第14話 新米捜査官は、魔術師と対決する!
「では、早速行くのじゃ! うなれ、疾風! 轟け、雷光! ひっさつ、暴……」
リーヤが呪文を詠唱して魔法を展開しようとしていた時、急にアンニアが潜んでいる屋敷の玄関が開いた。
「リーヤさん、呪文停止! 各員、警戒態勢を」
僕はマークスマンライフルを構えて、玄関口をスコープで狙った。
「あら、沢山の観客がいらしているのね。さあ、ここからはワタシの独壇場。今まで誰にも認められなかったワタシに全ての人はひれ伏すのよ!」
目深にフードを被った小柄な女性が叫ぶ。
「アンニア、貴方の行った犯罪は既に分かっています。大人しく縛に付きなさい。さもないと……」
「さもないと、殺すと言いたいのかしら。でもね、ワタシの相手をこの人数程度で行えると思うのは甘いわ。周囲を囲ったつもりかもしれないけれど、こちらも囲えるのをお忘れかしら?」
マムの勧告にも強気なアンニア。
その言動に僕は違和感を覚える。
……まさか、これは囮!
「マム、すいません。撃ちます!」
僕はアンニアの杖を持つ右手を狙い、撃つ。
……やはり!!
僕の撃った弾はアンニアを貫く、そしてそのまま屋敷の壁に着弾する。
何にも「当らなかった」ようにして。
「マム、これは幻影です。本人はこの近くで隠れています。皆さん注意して!」
「あらぁ。ここには賢い子もいるのね。ご名答、今攻撃されたのは幻。さあ、ワタシは何処にいるのでしょう?」
アンニアの声が耳元で聞こえる。
これも魔法の一種か?
「皆の衆、慌てるで無いわ。これはどれも風の魔法を使った術じゃ。風を集めて本来居ない場所へ姿を写す蜃気楼の術、声を好きな場所に送る遠話術じゃ。では、こちらからも行くのじゃ! 暴れろ、風の竜達! 『疾風怒涛!』」
リーヤから種明かしがされる。
前回の襲撃でパペットを隠したり術者に見せていたのが蜃気楼、そして騎士団に疑惑の声を届けたのは遠話、それらを自由に使えるとは風を使う術者として凄腕だろう。
しかし、リーヤも負けていない。
弾丸状の風の球を作り上げ、それを数発屋敷の周辺で暴れまわらせた。
「へぇ、術の基本を知っている子もいるのね。そう、風が乱れてしまえば、風の術は使いにくいわ」
「アンニア、お主は中央の魔術学校でエントロピーを教える教授に師事していったのじゃろ。此方も、同じ教授に教えを請うたのじゃ。お主の不満も理解できぬ訳では無いのじゃ。じゃが、他人を害して自らの不幸を呪うのは違うのじゃ!」
アンニアに対して議論を挑むリーヤ。
アンニアの注意を引くという意味もあるのだろうけれども、同じ師に教えを請うた者同士として思うところはあるのだろう。
「あら、アナタ教授に教えてもらった事があるの? いつの事かしら、その小さな身ではワタシが在学中に会ったはずだけれども。ウソはダメよ。もうワタシは騙されないわ」
「ほう、其方もこの身を見くびるかや。アンティオキーア伯次女のリリーヤは嘘なぞつかぬわ。此方が従事したのは、15年前。其方の入学前じゃ!」
「え、貴方魔族なの!」
アンニアはリーヤの正体に気が付いたらしい。
その声は驚きに溢れていて、声の方向が乱れる。
……そこ!
僕は声の方向、リーヤからすぐ近くの場所へ発煙灯を投げる。
「きゃ!」
見事、僕の投げた発煙灯はアンニアに当る。
彼女の周りには空気の渦が出てきて、アンニアの姿を隠していた。
しかし、発煙灯からの煙が渦に吸い込まれて、隠していたアンニアの姿が丸見えになった。
「リーヤさん!」
「ほいや!」
リーヤは、僕の掛声でアンニアの方へ向き直る。
「貴方達、ものすごいわね。ワタシの術をことごとく破っちゃって。でもね、数にはどう対処するの?」
アンニアの笑みと共に、僕達の周辺に上から氷の散弾が飛んできた。
「各員避けて! パペットがどこかにいるよ!」
僕は注意喚起をして転げるように氷、多分ドライアイスの散弾を避けた。
「リーヤさん、ごめん。アンニアを抑えて。ヴェイッコさん、リーヤさんの援護。マムは警察隊を御願いします、僕はパペット片付けます!」
「はいな!」
「御意!」
「まかせてね、タケ」
僕はアンニアの後ろに徐々に近付く「影」を横目にパペットを探す。
……冷静に対処、見敵必殺!
