第5話 新米捜査官は、トリックを推理する。
「で、一体どういうトリックなのじゃ?」
リーヤは、チョコミントのアイスカップを美味しそうに食べている。
「ワタクシは、なんとなく分かりましたわ。あの傷跡の意味はそういう事だったのですね」
キャロリンは、2Lのバニラを抱いてモシャモシャ食べている。
……流石アメリカン。あれ、1人で食べたら僕ならお腹壊しそうなんだけど。
「2人だけ分かるってのは、地球技術絡みなのかい?」
ギーゼラはイチゴ味のアイスバーを齧っている。
「拙者、なんとしても犯人を捕まえたいでござるよ。いくら悪口を言おうとも騎士殿を殺されるのは嫌でござる」
ヴェイッコは、硬度抜群の小豆バーに苦戦中。
……小豆バーって条件良かったらサファイア、つまり酸化アルミニウムの硬度9を越えるんだよねぇ。第二次大戦中のネタに同じ原理で作ったパイクリートによるハボックってのがあったはず。
「もしかして氷で人を殺しちゃったのですかぁ?」
フォルはチビチビとラクトタイプのコーンアイスを舐めている。
「あらまあ、怖いわねぇ」
そういうマムはラムレーズンのカップを美味しそうに堪能。
「では、僕から推理を発表しますね」
因みに僕はカキ氷バーの梨味。
これがお値段の割に良い味しているのだ。
「今回の凶器は二酸化炭素。第一事件の場合は、ガスとして。第二事件はドライアイスとして使われました」
「なんじゃ、ドライアイスとやらは? そのような術聞いた事も見たことも無いのじゃ。それ以前に一体何じゃ。英語とやらだと『乾いた氷』に聞こえるのじゃが」
初めて聞いた言葉を英語と判断するリーヤ、ものすごく賢いと思う。
「さっすが、リーヤさん。英語も分かるのですね」
「簡単な言葉だけじゃがな。タケよ、此方をもっと褒めるのじゃ!!」
褒められて嬉しさ爆発状態のリーヤ。
背中の羽のパタパタが風を巻き起こす程に早いし、尻尾のぴょんぴょんもすごい。
「ドライアイスとは二酸化炭素が凍ったものです。ちょうど皆さんの目の前、アイス冷凍保存用に箱の中に入っていますよ」
僕は皆の前に、箱からドライアイスをピンセットで掴んで出した。
「これがドライアイスかや? 普通の氷と、どう違うのじゃ?」
リーヤがドライアイスに触ろうとする。
「リーヤさん! 触っちゃダメです!」
僕はつい声を荒げてしまう。
「ひぃ!」
リーヤは僕の声に驚き、手を引っ込めた。
「ごめんなさい、リーヤさん。急に声を荒げたりして。このドライアイス、ものすごく冷たくて人間が触ったら凍傷、氷で火傷しちゃうんです」
リーヤは眼をくるくるさせて僕とドライアイスを見ている。
「氷と違うのじゃな」
「ええ、氷は0℃、ドライアイスは-78℃くらいなんです」
リーヤは、びっくりする。
「えーっと確か水は沸騰するのは100℃、凍るのが0℃じゃろ。氷を更に熱湯を氷にするくらい冷やさねばならんのじゃな」
「はい、流石リーヤさん。科学もお勉強なさっているのですね」
地球科学も勉強しているリーヤ、もしかしたら僕の影響なのか。
「だって此方は、もっとタケに褒めて欲しいのじゃからな!」
ドヤ顔のリーヤ。
「はい、リーヤさんはとっても賢いですね」
僕は、リーヤの頭をナデナデする。
「タケや、もっとナデナデするのじゃ!」
すごい勢いでリーヤの翼が羽ばたく。
「あのね、イチャイチャとかノロケとかは後でしてね。タケ、今は説明を」
マムの生暖かい視線と声で、僕は今やらないといけないことに気が付く。
「ご、ごめんなさい。説明を続けますです!」
「まあ、タケっちとリーヤんの掛け合いは見てて楽しいけどな」
「そうでござるな。爽やかさと可愛さしか感じないのも良いでござる」
「リーヤお姉さんとタケお兄さんなら、良いコンビですね」
「そりゃ、ワタクシも応援はしていますが……」
皆、僕達の関係に注目しているらしい。
「こ、此方とタケは決して邪な関係では無いのじゃ。皆の衆、変に勘ぐるでないのじゃぁ!!」
顔を真っ赤にするリーヤ。
その羽と尻尾の動きは、過去最高レベルに激しかった。
◆ ◇ ◆ ◇
「えーっと、すいません。説明しなおしますね。犯人は風系と凍結系の術を使う術師。二酸化炭素の存在をなんらかの形で知り、それを凶器にしています」
なんとかリーヤを落ち着かせた僕は、トリックの答えを言う。
「最初、ヴェイッコさんのご友人を殺した方法は、おそらく風の術でガイシャの口の周りを蔽い、そこに二酸化炭素を充満させます。すると一呼吸で延髄にある呼吸中枢が停止、窒息死亡します。倒れたガイシャの上に棚を落す際に、棚の脚を壊すのにドライアイスの弾丸を使っています。後は勝手にランプの火が棚に引火、炎上したと」
ガイシャの死因、そして棚の脚の破壊痕。
これが全て説明できる。
「第二事件の方法は、先ほどの棚の脚を破壊したのと同じ、ドライアイスの弾丸による狙撃です。この為に傷口だけが凍結したり、弾丸が発見されない、氷なら残るはずの水が無い、銃撃で発生するはずの発射音が無いという状況が説明できます」
術者の特定は難しいだろうけれども、これである程度絞り込めることだろう。
「ワタクシから補足説明いたしますわ。第二事件ガイシャの傷跡ですが一度凍結した跡がありました。また銃撃にしては一過性空隙、つまり弾が高速で体内を通る際に起きる衝撃波の跡が殆ど見られません。なので、弾丸よりも遅く、氷点下以下の弾丸状のものがガイシャへ刺さり、ガイシャは外傷性ショックで死亡しています」
キャロリンからの補足説明も、僕の仮説を立証している。
「ということは、犯人は騎士団に出入りする事が出来、地球科学にも触れたことがある高位な術師という事ね」
「はい、そう僕は推理しました」
マムは、僕の仮説から犯人を割り出した。
「では、タケ。いえモリベ保安官の命令よ。該当する被疑者を調査、証拠を挙げ次第逮捕状を請求、しかるべく逮捕します!」
「マムぅ、ここで僕をダシに使わないで下さいよぉ」
マム、自分が命令するのでは無く、僕からの命令という形にする。
「だって、リーヤと今後もお付き合いするなら御手柄、実績が必要でしょ。今回もタケの知識で捕まえられそうなんだもの。いいじゃないの」
「拙者、タケ殿の指揮でなら安心して戦えるでござるよ」
「タケっちのお手並み拝見だね」
「事件解決したら、また美味しいご飯を宜しくてよ。ワタクシ、最近舌が肥えたのよ」
「タケお兄さん、頑張って!」
皆、僕を期待いっぱいの眼で見てくれる。
「もー、皆ぁ。分かりました、多分犯人は大人しく捕まらないでしょうから対抗策考えておきますね」
「それでこそ、タケじゃ。共に犯人を捕まえようぞ!」
「はい、リーヤさん」
僕の科学知識全開で、卑怯な犯人なんて捕まえてやる!




