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第13話 新米捜査官は、証拠を掴む。

「間違いないですね。あのパペットの掌紋(しょうもん)、指紋はアンニアの物でした」


 僕はラムネの瓶から採取した掌紋・指紋を僕達を攻撃してきたパペットから採取した指紋等と照らし合わせた。


「これで事件に関与している証拠は集まったわね。後、中央の魔術学校の在籍者リストも貰ったけれど、アンニアは問題の教授の最後の教え子で、教授が倒れた後、自主退学とあるわ」


 これで、アンニアが犯人である証拠はほぼ揃った。

 後は、事件を起こした理由だ。


「拙者の聞き込みでは、アンニアは1年半前に中央から来た監察官と付き合っていたとの事でござる。この監察官は色男でアンニアは結婚をするつもりでござったが、監察官は中央へ帰って『とある』官僚令嬢と結婚したとか。哀れにも現地妻でアンニアは捨てられたのでござる。まあ、監察官殿はその後も浮気を繰り返して、今は離婚、閑職送りになり僻地で1人海を見ているんだそうなでござるよ」


 ……浮気をする馬鹿なんて酷い目に合えば良い。1人の女性を愛せなくて何が色男かよ。


「許せぬ男よのぉ。コヤツに出会った為にアンニアは最後の一押しで奈落に落ちたのじゃ。あの教授の最後の弟子であるなら、さぞ優秀であっただろう。学業の夢が破れ、愛に裏切られ、全てに絶望したのじゃ」


「そんなのはアタイでも怒るぞ」

「大人の世界は怖いですぅ、リーヤお姉様ぁ」


 ギーゼラやフォルも監察官に怒る。

 事実を見ればアンニアも可哀想な社会の犠牲者だ。

 しかし犯罪、それも殺人を犯して良い理由にはならない。


「アンニアは、もちろん許せない事をしたのじゃ。その罪は己で償うしかないのじゃ。後は此方人等(こちとら)が、アンニアにこれ以上の罪を負わせないようにするだけじゃ」

「そのために何の罪も無いエサイアスが殺され、サイヤが泣いたでござる。拙者は罪を憎むでござるよ」


「ええ、そうね。では裁判所に逮捕状を請求しましょう。しかし、普通には捕まえられない相手、強敵ですわ。どうにかして殺さずに無力化しないと」


 リーヤやヴェイッコの呟きに同意するマム。

 3人とも悲しそうな顔だ。


「そういえば、タケよ。実にアコギな作戦で指紋を採取したのじゃな。褒めて遣わすのじゃ!」

「ははぁ。ありがたき幸せにございます」


 暗い雰囲気を吹き飛ばす為に、リーヤのボケに対してボケ返しをする僕。


「最初、作戦を聞いたときは耳を疑ったわよ。まさか犯人にラムネおごって指紋採取だなんて」


「地球、少なくとも日本の司法では、正式な礼状無し、同意無しでの指紋採取だったから証拠能力としては怪しまれるでしょうね。ただ、時間も無いし、相手を油断させるには、奇策もありかと」


 マムに作戦を説明した時、びっくりとされた。

 自分でも奇策だと思う作戦だったから、驚かれたりするのは当たり前だ。


「ええ、だからわたくしも許可を出しましたの。流石、保安官殿ですわ」

「マムぅ、また僕で遊ばないで下さいよぉ」


 笑いが起こる捜査室であった。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「アンニア・カスト・フェッロ。貴方には、ポータム裁判所から殺人・殺人未遂容疑で逮捕状が出ています。大人しく縛に付いてください」