僕はライフルの先端に弾を装着する。
後頭部に「みかん」をイメージし、戦場を俯瞰。
絶対、近くにパペットは居る。
本人からは、そう遠くないはずだ。
……落ち着け、タケ。ここが勝負どころ。
……ん? そこだ!
脳裏に稲妻が走ったような、そしてキュピーンという音がしたけれども、気のせいだ。
ああ、絶対気のせいだ。
……僕、あむろじゃないもん。
僕はイメージした場所に弾、ライフルグレネードを叩き込んだ。
そこは、警察隊が居るよりも更に後方、物置小屋の上。
何も無いはずの「空間」にグレネードは着弾し、炸裂した。
ど――ん!
爆炎が吹き荒れた後、そこには壊れかけたパペットが立っていた。
「ひとーつ!」
僕はライフルでパペットの胸の中心部、コントロールを司る魔法円を撃ち抜く!
その一撃でパペットは崩れ落ちる。
「え、なんで分かるの!?」
リーヤと魔法戦を行っているアンニアは、僕がパペットを倒した事を驚く。
……それは僕が一番驚いているんだけどね。
「うわー、危ない!」
僕の頭上から再度ドライアイスの散弾が降り注ぐ。
転がりながらも、弾丸の雨をやり過ごす僕。
自分も戦いながらなのでアンニアのパペットコントロール力が落ちているのと、銃撃・砲撃戦を知らないから、僕はなんとか攻撃を避けている。
……後、2体くらいかな? 次は……、あ!
チカっと攻撃の光が見えた方向へ、再びライフルグレネードを撃ちこむ僕。
それは屋敷の屋根にぶち当たり、爆発と共に焼け焦げたパペットが落ちてきた。
「ふたーつ!」
「どうして倒されるのぉ!」
混乱状態のアンニア、しかし混乱しているのは僕も同じ。
どうも以前よりも感覚がするどくなっている気がしている。
これは魔法を勉強したからなのか、それとも……。
「貰ったぁ!」
「影」から姿を出したドワーフ娘がアンニアの背後からゴム弾を連射する。
「甘い!」
しかしゴム弾は不可視の存在に弾かれた。
……3体目はアソコか!
不可視を解いたパペットは、ギーゼラ目掛けて氷の砲弾を打ち出した。
予想外の攻撃に立ちすくむギーゼラ。
……間に合え!
僕は即時にライフルを発射、ギーゼラを襲う砲弾を無事撃破した。
「ふん!」
今までリーヤの近くでフォローをしていたヴェイッコは、銃を放り出して一気にパペット目掛けて踏み込む。
「凍りなさい!」
アンニアの掛声でパペットから液体が飛ぶ!
「ヴェイッコさん、避けて!」
僕は叫び、パペットへ追撃をすべく狙いを定める。
「はぁ!」
ヴェイッコは裂帛の気合を放ち、液体目掛けて上段の構えから刀を振り下ろした。
「うそぉ!」
僕は眼を疑った。
切り裂けるはずの無い液体、おそらく液体二酸化炭素がその一撃で二つに裂かれたのだから。
「御免でござる!」
そのままヴェイッコはパペットへと踏み込み、向かって左下方から右斜め上に切り上げた。
その一撃は、パペットを両断した。
「チェックメイトでござる!」
ヴェイッコは呼吸器から白い息を吐き、アンニアへ刀を突きつけた。
にゅーたいっぷ、っぽい閃きをするタケくん。
また、剣豪みたいにカッコいいヴェイッコくん。
今回は、オトコノコ達がカッコいいですね。




