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僕は異世界で美幼女姫様と刑事をする。〜異世界における科学捜査の手法について〜  作者: GOM
第2章 捜査その2:領主暗殺未遂並びに美幼女誘拐事件
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第19話 新米保安官は、暗君を逮捕に行く!

「イワン・ニコラエヴィチ・ヴェリーキー、貴君には様々な事件に関する嫌疑が掛かっております。皇帝陛下より貴君への逮捕状が出ております。抵抗することなく速やかに出てきてください」


 マムの逮捕勧告の声が大きく響く。

 今、僕達はイワンが立て篭もる屋敷の前、多くの帝国騎士、兵士、領内警察官と共に包囲をしている。


「まあ、簡単に出てくる訳はなかろうな。イワンのバカの事じゃ。『なんでボクの思うようにならないんだー』とか申して暴れるに違いないのじゃ」


「僕もそう思いますが、一応勧告をしたという形にしないといけませんからね」


 本来なら保安官の僕が勧告をすべきなのだろうけれども、様々な体面もありマムに保安官命令で御願いしている。


 こっそり逮捕して、大きな話にならなようにしたかったのだけれども、イワンが暴れるし、逮捕に行った騎士の方に狼藉をしてしまえば、もうお終い。

 せっかくユーリの遺言を受けて穏便にすませたかったのに、全部台無しになってしまった。


 ……ユーリ、すいませんが貴方の希望通りにはならない様です。


 僕達はリーヤからユーリの最後の言葉を聞いた。

 領主夫妻もユーリが悪さをこれ以上しなければ領内的にも問題は無いし、要らぬ恨みをイワンの父親から受ける必要も無い。

 なので、穏便に逮捕する方向で中央と相談をしていたのだが、イワンが全て台無しにしてしまった。


「検査結果からなんとなくは想像していましたが、イワンがアイアンゴーレムの出所だったんですね」


「確かヴェリーキー家は武勲も有名ですが、高度魔法にも通じていたと聞いていますの。なので、不自然でもないですわ。多分、息子の護衛だとか言って、ゴーレムを大量配置したんでしょうね」


 勧告に反応が無い為、仕方なく僕達の元へ帰ってきたマム、困り顔で僕達に愚痴る。


 イワンに対して出てくるよう話した帝国騎士、いきなり現れたゴーレムと戦闘になり、負傷して屋敷から避難してきた。

 全身が重装甲のアイアンゴーレム、倒すためには高度魔法や圧倒的な物理攻撃が必要。

 それがいきなり2体現れたのでは、いかな高位な騎士でもどうにもならない。


「一応ゴーレム対策準備しておいて良かったですね」


「それもこれもタケ殿のおかげでござるよ。タケ殿、武具を選ぶセンスが良いのでござる」


 ヴェイッコは背中に背負った「大砲」を指差しして僕に笑いかける。


「いやー僕の場合、趣味と実益を兼ねたものですから」


 僕の趣味は色々とあるが、その一つが武器マニア。

 幼い頃から、刃物の美しさ、銃器の無骨さ、そして力強さに憧れていた。

 後に、それが人を傷つけるものだと実感し、その恐ろしさも理解した。

 そして今、僕はその武器を身に付けている。

 腕の中のHK-(マークスマン)M110A1(ライフル)がずっしりと重い。


「じゃあ、そろそろ行きますか。では、マム指揮を御願いします」


「えー、またわたくしなのですか? 一回くらいタケの指揮下で戦いたかったのにぃ」


 シリアスからギャグモードへ即切り替えるマム。


「マム、イイ加減僕で遊ぶのやめてもらえませんか? せっかくマジモードで行きたいのに気が抜けますよぉ」


「だってぇ、タケはウチの子と重なって見えちゃうから、構いたくなるんですもの。と、冗談はこのくらいにして」


 いきなりキリっと表情を変えるマム


「変に思い込みすぎると、動きが硬くなりますの、油断しない程度に笑うのは戦場(いくさば)では必要ですよ。ね、タケちゃん」


 すぐにお母さんモードになるマム。


 ……結局、僕で遊びたいだけなのに、大義名分を付けているんですね、マム。


「……はー。では、遊ぶのもこのくらいにして行きますよ! 前衛はマム、ギーゼラさんにヴェイッコさん、後方にリーヤさんと僕。この布陣で行きます。途中に出てくる邪魔者は各個撃破、殺害も許可します」


 まだ屋敷内にユーリの手勢が残っている可能性はある。

 暗殺者相手に手加減は出来ない。


「罠を仕掛けている可能性も否定できませんので注意してください。ゴーレムが出たのなら、ヴェイッコさんとギーゼラさんでソレ撃ってください。発射時に後方確認だけよろしく。バックファイヤーで焼かれるのは勘弁ですからね」


 僕の冗談に皆微笑む。


「周囲の兵士の方々には屋敷の包囲を継続、絶対にここからイワンを逃がさない布陣で。騎士の方も数名、こっちの後方護衛に来て下さると助かりますね。以上、僕からの指示です。マム、こんな感じで良いですか?」


