第4話 新人捜査官は、一安心する。
「ナ、なんだオマエ達は!」
「言われて名乗るのもおこがましいが、耳の穴かっぽじって聞けや! 拙者こそは、ポータムの守護者たる侍、ヴェイッコ・スシ・カルヒでござる!」
ヴェイッコ、ジャパニーズ・ヤクザに日本語で言われたから喜々として日本語で名乗り上げをする。
……あれ、絶対やりたかったんだよなぁ。時代劇マニアのヴェイッコさん、目じりに涙見えるのは感動しているからに違いない。
「じゃー、アタイも名乗らせてもらおーか! 結構毛だらけ、猫灰だらけ。世に珍しきドワーフにして精霊使い、鉄娘のギーゼラ・マルレーネ・ギンスターったあ、アタイの事さね!」
……こちらの寅さんマニアのギーゼラさん、ウキウキと名乗り上げしているよ。
その口上にあっけに取られるジャパニーズ・ヤクザ。
まさかシベリアンハスキー風狼男や、べらんめい調の褐色ドワーフ娘に日本語で啖呵切られるとは思うまいて。
「おい、オマエら何言ってんだよ!」
……あ、マフィアさんには日本語が通じていないや。
「部下が少々乱暴で申し訳ない。マナレーゼ一家の諸君、わたくしは捜査室長のエレンウェ・ルーシエンである。貴方達を銃刀法違反、公務執行妨害、その他もろもろで現行犯逮捕する!」
マム、エレンウェ・ルーシエンが現場に出るのを、僕は初めてみた。
マムは純粋種のエルフ、外見はいかにも「お固い」タイプの金髪碧眼の美人お姉様。
神官の家系にあって、元神聖騎士団所属。
上からの命令で出向させられているらしいというのは、リーヤから聞いた話だ。
「て、てめえら。こいつらやってしまえ!」
親分のマナレーゼが叫んだ瞬間、部下の方々が吹っ飛んだ。
「喰らえ、『球電』じゃぁ! トランプル付きで痛いのじゃ」
……えーっと貫通ってナニ?
「ふぅぅ。今までの鬱憤全部ぶっこんだのじゃぁ!」
リーヤは、球電をヤクザ共に叩きこんだらしい。
組やらマフィアの構成員の方々は、ビリビリとしながら焦げている。
「ペトロフスカヤ警部補、もう少し慎重な行動は出来ませんか? 今のは過剰攻撃ですよ。先にわたくしが全員倒しておきましたのに」
マムは、いつのまにか抜いていた細身の剣を一閃した。
……全然見えなかったんだけど、僕。
「あぁ! ギーゼラ殿、それ実弾でござる。撃っちまった相手、死んじまうでござるぞ」
ヴェイッコが、ギーゼラに文句を言う。
ギーゼラが使う散弾銃、二個のマガジンを持っていて撃つ弾を一発ずつ変える事が出来る変り種だ。
今回はドアの蝶番を破壊するスラッグ弾と対人用ゴム弾を装備しているらしい。
因みにヴェイッコは、擲弾銃で硬質ゴム散弾を撃っていた。
「あ、だーじょぶさね、ヴェイっち。アタイが撃ったのは頑丈なトロールの、これまた硬い頭蓋骨のオデコさね。ほれ、死んでねーだろ」
確かに撃たれたはずのトロールさん、頭を揺すりながら起きだして来た。
……熊をも倒す12ゲージのスラッグ弾すら弾くのかよ、トロールの頭蓋骨って!
