第20話 新米保安官は、暗君と対決する!
「玄関ホール、クリア!」
僕達捜査室と護衛の騎士2人が屋敷に突入した。
玄関が開放されていたので、奇襲を警戒せずに突入できたのは助かった。
「では、居室に向かいますか。『元』側仕えの証言ですと、二階にいるようですが……! 皆さん、戦闘準備!」
僕は声を上げた。
それは目の前にアイアンゴーレムが2体現れたからだ。
「この間戦ったのと同型ですね。これで確定しましたか。イワン若しくはユーリがマナレーゼ一家にゴーレムを横流ししたんですね」
「タケ、今は分析よりも戦闘よ! 騎士殿達、コイツは固くて剣では切れないから私達は前衛で『盾』役に徹します。その間に、ウチの子達が倒します。いくわよ!」
「アイ、マム!」
僕は2脚を展開し、柱の影に陣取って射撃の準備をする。
「此方は客引きするのじゃ! 『激光』じゃぁ!!」
リーヤも別の柱に身を半分隠しつつ、差し出した右手からレーザーをゴーレムに叩き付けた。
じゅ!
レーザーを受けたゴーレム、少し表面が熔けたものの、何もなかったかのようにリーヤに向かってくる。
「ゴーレム、こっちだ!!」
僕は強装徹甲弾を首元の急所めがけて打ち込む。
ガキン!
しかし、まだ狙いが甘かったのか、今度はこちらにゴーレムが向かってくる。
「こっちに来ないでよぉ」
僕は銃を連続して撃つ。
その弾はゴーレムの装甲に弾かれて効果は薄い。
「タケ殿、囮役ありがとうでござる!」
「ヴェイッコさん、やっちゃえー!」
ずどん!
重低音が響く。
ヴェイッコが肩に担ぐ大砲から打ち出された砲弾は、狙い違わずゴーレムに着弾する。
ぐわぁぁぁん!!
対戦車榴弾を喰らったゴーレムは、一撃で四散した。
……部屋も一緒に随分と破壊されたけど、しょうがないよね。
「これが科学の力でござるよ!」
ヴェイッコは肩の無反動砲を叩く。
この無反動砲、一時期はRPG系ロケットランチャーに簡便さ、そして戦車の重装甲に負け、採用が削減方向であった。
しかし、多種多様な弾の使用及び複数回の射撃が可能な点、そして標準のダットサイト等各種データリンクのスマート化、軽量化により再び脚光を浴びてきている。
「なんだ、あの大砲は!」
おどろく騎士団員。
「地球の兵器ですわ。さあ、あと一体も倒しますわよ」
マムは騎士を鼓舞する。
「ギーゼラ殿、2発目、おなじく対戦車榴弾で御願いでござる」
「あいよ!」
ヴェイッコが砲の後方ノズルを開放し、そこにギーゼラが装弾をしている。
「リーヤさん、こっちもゴーレムを引きつけるよ!」
「ほいな、なのじゃ!」
僕とリーヤは散発的に攻撃を行い、ゴーレムの気を散らす。
「第二射準備完了でござる。後方確認!」
「後方、よーそろー!」
ギーゼラの後方確認宣言を聞いてヴェイッコはターゲットをゴーレムに合わせる。
「ここだ!」
僕は徹甲弾を脚部膝関節に当てた!
がきぎ!
ゴーレムは膝が上手く曲がらなくなり、そこで膝を付く。
「ナイスフォローでござるよ! 発射!」
どずん!
どかーん!!
ゴーレムは避ける事も出来ず、対戦車榴弾により爆散した。
「やったーでござるぅ!」
ヴェイッコは嬉しそうに笑う。
魔法を使えない彼が「魔法じみた威力の大砲」でアイアンゴーレムを倒す。
実に嬉しいに違いない。
◆ ◇ ◆ ◇
どーん
「なんだ、さっきの音は? アイツら、何やっているんだよ。屋敷内で爆発呪文使っているんじゃないか? 火事になったらどうするんだよ。ボクがここにいる事分かっているのか! それとも攻めてきたヤツラか? なら焼き討ちされるのはイヤだ。ゴーレム、ボクを抱えて逃げるぞ」
イワンは何回も響く爆音に怯え、ゴーレムに自分を抱かせた。
「さあ、ボクの予言ではボクに負けは無いぞ。さあ、一路帝都へ行くのだ!」
自分が危機になったので逃げるはずが、イワンの中では自分の勝利しか見えていない。
その論理的破綻すら気が付かないイワンであった。
「では、ドアを開けるのだ!」
ゴーレムにドアを開けさせる命令を出すのと同時にドア横の壁が爆風で吹き飛ばされた。
「なにぃぃ!」
◆ ◇ ◆ ◇
「この向こう側にイワンは居ます。どうやら後一体ゴーレムがいる様ですし、待ち伏せされてもイヤですから横から攻めますね」
「ふむふむじゃ!」
僕は背中のバックから軟質成形爆破線を取り出した。
そしてドア横のしっくい壁に人が1人通れるくらい、ざっとドアと同じ大きさの四角をFLSCで作った。
「これはなんなのじゃ?」
「爆薬を鉛などのやわらかいもので包んだものです。これで囲った部分だけ爆発して吹っ飛ぶ仕掛けですね」
僕はリーヤに説明しながら、爆破線に電気雷管を差込み、そこから線を延ばした。
「では、皆さん爆破します!」
十分爆発する場所から遠ざかった僕ら、安全を確認して起爆スイッチを入れた。
どーん!!!
