第1話 新米捜査員は、新たな事件に挑む。
作品題名を変更して開始されます、第三章
ここからは、犬のお巡りさんヴェイッコ君のお話です。
シリアス風味が増えますが、リーヤちゃんとのイチャイチャも増えますので、乞うご期待を。
「のう、タケや。何か面ろい話とか無いのかや」
暇を持て余しているリーヤ。
タブレットで動画を覗き込みながらも、退屈そうにしている。
「そうですねぇ、『直接注入による農薬成分のLC/MS・MS』とかは?」
「なんじゃ、そりゃ?」
リーヤは頭を傾げる。
「いえ、今読んでいる論文なんですよ。濃縮作業ナシに分析が出来るので仕事の効率化が出来るかなって。でも生体サンプル相手だとマトリックスが多すぎて難しいっぽいので」
僕は、暇つぶしにネット経由で分析関係の学術論文を読んでいる。
こうやっていつも新しい事を勉強しておかないと、何かあった時に知らないではすまされない。
この間のザハール毒殺未遂事件の時もシアン中毒の対処法をどこかで見ていたので対応早かったから。
……ホント、あの時は危機一髪だったよ。
「そんな訳の分からん事は、此方には関係ないのじゃぁ! もっと血肉わき踊るような話は無いのかぁ!」
「リーヤさん、少々騒がしいですよ。この捜査室が暇という事はポータムが平和という事。だから、暇ならフォルちゃんの事務仕事を手伝ってくれないかしら?」
リーヤはマムに叱られる。
……僕もリーヤさんのお相手してあげたいけど、マムの視線が何か怖いんだもん。
「それにタケ、いえモリベ保安官の手を煩わせてはなりませんよ、リリーヤ副保安官殿」
「マムぅ。また僕で遊ぶのやめてくれませんかぁ! 確かに臨時保安官の職はまだ保有していますけれど、それはザハール様の顔を立てる意味もありますから」
……ザハール様やレディの顔を潰す事なんて僕、恐ろしくて出来るはずないよぉ。
「そうじゃ、此方もタケと一緒に遊ばれては適わぬのじゃ。ポータムに居る限り、此方はマムの部下じゃ。そこは、はっきりとして欲しいのじゃ」
「そうですよ、マム。僕もここでは、ただの巡査。ペーペーなんですから」
リーヤがマムに苦情を言うのにあわせて、僕も苦情を言う。
「あら、わたくし遊んでいるのでは無いですよ。だって、ザハール様だけでなく、この地の辺境伯様も同意なさっているんですもの。ならここでもタケは保安官ですよ」
……そういえば、連名で両伯爵名が記載されていたっけ? あれ? 辺境伯のところ、確か代理って書いてあった覚えが。
「それは理解しましたが、ポータムにいる間はマムの部下。そういうことで御願いします。これは臨時保安官命令です!」
「もータケのいけずぅ。そんなところも可愛いんだからぁ」
マム、僕のところまで歩み寄り、席に座っている僕の頭をその豊かな胸に抱いた。
「ちょ、ちょっとマムぅぅ! 何やっているのですかぁ?」
「そうじゃ。マム。タケは此方のモノじゃぁ」
焼餅を焼いたのか、リーヤも反対側から僕の頭を抱いた。
……これ両方から良い匂いと柔らかい感触がぁ。マムの豊満さとリーヤの青い果実。どちらも甲乙付けがたし……? いかん! 僕は何を考えているんだぁ!!!
「2人とも僕で遊ぶのはやめてくださーい!!」
「もう怒りんぼさんのタケちゃんたら」
「此方は遊んでおらんぞ。タケは此方の所有物とマーキングしておるのじゃぁ!」
僕は、息を切らして2人をやっと遠ざけた。
「真面目な話、辺境伯とは何方なのですか? こんな役職を頂いてしまった以上、一度は僕が直接ご挨拶にお伺いしたいと思うのですが。任命書には代理の方の署名しかなかったのですけれど」
僕はその辺りに詳しそうな2人に聞いた。
なお、フォルは真面目に文書整理中、キャロリンは解剖室とかの消毒作業、ギーゼラはその手伝いだ。
で、ヴェイッコは友人の葬儀に出向いていると聞く。
「そういえば此方も知らぬのじゃ。マムは室長任命式の時にあっておらぬのか?」
「ええ、わたくしも直接はお会いした事はありませんわ。なんでも他所からぽっと来て、9年前の次元融合大災害で皇帝陛下と一緒に敵の首魁を打ち倒したと聞いていますの。その武勲から辺境伯を授かったけれども、実務はめんどくさいとか言われて逃げていると、わたくしは聞いていますのよ」
……なんか偉くフリーダムな英雄さんなんだね。でも敵の首魁ってどんなヤツだったんだろうか?
「ですから、タケの保安官辞任は当分キャンセルね。辺境伯とは、わたくしもゆっくりとお話したいから、今度機会があれば皆で会いに行きましょうね」
「はい、マム」
そう冗談話で盛り上がっていたところに、浮かない顔をしたヴェイッコが帰ってきた。
「ヴェイッコ、お疲れ様です。ご友人の事ご愁傷様ですわ。」
しかし、ヴェイッコから帰ってきた言葉は、マムの労いに対する感謝では無かった。
「マム、タケ殿。良かったら調べて欲しい事があるのでござる。友の、エサイアスの死について調査して欲しいでござるよ!」
ヴェイッコの真剣な顔に全員の表情が引き締まる。
「まず、お話を聞きましょうか、ヴェイッコ」
マムの凛とした声で、捜査室から平穏が終わったことが感じられた。