 今は早朝7時、アンニアが住んでいる屋敷前だ。

 この屋敷、若い女性が1人暮らしをするには大きい家、古い民家を改築したつくりになっている。


ギンスター(ギーゼラ)巡査、中はどうなっていますか?」


 屋敷の周囲は、ポータム警察の方々で包囲している。

 ただ、大規模魔法攻撃を警戒して、それなりの距離は保っているが。


「はい、現在ホシはベットから出てきて、服を着替えています。このまま大人しく出てきてくれるのを望みますが……」


 「影」に潜んで家屋内に潜入しているギーゼラから送られてくる映像では、アンニアは各種魔術具を装備し、ローブを目深に被っている。

 そして、その笑みを湛えた冷たい表情に僕は狂気を感じた。


「そこの影に潜っているアナタ、レディの着替えを覗き込むのは失礼よ。影に潜ったまま死になさい!」


 アンニアはギーゼラ目掛けて、何か液体を浴びせた。


「つ、つめて(冷たい)ー」


 ギーゼラから悲鳴が上がる。


「ギーゼラさん、急いで撤退を!」

「あいよ!」


「アンニアは液体二酸化炭素まで使うんだ。用意していなかったら、今のでギーゼラさん死んでたよぉ」


 僕は準備万端で戦いに挑んだ事に安堵した。


「ぷっはー。危なかったぁ」


 「影」が屋敷から飛び出してきて、そこから完全装備のドワーフ娘(ギーゼラ)が出てきた。


「タケっちの言う通りだったね。いつもの防護服じゃ凍ってたし、息も出来なかったよ」


 こげ茶色の頭髪が一部凍っているものの、元気そうなギーゼラ。

 顔にはイルミネータ付きのゴーグルに小型ボンベ付き呼吸器、身体はオレンジ色のジャケットとズボンに手袋。


「流石タケっちだね、この服のおかげで、大丈夫だったよ」


「ええ、-60℃冷凍庫対応用のヒーター付き防寒服ですから。これで、しばらくはしのげるはずです」


 僕は、密林経由で全員分の防寒服を注文していた。

 相手が凍結系でくるなら、それを防げば良い。


「さて、マムどうしますか? これは警察隊の人達では対応は無理ですね。屋内突入したら死人がいっぱい出ちゃいます。家ごと吹き飛ばしますか?」


「そうねぇ、火事にならないで且つ犯人を生かして捕らえられるならアリだけれども。そんな都合の良い術や方法なんて……、あ!」


 僕はマムに、この先の作戦を相談した。

 マムは暫く悩んで、何かに気が付いたらしい。


 ……家を吹き飛ばす、燃やさすなんて……、あ! 確かに適任者が居たよ。この前も屋根ごと吹き飛ばしていたしね。


「リーヤさん、御願いがありますが良いですか?」


「ふみゅぅ、また此方(こなた)に家を吹き飛ばせ、という事じゃな? なんか此方は便利屋や破壊魔になっておらぬか?」


 察しの良いリーヤは、僕とマムの会話で何をしたら良いのか理解している。


「ごめんなさい。でもリーヤさんの魔法はスゴイですから」

「そうであろう、そうであろう。タケよ、此方の頭をナデナデするのじゃ!」


 大き目のフードが可愛いリーヤ。

 僕に頭を差し出して、ナデナデを強要する。


「はいはい、今は戦闘中ですから簡単にですけれど」


 僕はそう言ってリーヤの頭を撫でる。


「うむうむ、これでやる気出たのじゃ!」


 ジャケットの背中がぴょこぴょこしているリーヤ。

 さぞかし、背中の羽が激しく羽ばたいている事だろう。


「はいはい、イチャイチャはそこまでよ。ペトロフスカヤ(リーヤ)警部補、貴方は家屋を暴風で吹き飛ばしなさい。ギンスター(ギーゼラ)巡査は再び影に潜って反対側から犯人に接近、ゴム弾にて犯人を無力化。カルヒ巡査長は、犯人の注意を引いて適当にゴム散弾で射撃して。守部(タケ)保安官殿は、後方から各自への指揮と狙撃、脚くらい撃っても良いわよ。警官隊にはヘタに手出しせずに包囲を維持。以上、やるわよ!」

「アイ、マム」


「マム、さりげなく僕で遊ばないで下さいよぉ」


 マムが命令を全員に出すも、僕については遊び含めて。


「あら、ごめんなさいね。だってぇ、少しはお遊びしないと緊張負けしますしね。何せ相手は凄腕の高位魔術師。多分、リーヤとサシでやっても負けないくらいだわ」


「そうじゃなぁ、総魔力は此方の方が上じゃが、魔力運用能力はアンニアの方が上じゃ。こういう事なら、中央で教授に教えを請うた時にもっと話を聞くべきだったのじゃぁ!」


 リーヤは腕組みしつつ愚痴る。


「マム、意見具申でござる。もしアンニアが出てきたら、拙者と話をさせてもらって良いでござるか?」


「ええ、注意を引く意味でも良いですけれど、何か考えがあるのですか? 敵討ちはダメですよ。あくまでも業務の一環でアンニアを逮捕するのですから」


「拙者、アンニアの中の『闇』と戦いたいでござる。罪を憎んで人を憎まず。先だってタケ殿がユーリとの戦いで見せてくれた思いでござる」


 僕は、ユーリに対して死者に対する礼儀を行った。

 それを犯した罪と犯す人間という形に分離してみる事と思ったヴェイッコ。

 被害者を良く知るはずのヴェイッコが、その境地に至るのはスゴイと思う。


「僕からも御願いします、マム。ヴェイッコさん、大変だとは思いますが、僕はヴェイッコさんの思いを応援します」

「ありがとうでござるよ!」


「まあ、しょうがないですね。無理だけはしないで下さいね」

「アイ、マム!」


 さあ、いよいよ対決だ!

 いよいよ捕り物が始まります。

 では、乞うご期待を。

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