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第3話 新米捜査官は、捜査開始する。

「今回の御遺体ですが、体毛には焦げた跡はあるものの、生きていたら発生する2度以下の火傷が全く見られませんでした。また血中一酸化炭素濃度も低く、気道に煤が全く見られていません。よってガイシャは火災前に死亡しています」


 キャロリンから引き続き報告が行われている。


「なら、銀アレルギーでショック死をしたのではないでござるか?」


 同族なだけに銀アレルギー時の苦しさを知るヴェイッコが、キャロリンに聞いた。


「そちらも違いますわね。アレルギー発症時に血中濃度が高くなるヒスタミンが通常濃度なの。またヴェイッコが気が付いた様に蕁麻疹(じんましん)や気道閉鎖はありませんでした」


 ……となると銀の武具に押しつぶされたというのも事故を装う欺瞞(ぎまん)偽装(ぎそう)行為になるよね。


「ですので、火災でも銀でもガイシャは亡くなっていません。それ以前になんらかの方法で亡くなっていますの。今のところ血中の二酸化炭素濃度が異常値を示しているくらい。他の毒物らしい気配も無いですし絞殺された跡も無いから、あるとしたら二酸化炭素の入ったビニール袋を被せたとかかしら?」


 ……その方法なら異世界人では不可能だよね。二酸化炭素だけ扱うのはこちらの科学力では難しいし。


「その一酸化炭素とか二酸化炭素はどういうモノなのじゃ? 此方(こなた)達にはちんぷんかんぷんじゃ!」


 異世界で化学談義は難しいであろう。


「そこから先は化学(ばけがく)の話なので僕が説明しますね。モノが燃えるというのは空気中にある酸素、先日ザハール様の命を救ったガスが燃えるものとくっ付くことで起きます。その際、綺麗に燃えると二酸化炭素というガスが発生します。これは僕達の吐く息にも含まれています。僕達もモノが燃えるのと同じく、酸素を吸って二酸化炭素を吐き出しています」


 僕の説明にリーヤが反応した。


「そうか、タケがお父様に吸わしておったガスが酸素なのじゃな。あの時はタケの機転でお父様が助かったのじゃ。改めて礼を申すのじゃ!!」

「いえいえ、こちらこそ助けられて嬉しかったですから」


 僕もリーヤに礼を返した。

 目の前で助けられる人に死なれるのはイヤだから。


「そしてモノが不完全に、酸素不足で燃えると一酸化炭素というガスを出します。このガスはとても有毒で、これを吸うと先日のシアン同様体内の酸素を運ぶ能力を奪い、酸素欠乏で最悪死んでしまいます。その場合血中の一酸化炭素ガス濃度は高くなりますし、顔色が赤くなります」


「そういえば、お父様の顔色も最初真っ赤だったのじゃが、酸素を吸い出したら治ったのじゃ!」


「ええ、基本救急対応はシアンと一酸化炭素では同じ酸素吸入ですから」


 本格的な治療には、それぞれ別の治療薬になるが体内酸素不足なのは同じ。

 酸素吸入が大事なのだ。


「以上で宜しいですか?」

「判ったのじゃ! 皆も良いな?」


 一同頷いてくれた。


「となると、エサイアスは何らかの方法で二酸化炭素を大量に吸わされて死亡、その後上から銀の武具を落されて焼かれた、ということでござるか?」


「ええ、検死結果から言える答えはそれですわ」


 ヴェイッコは自ら出した答えに怒りを見せる。


 どん!


「なんで、あんな良いヤツが殺されなければならないでござるか! まもなく結婚も控えていたのに!」


 机を大きく叩き、怒号するヴェイッコ。


「ちょっと落ち着いてヴェイッコ。貴方の怒りは理解します。しかし、これは貴方の復讐としてでは無く、殺人事件として捜査室が受け持つ業務。そこのところは理解してちょうだい」

「はい、マム」


 マムに慰められて、少し落ち着くヴェイッコ。


 ……僕も友達殺されたら正気でいられない。ヴェイッコさん、まだ理性的に動いているからスゴイよ。


「拙者も捜査室の一員でござる。巡査長として犯人を捕まえるでござるよ!!」


 さあ、捜査開始だ!