「とにかく、皆さんお疲れ様です。ペトロフスカヤ警部補、カルヒ巡査長、ギンスター巡査は、所轄警察や兵士の方々と協力して組織構成員各員の確保をしてください。モリベ巡査は、自分の仕事をお願いします」
「イェス、マム!」
警察やら帝国軍兵士やら救急の人達が、ぞろぞろと屋敷に入ってくる。
僕は現場が荒らされる前に、2つの犯罪組織が取引をしてたブツを回収した。
「この白い粉が、マヤクとかいうものかや?」
リーヤが、僕の手元を覗き込みに来る。
「たぶんそうだと思います。あ、間違いないですね」
僕は、少し取り出した粉を精製水に溶かし、簡易検査キットに注ぐ。
するとキットの指示窓に赤い線が見えてくる。
「おそらくですが、覚せい剤。アンフェタミン系だとは思います。詳しい事は、持ち帰って検査ですね」
これが僕本来の仕事、科学捜査員ってヤツだ。
正確には法科学というけど、科学捜査という呼び名の方がドラマとかで有名になっている。
「この量だと約20kg、日本円換算だと末端価格12億円以上というところですね」
「えーっと、確か日本円でぎゅーどんという美味しいものが500円とかじゃろ。なれば、これだけあれば……、何個じゃ?」
妙に庶民的なフードで換算する、お貴族様の娘。
……前に日本食を食べさせるんじゃなかったよ。
「そうですね、計算すると……、大体24万食分。毎日3食食べても、219年は食べられますね」
「其方! コレを此方にくれぬか。これで此方は日本に行って、たらふくぎゅーどん食べるのじゃ!」
急に顔を僕に近づけて、興奮気味に叫ぶリーヤ。
あまりの興奮に背中の小さな羽が高速でパタパタする。
「これ! ナニ馬鹿な事を言っているんですか? 周囲に日本語が分かる人が居たら大変ですよ。冗談にしても警察官がそんな事を言わないでください。リーヤ、貴方ご実家で十分美味しいもの食べているでしょ?」
マムは、こそっとリーヤの後に回りこんで彼女の頭にゲンコツを落した。
警察官が押収した薬物を売り払って牛丼を食べるなんて事は、あってはならない事案だ。
「じょ、冗談にきまっておるわい。此方とて話して良い事と悪い事くらい分かるのじゃ! 数字に一瞬眼が眩んだだけなのじゃ!」
ゲンコツを喰らった頭をさすり、涙目で文句を言うリーヤ。
……眩んでいたのなら、冗談じゃないじゃん。
幸い、ヤクザの方々は全員逮捕済みなので、周囲に日本語が分かるのは僕達だけ。
「と、とりあえず詳しい事はラボに持ち帰って検査します。サー・コンスタンティヌスの死に関係するブツかどうか、混合物から確認しますので」
さあ、これから帰って分析業務。
大半は日本の科捜研に送るけど、一部は僕が検査だ。
「タケや。また美味しいご飯食べさせてくれぬか。此方は日本食をもっと食べたいのじゃ!」
そういうリーヤの話を聞いたヴェイッコ、ギーゼラが僕達のところへ飛んできた。
「拙者も」「アタイも」・「日本食食べたいよぉ!」
……こいつら欠食児童かよ。
「あのぉ、モリベ巡査、いやタケ。良かったらワタクシにも……」
恥かしそうに僕に頼み込むマム。
どうやら、僕はソフト面でもハード面でも食事でも、異世界人を掴んでしまったらしい。
「はいはい、検査の前処理終わって分析機械にかけたら、ご馳走しますね。その代わり食材購入費は出してよ、皆」
「うわーい!」
そんなこんなで僕の仕事は続くのだ。
続きは夕方になります。
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(追記)
では、今回は散弾銃について解説を致します。
作中では元気いっぱい褐色ドワーフ娘、ギーゼラちゃんが主に散弾銃を使っていますが、実際の警察でもアメリカでは良くショットガンが使用されています。
散弾(小さな弾が散らばる)を使用するために、とっさの時に照準がいい加減でも犯人に当てやすいのと、装弾時のポンプアクション音が犯人側からすると恐怖に思えるのだとか。
また軍や警察特殊部隊でも、突入時にドアのヒンジや鍵を破壊して侵入するために使われ、「マスターキー」とも呼ばれています。
銃身には、俗にいうライフル銃と違い、ライフリング(螺旋状の刻み)が入っていません。
因みにゲームとかでは射程が拳銃よりも短く描写されていますが、実際には拳銃(いいところ6、7m)よりも圧倒的に遠くまで(数十メートル)狙えます。
散弾の散らばせ方は、銃口の絞り具合によって変わり、一番搾り切った時には40m先で直径約1m、逆に全く絞らなければ20m先で直径1m程くらいに広がります。
# と言っても、某大門軍団みたいに散弾銃にスコープ付けての狙撃は無茶。ライフルドスラッグ弾でも難しいし、第一スラッグ弾を当てたら犯人に大穴空いて確実に死んじゃいます。
散弾銃の口径ですが、口径は番号が少なくなるほど大きくなります。
実用最大口径は10番口径(19.6mm)、トド・熊討ち用等に使用されます。
対人や鹿撃ち用は12番口径(18.4mm)、クレー射撃も通常この口径です。
これ以下は、主に鳥撃ち用になりますね。
弾の種類ですが、
〇鳥撃ち用のバードショット(数十から数百発、6mm以下の小さい弾が飛ぶ。人に当たると悲惨な上に弾丸摘出が困難)
〇中型獣用のバックショット(6~9発の弾が飛ぶ。対人用は00Bが多い)
〇大型獣用のスラッグショット(一発の大きな弾。突入時のドアヒンジ破壊等にも使用)
などがあります。
他にも低致死弾としてゴム弾や岩塩弾、そしてエゲつない威力のフレシェット(小さな鉄の矢を沢山打ち出す)弾、煙幕用の白リン弾などがあります。
なお、前述のライフルドスラッグは、ライフリングを弾に刻むことで、弾道の直線性を上げています。
弾としては、古来より加工のしやすさと威力から鉛が使われていましたが、最近は環境汚染を考えて鉄製の弾が植えているんだとか。
以上、散弾銃についての解説でした。