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第2話 狼警官は、疑問を持つ。

「ヴェイッコ、よく来てくれました」


 拙者の友人、エサイアス。

 彼は拙者と同族の狼系獣人、年齢も拙者の2つ上で名誉ある帝国騎士団に加入していた。

 ポータム分団に所属し、先だっても一緒に呑みに行ったものだ。

 それが……。


「お父様、お母様。この度は誠にご愁傷様です。先日も一緒にエサイアスとは遊んでいたのですが、急にこんな事になってしまうなんて……」


「ええ、まさか銀の剣に押しつぶされて、その上に焼け死んでしまうなんて……」


 灰色の毛並みのお母様はお父様にしがみ付き、ヨヨと泣く。


「え、それは一体どうした事でしょうか? 拙者達獣人族は銀アレルギーで触れるのも禁忌。それが銀の剣に押しつぶされて焼け死ぬとは?」


「ああ、それが私にも解せない。確かに騎士団では対妖物用に銀の武具や魔剣を多数保有しているが、そんな危ないところにアイツが自分から行くとも思えない」


 老齢の為に白狼になりつつあるお父様は、憔悴しきっている。

 拙者も用心深いエサイアスがそんなミスをするとは思えない。


「エサイアスの顔を見せて頂けませんか?」

「ええ、最後に見てやってください」


 拙者は、棺が安置されている奥の部屋に向かった。


「ヴェイッコ、わたし、わたし……」


 そこにはエサイアスのフィアンセ(婚約者)、猫系獣人のサイヤが佇んでいた。


「サイヤ、拙者は……」


 拙者は、小さく見える程やつれたサイヤにどう声をかけたら分からない。


「う、うわ――」


 サイヤは拙者に飛びつき、胸の中で泣いた。

 拙者の姿と婚約者(エサイアス)の姿が重なったのだろう。

 拙者は、しばらくサイヤに胸を貸した。


「……ごめんね、ヴェイッコ。わたし……」

「いいでござるよ。泣ける時に泣くのがエサイアスも喜ぶでござる」


 拙者はサイヤの小さな頭をひと撫でして、エサイアスの棺に向かった。


「エサイアス……」


 そこには毛皮が少し焦げ、煤に汚れた狼男が永眠(ねむ)っていた。


「熱かったろうに……」


 拙者は、エサイアスの荒れた毛並みを優しく撫でた。


 ……あれ? 銀アレルギーが発病したら、蕁麻疹(じんましん)が出るのでは無いでござるか? エサイアスの毛並みは綺麗なままでござるぞ?


「失礼」


 拙者は、エサイアスの口を開いた。


「あ、これは!」


 エサイアスの口内には、一切煤は無い。

 またアレルギーで腫れ上がった形跡すら無い。


「まさか?」


 拙者は、エサイアスの眼を見た。


「点状出血は無いでござる。では、どうやって死んだのでござるよ?」


「何をなさっているのですか、ヴェイッコ?」


「皆様、すまぬがエサイアスの埋葬は待ってもらえないでござるか? もしかしたら、これは事故では無いかもしれないでござるよ!」


  ◆ ◇ ◆ ◇


「……という事でござる」


 ヴェイッコからの報告を僕達捜査室全員が聞いている。


「そうね。その状況が本当なら、ヴェイッコの友人は火災前に銀アレルギー以外で死んでいることになるわね」


 キャロリンがヴェイッコがスマホで撮影した写真を見ながら話す。


「僕も同意見ですね。目に点状出血が見られないということは絞殺でも無いですし、大きな傷が見られないのなら刺殺でも無い。なら毒殺等が考えられますが、これは御遺体を確認しないと判断出来ませんね」


 僕も知識から他殺と判断する。


「マム、エサイアスの事件を捜査室で扱って欲しいでござる。拙者はエサイアスの無念を晴らしたいでござる!」


 ヴェイッコはマムに頭を下げる。


「そうねぇ、遺体発見現場がポータム内の騎士団詰め所ならウチの捜査範囲。判ったわ、やってみましょう! 坊やお嬢ちゃん方、お仕事よ!」

「アイ、マム!」


 ……ヴェイッコさんにはいつもお世話になっているから、今度は僕が助けなきゃ!


