第7話 新米捜査官は、現場へ急行する!
「さて、注文した呼吸器も全員分到着したから一安心。動作を確認して機動要塞指揮車に搭載しなきゃね」
僕は、到着した機器を確認してみる。
「さて、ではタケが仕事をしている間に此方はマムと一緒に騎士団へ聞き込みに行ってくるのじゃ! 賢く留守番しておるのじゃぞ!」
「はいです。いってらっしゃいませ」
リーヤは、僕達へ挨拶をして捜査室をマムと共に出て行った。
珍しい組み合わせだとは思うけれども、2人共に貴族階級の人間。
名誉と規則を重んじる騎士団、そこでの聞き込みをするのにはヨソ者の僕や半端者のヴェイッコ、ギーゼラでは難しい。
高級神官かつ領主から捜査室長を命じられているマム、そして隣領主の娘たるリーヤ相手なら、いかな騎士団でも文句は言えまい。
「これで犯人特定が出来る情報が掴めることを祈るよ。下町担当のヴェイッコさん達も良い情報が掴めたら良いよね」
僕はフォルとお話しながら装備の確認を進めた。
……僕も臨時保安官の身分を指示したら言う事を聞いてくれそうだけど、そうしたら後が大変そう。
◆ ◇ ◆ ◇
「タケお兄さん、これで資料纏まりましたですぅ」
「フォルちゃん、ありがとう。僕、書類とかの整理苦手だから助かるよ。また美味しいご飯ご馳走するね」
「ありがとうですぅ」
僕が指揮車に装備を積み込んだ後、ファルが書類整理をしてくれたのを労った。
そんな時、リーヤからの連絡が捜査室に届いた。
「こちら、リーヤ。騎士団で揉め事発生じゃ。このままだと殺し合いになるのじゃ! 救援求むのじゃぁ!!」
「これは大変だ。フォルちゃん、キャロリンさんを呼んできて一緒にシームルグ号で発進準備。一応医療器具も準備お願い」
「はいですぅ」
「僕は別便でヴェイッコさんやギーゼラさんを回収して、後から騎士団へ行きますから」
僕はヴェイッコ達にメールで一報を送った。
……一体、何が騎士団で起こったのだろうか?
◆ ◇ ◆ ◇
「お前らのうちの誰かがウチの団員を2人も殺したんだろ!?」
「いーや、ウチにはそんな卑怯な事をする術者なんていないぞ! オマエらの罠に違いない!」
騎士団の中での内輪もめが、わたくしの目の前で行われている。
戦闘職、純粋な騎士と術者、後方支援組が2つに別れて一触触発状態になっている。
「其方ら、落ち着くのじゃ。この中に犯人がおるとは決まっておらぬのじゃ!」
「ええ、落ち着いてください、皆さん。団長、はやくなんとかしてくださいな」
「そうは言っても、こんな状況では私の言う事等誰も聞きはしないぞ」
マムは騎士団長に団員の説得を頼むが、団長は諦めモードだ。
……こういう時、タケならどうするのじゃ?
わたくしの脳裏に平和そうに笑う無害な顔が浮かぶ。
……ふむ、どうやら此方は余程タケに依存しておるのじゃな。依存しきらぬ限り大丈夫じゃが、注意せねばならぬのじゃ。今から考えたくは無いのじゃが、どうしてもタケの方が先に逝ってしまうのじゃ。逝くタケに心配をかけたくないのじゃ!
こんな状態ながら脳内がピンクな自分を、ちょっと以外に思うわたくし。
そんな時、タケならやりそうな策を思いついた。
……「呉越同舟」とか言っておったな。共通の「敵」が出来れば人は協力する場合があると。
ドカン!
空中で火炎球が弾けた音で、周囲の喧騒が止まる。
「おう、ようも隣接領主の娘にして副保安官たる、このリリーヤの前で皇帝陛下の剣たる其方等がそのような粗相を見せるとは何事じゃ! 皆、そこに直れい! リリーヤ自ら其方等を処する。恐れ戦くのじゃ!」
わたくしは、わたくしの身長ほどの直径の超巨大な火炎球を頭上に展開する。
「ちょ、ちょっとお待ち下さい、リリーヤ様。そのような事になれば、貴方様の経歴に傷が付きます。こ、この場は団長の私にお任せ頂けませんですか?」
「だ、団長! 俺達は別に命のやり取りをする気は最初からありません。ただ犯人を捜したかっただけです」
「は、はい! わたし達術者連も同じく過激な事をするつもりはありませんでした。犯人扱いされて、つい頭に血が上ってしまいました」
わたくしの「脅し」に慌てふためく騎士団員。
それを見て、ため息を付くマム。
「貴方達、分かりましたか? 世の中には怒らしてしまったらいけない存在もいるのです。やれ貴族だ、平民だとか、騎士だ、術者だとか。そんなのは圧倒的な力の前では無意味なんです」
マムは、わたくしを横目で見ながら騎士団に切々と話す。
……此方をワルモノにして説得か。まあ、こちらは最初からそのつもりじゃがな。ただ、気分はよーないので、後でタケに甘えるのじゃ!
「皇帝陛下もおっしゃられているでしょう。大災害以降全ての人類は助け合うものだと。陛下の剣たる騎士団が、それではどうするのですか?」
「はい、申し訳ありません」
団長、他全員が頭を下げる。
……まあ、こんなところかのぉ。あまりビビらせるのも良くないのじゃ!
「なら、今回は団長とエレンウェの顔に免じて許すのじゃ。くれぐれも自分達がどのような立場なのか、今後とも考えて行動するのじゃ!」
「ははぁ!」
わたくしは頭上の超特大火炎球を消して、うむうむとドヤ顔で皆を許した。
……自分で言ってて耳が痛いのじゃ。此方も突っ込むのや、考えなしに行動する癖を治すのじゃ!
マムが苦笑いをしているのを横目で見るわたくし。
「では、何故かのような事態になったのか教えてはくれぬか?」
「はい、実は……」
◆ ◇ ◆ ◇
「ヴェイッコさん、ギーゼラさん。お待たせです」
「こちらこそ、すまぬでござる」
「そーだよ。早くリーやんの処に行かなきゃ」
僕は4輪駆動車を走らせ、下町で聞き込みをしていた2人を回収した。
「では、詳しい事は移動中に話します。イルミネーターや呼吸器等の装備は車中に置いてますから装着を御願いします」
ギーゼラを助手席、ヴェイッコを後部座席に座らせて、僕は一路騎士団の詰め所へ走った。
……リーヤさん、無事で居てね。




