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第11話 暗闇に渦巻く怨念!

「一体、貴方は何をしているのですか? こんな単純なミスをするなんて!」


 副事務局長がヒステリックに叫ぶ。


「……すいません、気をつけます」


 ワタシは、これ以上怒られないようにキャンキャン煩い更年期のヒスに形上(かたちじょう)謝った。


「それで謝っているつもりですか、アンニアさん? そんなんだから魔術師として落第するんですよ」


 ……このくそババァ。絶対、オマエも殺す!


「はい、以降同じミスはしないよう努力致します」


 たかが騎士上がりのクセをして、事務方の副長なんて天下りもいいところ。

 文章作成業務なんて出来やしないだろうに。


「最近、騎士団では事件が多発していますが、皆さん気をつけると共に気を引き締めて下さいね」


 その事件とやらが目の前のワタシがやっているとは露とも思わない副長。

 その見る眼の無さが、事件を起こしたのだ。

 それはワタシに係る人全て、教授以外でワタシの価値を理解している者は誰も居なかった。


「……教授、どうして死んでしまったの」


 ワタシは席に帰ってボソリと呟く。


「アンニア、大変だったわね。とばっちりもいいところ。あのヒス副長、今回の事件でイライラしているのよ」


 横に座る同僚がワタシを慰めてくれる。


 ……でもアンタもワタシの事を知らないでしょ?


「……ありがとう」


 一応形ばかりの礼はしておく。


「そういえば、聞いた? 下働きで今休んでいるサイヤって獣人のコ。亡くなったエサイアスの彼女だったそうよ。どうやら『おめでた』とかで寿退社するつもりだったんだって。かわいそうに」


「……そうなの?」


 ……彼女だったのは、とっくに承知。だから彼女の恋文を偽造してクソ獣人をおびき寄せたのに。でも赤ちゃんが出来ていたなんてね。


「確か今日、仕事を辞める挨拶に来るって話。あ、ちょうど来たよ!」


 ワタシが事務所の玄関を見ると、そこには以前見た姿よりもやせ細った獣人のオンナ(サイヤ)が居た。


 ……イイ気味よ!


 ワタシは仕事をするフリをして過去に思いを馳せた。


  ◆ ◇ ◆ ◇


 ワタシ、アンニア・カスト・フェッロは、ポータムから少し離れた田舎出身。

 田舎では天才少女としてもて(はや)され、そのまま中央の魔術学校へと入学した。

 しかし、中央ではワタシくらいの子は沢山居た。

 彼らに負けたくないワタシは一生懸命勉強をして、とある老教授に師事することが出来た。


「皆は温度を上げる事にしか興味が無い。本来、高熱と冷却は力の向きが逆になっているだけなのじゃ!」


 老教授の解く学説は、一般の学生や教授連にはなかなか理解されなかった。

 しかし、ワタシは教授と一緒に研究する事で、その説が正しい事を証明した。

 それには、その頃には入ってきていた地球科学の助けもあった。

 「エントロピー」とかいう概念で、物を構成する小さな粒の動きが「熱」になるとかで、早く動けば熱くなる、動きを遅くすれば冷たくなり、動きが完全に止まれば物は壊れる。


 この画期的な学説は、魔術学校を騒然とさせた。

 しかし、今までの自論をバカにされたと思った教授達は、今まで行ってきた不正を維持するためにもワタシの教授を政治的に追い詰めた。

 段々と居場所を無くし、研究費も減らされて何も出来なくなった老教授は、ワタシに後を頼むと言い残し、失意の中で病に倒れた。

 師事教授を失ったワタシも追い詰められ、学校から追い出される格好で自主退学となった。


 その後、田舎に帰ったワタシには、年頃だったのか縁談話が多数舞い込んだ。

 しかし、ワタシに寄って来るオトコ共は愚劣でワタシの言う話が全く理解できない。

 こんなバカ共とは結婚したくなかったワタシは家を出、ポータムで募集されていた騎士団の事務所に勤める事になった。

 学校時代、教授の手伝いで覚えた事務処理が役に立った形だ。


 ただ、ここでも幸せではなかった。

 魔法をバカにする騎士、そして火炎系こそ花形と嘯く魔術師。

 誰も彼もワタシの事を理解しないし、理解できない。

 バカ共に呆れていた時、「彼」が現れた。


「キミみたいな賢い子は初めてだよ」


 中央から騎士団の監視に来た監察官。

 彼は、カッコよく賢かった。

 ワタシの話も理解してくれて、騎士どもとも違い実に華麗だった。


「これが地球のアイスクリームってものだよ。あ、そこのドライアイスには注意してね。とても冷たいから。不思議だね、息や燃えた後の空気が凍るなんて」


 監察官の彼がワタシにおごってくれたアイスクリーム。

 それはとても甘く美味しかった。

 ただ幸せは、ドライアイスが溶けて消えてしまうように長続きはしなかった。


「ごめん、俺は中央に帰らなくちゃいけないんだ。もうこれで終わりにしよう」


 睦事(むつごと)を終えた後、ベットで彼に言われた言葉。

 それは、ワタシを幸せの絶頂から地獄へと叩き落した。

 後に聞いた話では、中央に帰った彼は高級官僚の令嬢と結婚したらしい。

 様は、ワタシは現地妻、使い捨てられたのだ。


  ◆ ◇ ◆ ◇


 ……もう誰も信じない、世界の全てがワタシの敵。

 心がドライアイスの様に冷たくなったワタシ。

 このドライアイスがワタシの武器、これでワタシを馬鹿にするヤツラ地獄に送ってやる!

 今回は、犯人視点のお話です。

 人にはそれぞれ事情がありますが、地獄へと落ちてはならないのです。

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