爆発音とともに、しっくい壁にヒビが入る。
そして壁が室内に倒れ込む。
「皆さん、突撃!」
「アイ、サー!」
◆ ◇ ◆ ◇
「なにぃぃ!」
マムを先頭にして室内へ突撃した僕ら、そこにはゴーレムに抱きかかえられ困惑しているイワンが居た。
「イワン・ニコラエヴィチ・ヴェリーキー、神妙にお縄に付きなさい。今なら命の保障を致します!」
マムは凛としてイワンに通告をする。
「い、イヤだぁ。ボクは皇帝になるはずなんだ。こんなところで捕まるなんてボクの予言には無いんだぁ!」
イワンはそう叫び、ゴーレムから飛び降り、ゴーレムの後に隠れる。
「イワン、それでも其方は誇り高き魔族かや? それではユーリが浮かばれぬのじゃ!」
「リリーヤ、オマエなんでユーリと一緒じゃないんだ? ユーリはオマエを連れてくると言って出て行ったぞ。ボクの予言でもそうなっていたのにぃ」
リーヤは、イワンを半分侮蔑して見る。
しかし、イワンにはそれは通じず、まだ自分の妄想を語る。
「イワン、それは予言でもなんでもない。其方の妄想、願望じゃ。今までそれが実現してきたのは、裏でユーリが暗躍していたからなのじゃ。しかし、今後は決して叶う事の無い妄想なのじゃ!」
「な、なんでオマエらはボクの予言どおりにならないんだぁ。ユーリ、ユーリは何処にいるんだぁぁ!」
イワンに事実を告げるリーヤ。
しかし、今だ妄想から覚めず、ユーリを探すイワン。
「イワンや、其方は哀れよのぉ。まだ気が付かぬか。ユーリはもうおらん。今朝方に息を引き取ったのじゃ。其方の事を最後まで案じていたのじゃ」
「え、ユーリが……。ウソだ、ウソだぁぁ! 無敵のユーリがオマエ達に負けるはずなんて無い。ボクの予言にもそんな事は無いんだぁ。行け、ゴーレム。リリーヤ以外を倒せぇ!」
ユーリの死を信じられないイワン。
ゴーレムに僕らへの攻撃命令を出した。
「ふぅ……。こんのぉ、バカものがぁ!!」
リーヤが吼え、彼女の周囲に大量のマナが満ち、多重な魔法円が展開される。
「目前の敵を駆逐せよ、大気の龍。うなれ、『暴風』!」
リーヤの前方に竜巻が突然発生し、それはゴーレムとイワンを巻き込む。
びゅぅぅ!
屋敷の天井を吹き飛ばす竜巻。
そして空中に巻き上げられるゴーレムとイワン。
「ひ、ひゃあー!」
そしてイワンは数回竜巻で回された後、部屋の壁に叩きつけられる。
「ぐぅ」
「ふっとべー!」
リーヤが叫ぶとゴーレムは上空高くまで巻き上げられた。
ひゅー
そして竜巻が終わった後、上空からゴーレムが落ちてくる。
どすーん!
そしてゴーレムは屋敷の天井、床をぶち抜き、そのまま地下深くまでうずもれた。
「あー、気持ちよかったのじゃぁ!!」
リーヤは汗をかいた赤い顔で振り返り、にっこりと僕達に笑いかけた。
「タケや、これでいいのじゃろ? イワンは誰も直接殺しておらんし、もう抵抗も出来ぬ。このまま逮捕で一件落着じゃあ!」
僕は、リーヤの呪文のあまりにもの威力に言葉が出ない。
「どうしたのじゃ、皆の衆? 此方の顔に何かついておるのかや?」
「……リーヤさん。確かに事件解決ですが、この惨劇はどうするのですか? この屋敷はイワンの持ち家じゃないですよね。貸した貴族の方泣きますよ。完全に廃屋ですもの」
「え、あ、ははは。ん? タケ達も大砲を室内で撃ったりしたのじゃ。もうこの屋敷は、最初から壊れておったのじゃ。そういう事にするのじゃ、全部イワンが悪いのじゃ。じゃから、此方の責任だけでは無いのじゃぁぁ!」
僕は屋敷を見回す。
天井、屋根、全損。
室内、家具、ボロボロ。
一階玄関ロビー、ズタボロ。
構造体、各所破断。
建物内の各所から軋む音がする。
「ふぅぅ。しょうがないので、イワンだけ捕まえて、ここから逃げましょう。多分、もうすぐ建物が崩壊しますから」
「それは一大事でござる」
「うん、リーヤっち逃げるぞ!」
「あら、まあ。困ったわね。保安官殿ぉ」
「だから、皆早く逃げるんだよぉ!!」
僕らが緊急避難をした数分後、屋敷は自重で崩壊した。
「なんで、こーなるのじゃぁぁ!」
……それは僕が言いたい台詞だよぉぉ!