  ◆ ◇ ◆ ◇


「検死・解剖した結果ですが、個人名エサイアス・タルヴォ・ピエティカイネンの死因は窒息死。ただ、火災発生以前に死亡しています」


 キャロリンから司法解剖及びバイオ系分析結果が報告される。


「質問じゃ。何故、火災発見前に死亡しておると判ったのじゃ? そういえばヴェイッコもそれで気が付いたといっておったのじゃ」


 リーヤが手を上げてキャロリンに質問をした。


「そうですね。これを説明しておくと、今後火災現場で事故死か他殺か判断がし易くなりますわね。マム、解説宜しいかしら?」

「ええ、わたくしも教えて欲しいですわ」


 マムに許可を得たキャロリンが説明を始めた。


「火災で死ぬのは身体表面の火傷だけではありません。大抵は火災時に発生した有毒ガスで窒息するか、気管や肺を火傷して死にますの」


「ふむふむじゃ。そういえば此方(こなた)が『火炎球(ファイヤーボール)』で敵を焼いた時も、直撃せぬでも炎を吸い込んで死んでおったな」


 ……リーヤさん、結構エグイ倒し方やっているんだね。でも敵に容赦をしている余裕なんて普通無いから、それが当たり前。僕が甘すぎなだけだ。


「という事で、火災に巻き込まれた時、死ぬまでに必ず息をします。そこで炎を吸い込む、有毒ガスを吸い込む、そのどちらかが発生します。そうなると口や鼻、気道はどうなるでしょうか? では、ギーゼラさん。お答え下さいな」


「え、アタイ!? えーっと、……。そうか、口や鼻に焼けた跡や煤が付くんだ!」

「はい、せいかーい! ギーちゃんすっごい!」


 キャロリンは、ギーゼラを抱いて褒める。


「あ、アタイ子供じゃないもん!」


 恥ずかしそうだけど、褒められて嬉しいギーゼラ。


「アタイの実家は鍛治屋だから、いっぱい炎を扱うんだ。だから燃えたらどうなるのかは、いつもよく見てたんだよ。ちゃんと空気入れないと悪い空気吸って死んじゃう事故もあるし」


「そうなのよ、ギーちゃん。火災の場合はちゃんと燃える、完全燃焼をする訳ではないから不完全燃焼をして悪い空気、有毒ガスを出しますのよ。それを吸えば死にますが、先に死んでいたら有毒ガスや煤は吸い込みません。息をしていないのですからね」


 ギーゼラはふむふむ、横のリーヤもふむという顔だ。


「しかしヴェイッコは良く知っていましたね。お見事です」


「それは、以前火事の後片付けの手伝いに行った時に御遺体見て口の中真っ黒で、なんか妙な形に固まっていたのを覚えていたのでござるよ」


「ソレは筋肉が焼けて縮む際にボクサー様姿勢というのに各関節が固まってしまうの。今回はそこまで焼けてはいないのだけれども、ヴェイッコが気が付かなければ、そのまま埋葬されて事件は闇の中だったわ」


 キャロリンはヴェイッコの観察眼に驚く。


「多分、エサイアスが拙者に言いたかったのでござるよ。自分は誰かに殺されたのだと……」


「そうね、そういう御遺体の声なき声を聞くのが監察医の役目なの。でも、ありがとうね。ワタクシの言いたい事を言ってくれて」


 ヴェイッコに感謝をするキャロリンであった。


「こちらこそ、でござるよ」


 ヴェイッコもキャロリンに頭を下げた。

 次の更新から、いつもの毎日12時頃更新に変わります。

 今後とも宜しくお願い致します。

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