉱山を担当しますRHPグループのヒューバルト・バーンスと申します。今後、ザハール様の領内でも同様な開発が出来たらと思っております」
ザハールに「揉み手」で挨拶をする濃い金髪茶色目の男性、彼が現地法人の代表らしい。
「この鉱山はどういうものか? 以前は地元のドワーフ族が採掘していたと聞くが」
「はい、こちらは石灰岩の中に花崗岩が貫入した際の熱水鉱床、スカルン鉱床です。とまあ、難しい事はさておき、各種重金属類、鉄、銅、亜鉛、鉛、錫、マンガン等が高濃度で産出されます」
「つまり、有効な金属資源が大量に手に入る訳だな」
「は、はい。さ、流石はザハール様でございます」
ヒューバルト、ザハールは分からないだろうと難しい専門用語で誤魔化そうとしているようだが、そうが問屋はおろさない。
僕が予め分かる範囲でレクチャー済みだし、賢いリーヤの父親だから理解も早いのだ。
「採掘は地球の機械を使っている様だが、働いているのはドワーフが多いな」
鉱石を運ぶ役をしているのは、ザハールの指摘どおりドワーフが多い。
ただ、妙に血の気が薄い感じがして、彼らも貧血症状が出ているのではないかと僕は思った。
「はい、地元の雇用も大事でございますから」
「うむ、それは確かだな。ここの鉱石は何処に運ぶのか?」
ザハールは運送用の巨大なトラックを見る。
「はい、ポータムの港から近くの小島に石炭共々運送して、そこで精錬加工を行い出来ました金属は一部は地球へ、他はポータムやザハール様の領地等で販売させてもらっています」
「そうか。この臭いは硫黄か? 後、ここの排水は赤いな」
ザハールが排水溝の様子を指摘した。
この辺り含めて質問事項は、僕の仕込み。
敵の問題点を徐々にあぶりだすのだ。
しかし、ポータムの沖合いに精錬所があるとは知らなかった。
精錬所からは亜硫酸ガスが出ることが多い、もしかすると風向きでポータムに来ないだけかもしれないが、廃水処理の杜撰さを考えれば油断ならない。
「は、廃水ですが、纏めて処理をしています。臭いもきついですので、ザハール様にお見せできるものではありません。問題なく処理をしていますので、御安心下さいませ」
「あい、分かった。今回は急に無理を申してすまなかった。地球の技術をゆっくりと見たかったのだ。また機会があれば当方へ来られるが良い。縁があればこの先、私と取引をすることもあろう」
「は、はい。ありがとうございますぅ」
ヒューバルト、どうやら廃水処理を見せたら不味いというのは分かっている、つまりワザと杜撰な処理をしているのだ。
僕は、ザハールの後ろで警備のフリをして周囲を見る。
……あれって、確かシックナーだよね。なら廃水処理はあの向こうかな?
僕は鉱山施設をざっと見る。
そこには数多くのものがあるが、予め予習しているので大体の用途は分かる。
これは後からもぐりこんで情報収集だ。
……ギーゼラさんに頼もうか、それともドローンで偵察かな?
◆ ◇ ◆ ◇
「アレは駄目だな。私が何も知らない田舎モノという感覚で話している。異世界人を舐めきっているのだろうて。だから周囲を汚染をしても気にしないのだろう」
ポータムへの移動中、ザハールはご機嫌ナナメだ。
「わたくしが行かなくて正解でしたわ。そんな愚か者とは話したくも無いですもの。地球人でも駄目な人はいるのですか。タケ様やキャロリン様のような素晴らしい人はいますのに」
「レディ、何処の世界でも善なる人、悪人は居ます。まあ、僕が完全なる善人かと言われれば困りますが……」
「あら、タケ殿以上の善人は……、同じくらいの善人は地球人にも居ますわね。あの方はご立派でしたわ」
レディ、僕を褒めてくれるのは恥ずかしい。
しかし、レディは僕達以外にも地球人に知人が居るらしい、一体誰だろうか?
「まあ、愚か者の話はこれまでじゃ。今晩は此方の宿舎で親子水入らずするのじゃ。タケ、夕飯と護衛を頼むのじゃ!」
「え、僕それ聞いていないよ、リーヤさん。ザハール様達にお出しできる料理なんて今から準備出来ないよぉ!」
僕が知らない間に、ザハールらのポータム滞在期間は僕が様々な事の担当になっているらしい。
後からマムを問い詰める必要があるだろう。
◆ ◇ ◆ ◇
「くしゅん!」
可愛くクシャミをするマム。
「マム、お風邪でござるか?」
それを心配する警護中のヴェイッコ。
「いえ、多分タケが怒っているのでしょ。ザハール様のお世話を内緒で全部担当させたのだから」
「それはタケ殿でなくても怒るでござるよ」
「でも、今回のお仕事、ザハール様の参加条件がタケのご飯を食べる事なんですもの」
「……頑張るでござる、タケ殿!」
ヴェイッコはポータムの方を見てタケの健闘を祈った。
◆ ◇ ◆ ◇
「くしゅん!」
「タケや、風邪か?」
「うーん、これマムが噂しているのかな? 後で問い詰めてやるぅ」
僕は記憶にある冷凍庫の食材を思い出しながら、ポータムへの街道を走った。
……マムのばかぁぁぁ!