  ◆ ◇ ◆ ◇


「うーん、大分現場が荒らされてますねぇ。証拠探すの大変かも」


 僕、リーヤ、ヴェイッコは遺体発見現場、騎士団控え所の倉庫にいる。


「まだ焦げ臭いのじゃ。こんなところに証拠が残っておるのかや?」


 リーヤが小さな鼻を摘みながら僕に問う。


 ……毎度、その仕草が可愛いんだけど邪な感情は抜きだよ。だってザハール様が怖いもの。


「そうですね。指紋は無理でしょうね。銀の武具にしても『こんがり』だし、どの武具がガイシャの上に落ちていたなんて、もはや判りませんし」


 倉庫内には沢山の棚が並べられており、その一つに銀の武具が置かれていた。

 発見時、ガイシャの上に棚ごと倒れており、その棚にガイシャの所持していたランプの火が引火、火災となったと証言にある。


「うーん、これといっての証拠は無いですね。揮発性の油を巻かれた形跡も無いですし」


 僕はALSランプやPID式VOC(揮発性有機化合物)濃度計で遺体発見現場の周囲を調査した。


「この燃え方ですと火災はおまけ、ただの証拠隠滅ですね」


「タケ殿、その機械で何を見ているのでござるか?」


 ヴェイッコが僕の手元を覗き込んできた。


「これは揮発性の油、自動車を動かすのに使う石油、ガソリンとかを使われていないか調べる機械です。今回の燃え方と分析結果からして石油関連は使用されていません」


 ……ガソリンとか使っていない=地球関係者では無い、とも言えないから、まだ犯人特定は難しいよね。


「後は……、ん! この棚の脚何かで切られていませんか?」


「どれ、ふみゅぅ。確かに脚がのうなって(無くなって)おるのじゃ」


「これは、刃物とかで切られた様な鋭い跡でござるが、切り口が丸くて剣では難しいでござるよ」


 銀製品を置いてあった棚の4本ある脚の一つが綺麗に無くなっている。

 脚が無くなって自重を支えられなくなった棚がガイシャの上に倒れて来た様に見える。


「これ写真を取るだけでなくて、実物を持ち帰らせてもらって調べましょう。棚の脚を切った凶器を持つものが犯人に違いありません。なら、これが犯人を追い詰める証拠になるでしょう」


 そんな感じで僕達が調査していた時に、規制線が張られた倉庫に入ってきた人物がいた。


「すいません、ここはまだ犯罪捜査中で部外者の方立ち入り禁止をしているのですが?」


 僕は、立ち入った人物に話しかけた。


「たかが獣人1人が死んだくらいで何が捜査だ! オマエ達、領主から特別扱いされているんだろうけれども、このポータムを守るのは本来俺達騎士団の仕事だ。変なことに口突っ込むな!」


 えらく失礼な事を言う、ヒト種の壮年騎士。


「たかが獣人だとぉ!」


 ヴェイッコが騎士に飛びかかろうとするのを僕は止める。


「申し訳ありませんが、今回の捜査は領主様の許可を得ています。それと昔ならいざ知らず、今は全人類が全て協力しないといけない時代。時代錯誤な差別は高貴なる騎士様には控えて頂きたいです」


「そうじゃ。先だっての大災害時、ヒト、エルフ、魔族だけではどうにもならないのを救ったのが勇敢なる獣人族の戦士達だったのじゃ。そういう偏見は時代遅れもいいところじゃぞ!」


 僕だけでなくリーヤもヴェイッコを庇う。


「ふ、ふん。まあ、警察ゴッコでもしていればいいさ!」


 貴族たるリーヤにあしらわれて立場を失った騎士は、自分が探していた物を見つけると、逃げるように倉庫から去っていった。


「まったく騎士にあるまじき愚劣なモノよのぉ。ああいうのは役立たずというのじゃ。今度お父様にも人権問題を話しておくのじゃ!」


 種族よりもその人が優秀か、また面白いかで判断するリーヤ。

 実に革新的な思考だ。


「リーヤ(あね)さん、タケ殿。拙者の為に怒っていただき、申し訳ないでござるよ」


「いえいえです。ヴェイッコさんには、いつも助けてもらっていますし。第一僕はここのヒトじゃないですから、人種身分制度の中にいないですもの」


「ヴェイッコよ。其方(そなた)は優秀じゃし、此方の良き遊び・仕事仲間じゃ。あのような愚か者の言い分なぞ一切気にせぬで良いのじゃ! 此方の事が気になるなら、今度スイーツでもおごってくれたらいいのじゃ!!」


 ヴェイッコの謝罪に、気にするなという僕とリーヤ。


 ……リーヤさんのスイーツアピールは半分マジだよね。


「ということで、試料を回収したら捜査室へ帰りましょう!」

「おー!」

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