第9話 新米捜査官は、戦闘を開始する!
「はよう、こちらへ来るのじゃ! 敵は、この中にはおそらくおらん。それよりキャロはまだかや? 団長殿が先程より息をしておらぬのじゃ!」
リーヤの悲痛な叫びが通信機越しに聞こえたのか、騎士団詰め所の目隠し茂みを突破して突っ込んでくるシームルグ号。
そして中庭中央まで突進後急停車し、そこから医療バックを両手で持ったキャロリンがドアを蹴破るようにして出てきた。
「患者は、そこね。ギーゼラ、早くコッチに来てワタクシのカバーを」
「あいよ、キャロん!」
ギーゼラは、短い脚を高速回転してキャロリンの周囲を警戒する。
僕やヴェイッコも、さっきの場所からリーヤ達の側に移動して敵がいるであろう方向へライフルを向ける。
「マム、詳細を!」
「どうやら扇動者が居て、ここに全員おびき出されたところを襲われているの」
「了解!」
僕はマムの回答を聞きながら、魔弾が発射された場所からスコープを離さない。
「タケや、さっきはアリガトウなのじゃ。今度ばかりは死んだかと思うたのじゃ!」
「いつもギリギリでごめんなさい。もっと早く駆けつけられたら良かったのに」
僕は敵の居場所を探しつつ、キャロから渡された呼吸器とイルミネーターを装備しているリーヤに返答する。
「この装備で窒息攻撃は大丈夫だけれど、砲撃はどうにもならないですよね」
「うむ、あのような大型砲弾では並のシールド魔法では防げぬのじゃ!」
どうやら、リーヤが風の結界を展開する前に攻撃をされてしまったらしい。
……またか!
砲弾が発射されたのを確認、僕は即時に砲弾を打ち落とした。
僕は、共通語で叫んだ。
「騎士団の皆さん、早く物陰へ隠れてください。狙撃から身を守って!」
そして僕は慌てる騎士団員を横目で見ながら、日本語でリーヤにぼやいた。
「うーん、このまま持久戦はしたくないですねぇ。打ち落とすのに失敗したら負けですもの。」
……もういっちょ!
「タケよ。そう言いつつ、確実に打ち落としているではないか?」
「それは向こうが砲撃・狙撃戦の素人だからですよ。あまり動かないで同じ方向からの攻撃ならなんとかなります。」
動かせない団長、そしてそれを治療するキャロリン達が居る以上、僕は動けない。
ここでワザと的になって攻撃を受けることで、彼女達を守る。
……まだ来るか!
僕は、淡々と迫り来る砲弾を迎撃する。
「でも、発射方向が分かっていても発射している相手は見えないんです。狙撃犯が見えたのなら、こっちから攻撃出来るのですが」
……これ、やばいか!
僕は、再度砲弾を打ち落とした。
……うーん、埒があかないなぁ。あそこなら焼いても大丈夫かな?
「このままだと不味いので勝負に出ましょう。リーヤさん僕が狙っている辺りを火炎球で薙ぎ払えますか? あの辺りの遮蔽物無ければ狙撃し返せますし、なんならヴェイッコさんのグレネードで吹っ飛ばせます。フォルちゃん、情報支援宜しく!」
「はいですぅ!」
犯人のいる高台には小さな小屋と沢山の木々があって、犯人の居場所がはっきりとしない。
そんな状態から延々と砲撃を繰り返す卑怯な相手に、手加減は一切不必要。
この状態でも引き時を知らぬのなら、やってしまうに限る。
……一体何発撃ってくるの!?
まだ飛んでくる砲弾を、僕は打ち落とす。
「あそこじゃな? あそこなら、おもいっきり飛ばせば届きそうなのじゃ!」
リーヤは、同期させたイルミネーターで目標の場所を確認した。
「ヴェイッコさんも砲撃準備を御願いします。なんなら全部撃っちゃって良いですよ」
「御意でござる!」
「では、次撃ってきたら、まずリーヤさんが御願いします」
「おうなのじゃ!」
……キタ-!
「今です!」
僕が砲弾を砕いた直後、砲弾の発射点目掛けてリーヤの特大火炎球が発射された。
「いっけーなのじゃぁぁ!」
両手で元気っぽい球になった火炎球を投げるリーヤ。
数秒の後、火炎球は目的地上空で炸裂し、周囲を火炎で覆う。
「これぞ、空中炸裂弾なのじゃぁ!」
「お見事です、リーヤさん!」
地面に着弾したら威力の半分は地面に吸われてしまうが、空中で炸裂すれば威力の大半を目的体へ見まう事ができる。
現代兵器でも、空中炸型砲弾の研究は行われている。
「あ、見つけた!」
火炎の中に佇む人影を確認した僕は容赦なく、そこへ向けて2回引き金を引く。
ぱんぱん!
……あれ? 妙に手ごたえがないし、当ったはずなのにまだ死なない?
「ヴェイッコさん、あそこに3発対人榴弾叩き込んで!」
「御意!」
ぽんぽんぽん!
ヴェイッコが発射したグレネードは、放物線を描いてターゲット周辺に着弾した。
どーん!
激しい爆音と土煙が発生した。
「すごい威力なのじゃ。あれが『ぐれねーど』とかの威力なのじゃな?」
「ええ、今回の弾は周囲へ金属破片を沢山飛ばす対人弾。あの着弾点付近で生きている人は居ないでしょう」
僕がリーヤに答えている間に土煙は落ち着き、火災も消えた。
スコープ越しに観察するが、そこには赤茶けた土だけが見え、何も残っていない。
「どうやら倒したか、逃げられたかのどちらかですね。マム、どう見ますか?」
「そうねぇ、殺気も消えたし、今回はここまでかしら」
マムは、キャロリンの横で騎士団長に回復呪文を使っている。
キャロリンも輸液と酸素吸入等の救急処置をしている。
「キャロリンさん、団長さん動かせそうですか?」
「もう少ししたらね。今はあまり動かしたくないわ。やっとバイタル安定したから。今回も危機一髪、あと2分遅れていたらアウトね。まあ、これなら大丈夫でしょ」
キャロリンは、手際よく処置を行っている。
この分なら後数10分ほどしたら団長も動かせるだろう。
「マム、ギーゼラさんとヴェイッコさん借りられますか?」
「ええ、どうして?」
僕は、マムに2人を借りられないか聞いた。
「ホシが居ただろう場所を確認してきて欲しいのです。僕は引き続きここで警戒をリーヤさんとします。」
「そうねぇ、保安官のご命令なら。さっきからの攻撃指示もかっこよかったわよ、タケ」
「マムぅぅ」
どうやら安全になったのか、マムがいつものお遊びモードへ移行する。
「はいはい、2人とも保安官殿のご命令よ。宜しくね」
「アイ、マム!」
「ふぅぅぅ!」
僕は、今だ混乱で騒然とする騎士団員達を眺めて、大きく息を付いた。
……今回は危なかったぁ。