「そうねぇ、及第点かしら? もう少し自信満々でやってたら満点よ。作戦自体には問題は無いわね。では、異界技術捜査室、行くわよ!」

「アイ、マム!」


  ◆ ◇ ◆ ◇


「なんでボクが捕まらなきゃならないんだぁ。ボクの予言では、そんなこと起きないのにぃ。ユーリ、ユーリはどこなんだぁ!」

「申し訳ありません、一昨日からユーリ様はお帰りになられておりません」


 イワンはその巨体をジタバタさせて床の上で暴れている。

 その様子は、商店の中で好きな物を買ってもらえない幼児が暴れるのと同じ。

 壮年後半の大人がする様を周囲の側仕えは冷めた目で見ている。


「捕まるのなんてイヤだぁ。そうだぁ。ゴーレムを使って回りのヤツら倒しちゃえば良いんだぁ! ボクのジャマをするものは全部いなくなるんだ。それがボクの予言なんだぁ!!」


 眼に狂気を宿し、口元から涎を垂らしながら叫ぶイワン。


「おい、オマエ達もここに押し入るヤツらをジャマするんだぁ。敵を1人倒すたびに金貨一枚やるぞぉ。ボクの予言だと、オマエら皆大金持ちになるぞー!」


 イワンの側仕え達、主人の狂気に顔を歪ませる。

 誰もが思ったであろう、こんな主人と運命を共にはしたくないと。


「はい、では皆応戦に向かいます。イワン様におかれましては、ご健勝にあられますように」


 そう言った筆頭側仕えは、周囲の使用人達を纏めてイワンの居室から出て行った。


「さあ、世界はボクの思うがままになるんだ。予言では、ボクが次期皇帝なんだぁ!」


 イワンの叫びが無人の部屋の中に響く。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「あれ、一体何が起こったのですか?」


 僕は屋敷の玄関が大きく開け放たれて、飛び出してくる人達を見て困惑する。


「お、お助けぇ。私達はイワンとは全く関係ございません。なにとぞ、私達を保護御願い致します!」


 年嵩の男が大きく叫ぶ。


「ほう、アレはイワンの『元』側仕え共じゃな。主君に愛想つかして逃げてきたのじゃ。バカ殿に付き合って共に死んでくれるような忠義モノは、ユーリくらいのものじゃったか」


 リーナは、幼くも美しい顔を曇らせる。


「そういう意味でもユーリは凄かったんですね。その忠義を主君を全うに育てる事に使えたら誰も不幸にならなかったですのにね」


「ユーリも血なまぐさい手法しか知らぬ、戦争と騒乱の犠牲者じゃ。実に哀れな連鎖じゃのぉ」


 リーヤの眼は、後方で暴れていたのを押さえ込まれているイワンの父親、ニコライ・イヴァノビッチ・ヴェリーキー子爵を見ている。


 老齢で顔に幾筋のも刀傷がある、いかにもツワモノといった風貌のニコライ。

 しかし、その表情はバカな息子を心配する犯罪者の親だ。

 世間に済まないというのと、少しでも息子の罪が軽くなる事を望んでいるのが、いり交じり合った表情だ。


「ニコライ卿も大変ですね。確かイワンには歳が離れた弟君がいて、その子は優秀だとか。(イワン)から、正確にはユーリからの暗殺を恐れて、遠い秘境で育てられているそうですね」


「本当なら親子一緒に暮らすべきなのじゃが、イワンと同じく自分の手元で育てられないのじゃ。実にこれも哀れな連鎖よのぉ」


 僕もニコライの顔を見て悲しく思った。


「是非とも息子の命、命だけは助けてくださいませ。アヤツ、愚かでバカでどうにもならないものですが、私にとっては大事な息子なのです」


「なら、どうして幼少期にちゃんと教育しなかったのですか、ニコライ殿」


「ザハール様。あの子は幼少期から育てにくい子で絶えずダダを捏ねては痙攣(ひきつけ)を起こす様な子でした。なので、好きな事をさせていましたら……」


「それは病気のひとつですぞ、ニコライ殿。早いうちに心や脳の病に詳しい医者に見せるべきでした」

「え、そうだったのですか?」


 ザハールはニコライを問い詰めている。

 イワンの幼少期の様子を聞くに、おそらく発達障害及び脳の器質異常が考えられる。


「イワンも地球で今生まれていたら、障害を発見出来て、ちゃんとした教育と治療を受けられたでしょうに」

「イワンは病気なのかや?」


 リーヤは小首をかしげ、僕に尋ねる。


「専門家じゃないから絶対とは言わないですけれども、イワンは生まれつきの障害があって、ああなってしまったのだと思います」


「そうか、アヤツも可哀想なのじゃな」


 ……かわいそうなヤツさ、イワンも。これは病気を理由に罪一等を減じて蟄居処分にしてあげた方が良いね。


「そろそろ玄関口が落ち着きましたね。じゃあ、皆さんよろしく!」

「らじゃー!」


 さあ、突撃だ!

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