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第4話 新米保安官は、鉱山へ赴く。

「タケぇ、アタイ、アタイ……」


 僕の顔を見たギーゼラは、涙を目に浮かべて今にも泣きそうだった。

 それは今まで一度も僕が見たことが無い、元気印のドワーフ娘にあるまじき弱々しい姿だった。


 ……寝込んだ家族を見て、心配でならなかったんだね、ギーゼラさん。


「大丈夫ですよ、ギーゼラさん。少しお時間を頂きましたが、根回しも十分に出来たので、ご家族を、そして村を救えますからね」


「あ、ありがとー! うわーん」


 そう言ってギーゼラは僕に体当たりをする様に飛びつき、僕の服を涙で濡らした。


「本来、タケは此方(こなた)の所有物じゃが、今回はギーゼラに貸すのじゃ。存分にタケの胸で泣くが良い」


 リーヤは僕に抱きつき泣くギーゼラの頭を撫で、優しく話す。


「リーヤん、アタイどーしたら良いのか分からないから、物知りのタケに助けを求めちゃったの。タケを借りて良い?」


「もちろんじゃ。存分にタケを使いこなして事件を解決して、ハッピーエンド目指すのじゃ!」

「ありがとー」


 どうやら2人の間では、僕は便利屋的な存在らしい。

 でも、頼ってもらえるのは嬉しい事だ。


「はい、お2人のご期待に添えますよう励みますね」


 僕もリーヤに重ねて、ギーゼラの頭を撫でた。


 ……いつも僕にお姉さんぶるギーゼラさんが、今はまるで妹みたいだ。事件が落ち着いたら、佳奈()の顔、見たいな。


「あらあら、ギーゼラにリーヤったら、タケの取り合いですか」


「エレンウェ、いつもこんな感じなのか?」


 マムに対して呆れ顔のザハールが問う。


「そうですわね。いつもはタケはペット扱いですが、ここぞという時にはアテにしてますの。今回もどういう手で事件を解決させるか楽しみですのよ」


「マムぅ、また僕で遊ばないでくださいよぉ。先に言います、保安官命令です。基本の指揮はマムがお願いします。僕は科学的方面から命令しますから」

「はいはい。分かったわ。もー、タケのいけずぅ。今回は先に手を打たれちゃったわ」


 僕は、マムが遊びだす前に釘を打った。


 ……また愛玩動物扱いされて遊ばれるのは成人男性としては恥ずかしいからね、僕。


「あらまあ、末っ子のリーヤがお姉さんぶるのは可愛いですわね」

「お母様ぁ、そういうのは恥ずかしいのじゃあ! お父様も此方で遊ぶのは勘弁じゃぁ!」


 リーヤもレディに遊ばれて恥ずかしそうだ。


「え、ザハール様がいらしているの!」


 ギーゼラはびっくりして、顔を僕の胸(というかお腹)から離した。

 どうやら一杯一杯で、僕とリーヤくらいしか目に入っていなかった様だ。


「あ、そのままで良い。今回の事件は、私にも無関係では無い。地球企業の横暴を放置すれば、この先この地でどんな事が起こるかわからぬ。ここで動いておいた方が皆が幸せになるのだ。これこそ領主、貴族の仕事、だから其方(そなた)は安心して、力を貸して欲しい」


「あ、ありがとうございますぅ。アタイ、全力で戦います!」


 涙を袖でぐっと拭い、ザハール様に強い眼光と笑顔で返すギーゼラ。


 ……うん、ギーゼラさんは、そーでなくっちゃね。


「さて、感動の場面だけれども、ギーちゃん。ワタクシに御家族を見せていただけない? 診断できたら早く治療できますから」


「あ、うん。キャロん、お願い!」

「僕も一緒に行きます。マム、リーヤさん、ザハール様達をお願いします。ヴェイッコさんは周囲の警備を、フォルちゃんは機材セットアップお願いします!」


 僕は、急ぐギーゼラに追いつくべく走った。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「まぶたの裏側が白いですから、貧血ですわね。動悸、息切れもあるようですし」


 キャロリンは、テキパキとギーゼラの家族を診る。


「あら、この水は駄目ですね。カドミウム濃度が10ppm(0.01g/L)もありますよ」


 僕は、持ってきた簡易水質検査キットで炊事に使っている水を検査した。


「では、カドミウム中毒で間違いないわね。では、早速キレート剤、増血剤、ビタミンD剤の投与をします。栄養剤や利尿剤は点滴が良いわね」


「僕は、水を綺麗にするために蒸留器作りますね」


 僕達は、ぱっぱと行動を開始した。


「あ、あのー、キャロん、タケ。一体どう言う事なの?」


「あ、ごめんなさい、ギーゼラさん。ご家族にもちゃんとご挨拶もせずに、勝手にやっちゃってすいません」


 僕は、一旦作業を停止してギーゼラと家族の方を見た。


「ギー、この方々は一体?」


「お父ちゃん、この人達はアタイの同僚、職場仲間なんだ。2人は地球から来た賢い人達でお父ちゃん達を助けに来てくれたの」


 床に伏すギーゼラの父、本来なら働き盛りのドワーフ男性なので筋骨隆々のはずだが、今は弱弱しく見える。

 ドワーフ族の自慢で立派なはずのヒゲも、手入れが不十分に見える。


「僕はタケシ・モリベと言います。いつもギーゼラさんにはお世話になっています。今回、皆様を助けに来ました。病気の原因は分かりましたので、ご安心下さい」


「あ、ありがとうございます。ウチのバカ娘がご迷惑をおかけしていないですか?ドワーフ族として中途半端なモノで……」

「お父ちゃん、もう良いから寝ててよ」


 ギーゼラは、無理をして起きだして来る父を寝かせる。


「こんな格好でごめんなさい。ギー、貴方良い仲間に恵まれたのね」

「うん、自慢の仲間だよ、お母ちゃん!」


 ギーゼラの母も病床からギーゼラに謝る。


「あ、()ーちゃん、この人達は?」

「ハイノ、水汲みありがとうね。この人達はアタイの仕事仲間なの。皆を助けに来てくれたんだ」


 ギーゼラによく似た身長110cmくらいのヒゲも無く少年に見えるドワーフが外から帰ってきて、僕達に頭を下げる。


「いつも姉ーちゃんがお世話になっています。僕は弟のハイノと言います。僕達の為にありがとうございます」

「おい、ハーや。そんな丁寧な挨拶、いつのまに覚えたんだよ、姉ーちゃん始めて見るぞ!」


 丁寧に挨拶をした(ハイノ)をからかうギーゼラ。


 ……なるほど、いつも僕を弟分扱いするのは、実弟が居るからなんだね。


 僕やキャロリンは、兄弟の掛け合いを微笑ましく眺めた。

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