第1話 新米捜査官は、コテコテギャグに笑う。
新たな事件の始まりです。
今回は、元気ドワーフ娘、ギーゼラちゃんが里帰りしたところから始まります。
「タケ殿ぉ! 『おでん』は、まだでござるかぁ」
ヴェイッコは、僕にしつこく絡む。
「今はギーゼラさんが実家へ里帰り中ですから、皆さんが揃ってからですよ。それにヴェイッコさんが退院した時に、一度作ってあげたじゃないですか?」
僕はヴェイッコに反論した。
先だっての戦いで、ヴェイッコは全身凍傷になり、生死の境をさ迷った。
幸い、高位治療術が使えるマムと地球医療技術者のキャロリンの応急処置が上手くいってヴェイッコは命を取りとめ、手足や指を失う事も無く完全回復した。
「それはそうでござるが、熱燗で一杯はまだでござるよ!」
ヴェイッコ、どうやら「おでん」を肴にお酒が飲みたいらしい。
「お酒は勤務中は無理ですし、今僕の手元には料理酒しか持っていないんですよ。美味しいお酒の銘柄を探しますから、ちょっと待ってください。ヴェイッコさんの好みは、どういうお酒ですか? お話からしたら日本酒に聞こえますが?」
せっかく飲むのなら美味しい銘柄を買うに限る。
冷酒、ぬるめ、熱燗。
それぞれに向き不向きがあるし、味にも甘め辛め、濃厚、あっさりなど等。
米の産地・銘柄・精米度、水、麹、酵母、杜氏。
全ての要素が絡んで日本酒の味は変わる。
これが他の酒まで考えたら、とても大変。
それぞれの酒毎にマイスターやソムリエが存在するのも納得である。
「そうでござるよ。拙者は日本酒は安酒しか飲んだ事がないでござるが、大吟醸とかは夢に見るでござるな。こちらの酒だとドワーフの火酒は少し苦手でござるな。エールもそう得意では無いでござる」
ドワーフ族は良く言われているように酒好き。
体型共々「酒樽」と言われる事も多い。
「火酒という事は蒸留酒ですね。日本酒からも焼酎という蒸留酒は造られますし、醸造、蒸留。言い出したらきりがないくらいお酒の世界も広いですね。エール系も日本のラガー系とは全く違いますし」
「タケは、お酒にも詳しいのじゃな。此方、お酒は苦手なのじゃ。あの舌を刺す刺激や苦味がイヤなのじゃ!」
外見同様舌も「おこちゃま」なリーヤ。
その綺麗な顔を顰めて話す。
幼少期、舌の味を感じる器官、味雷は数が多くより苦味を感じやすいらしい。
毒物には苦味を感じる事が多いため、毒物避けの意味があるとか。
大人になれば味雷が減り、苦いものを美味しく食べられるようになる。
肝臓の解毒能力の向上や成長を阻害する物の影響が無くなるためだろう。
「醸造は麹や酵母等の生物を利用した科学ですから。蒸留なんて科学そのもの。アルコールから生まれたものは、とても多いですからね」
僕の家系には、「のんべ」が居た関係で「そこそこ」以上は飲める。
だけれども、その彼の、また他の「のんべ」な知人の「最後」を知っているだけに、毎日晩酌とかは僕はやらない。
お酒は、機会がある時に楽しく飲む程度に限る。
……肝硬変とかは怖いからねぇ。静脈瘤破裂からの吐血なんて見たくないよ。
「そういえばギーゼラは、ドワーフなのに酒の話を聞かぬなぁ?」
「拙者も聞いた事がないでござるよ」
ギーゼラとは良く話すし、ご飯もご馳走しているけれどもお酒が飲みたいと聞いた事が無い事に僕は気が付いた。
「僕も聞かないですね。どうしてだろう?」
「それはねぇ、……」
僕達の話を聞いていたマムがボソっと呟く。
「はい?」
僕達は聞き耳を立てる。
それは真面目に仕事をしていたフォルや、その時解剖室から帰ってきたキャロリンも同じ。
「……やーめた」
マムのスカシボケに派手にズッコける僕達全員。
……あれ? こっちで吉本新喜劇って放送されていたっけ?
「だって本人がいないところで話すのは卑怯よね、欠席裁判、悪口ですもの」
「それは理解できますけど、この惨状はどう説明しますか? というか、皆なんでそろってズッコけるの? まさか吉本新喜劇でも見たの?」
僕は、ズッコけて机の上の書類を飛ばしたり床に転がったりした面々を見て呆れる。
「良う分かったのじゃ、流石はタケじゃ。先だってギーゼラに教えてもらったのじゃ!」
床から起きだして話すリーヤの発言にうむうむ頷く全員。
「まさかマムも?」
「ええ、緊張を解すギャグを仕入れるのには良い題材ですもの。あれが毎日劇場で演じられているなんてステキ」
上品にだけれども満面の笑みをするマム。
海外でも徐々に受け入れられている吉本新喜劇。
ただ、日本語が分からないと韻を踏んだりするギャグとかは理解できない。
それをネタに使う異界技術捜査室の面々、実に恐るべし。
「そういうタケも此方人等に合わせてズッコけたではないかや?」
「僕の生まれ故郷は日本でも西の方だから、関西弁は分かるしテレビでも放送されていたんです。なので、この手のボケツッコミはお手の物ですよ」
そう僕達が賑やかに話していた時、僕のスマホが鳴った。
「あれ? ギーゼラさんからだ。ちょっと電話に出ますね。はい、タケですが」
「タケッち、科学の力でアタイの村を助けてよー!」
新たな事件?の始まりを僕は感じた。




