第18話 新米保安官は、幼女を救出する!
どかーん!
危険防止の為にドアを蝶番から吹き飛ばして、僕は部屋にPDWを構えて突入した。
そして薄暗い部屋をヘッドライトとPDWに付けたフラッシュライトで照らす。
「右、クリアー! 左、あ!!」
左を向いた僕の目の前、僕は希望の「光」、愛する姫君を見つけた。
「リーヤさん、助けに来たよぉ!!」
「タケぇぇぇぇ!」
リーヤさんも僕の叫びに応じ、叫んでくれた。
……ああ、リーヤさん。ホントに無事だったんだぁ!!
しかし、僕の眼には、もう1人の姿が見えた。
「ユーリ!!」
僕は急いでダッシュし、リーヤを背にしてユーリからリーヤを庇った。
そしてPDWの銃口をユーリに向ける。
「タケや、もう大丈夫じゃ。ユーリは先程こと切れたのじゃ」
リーヤの声に、僕はもう一度ユーリの姿を確認した。
ユーリの眼は、半分見開いたまま虚ろで何も見ていない。
またユーリが座り込んでいる床は血の海、そしてユーリの胸部腹部は赤黒く染まっていた。
「確認しますね」
僕はゆっくりとユーリに近付き、その首、頚動脈付近を指で触る。
「鼓動を確認できません。息は?」
手をユーリの顔の前に持っていき、鼻と口を覆う。
「呼吸確認できず。瞳孔は?」
眼を銃に装備したフラッシュライトで照らすも、瞳孔に変化なし。
「はい、ユーリの心肺停止を確認しました。あ、ヴェイッコさん、ギーゼラさん、オールクリア! もう大丈夫ですよ!」
「タケ殿、大声を出した後静かになったので心配になったでござるよ」
「タケっち、心配させるんじゃねーよ」
2人がぶつぶつ文句を言いながら、地下室に入った。
「わんこ! ぎー! うわぁぁーん!」
リーヤが2人の姿を見て泣き出した。
多分、安心して緊張の糸が切れたのだろう。
「おー、よしよし。リーヤっち、よく頑張ったなぁ」
ギーゼラがリーヤを抱きしめて慰めている。
「これはタケ殿が仕留めたでござるか?」
ヴェイッコはユーリの遺体を確認している。
「全部僕が撃った銃傷だから、多分そうだと思います。本来なら即死してもおかしくない負傷だったのですが、ついさっきまで生きていたそうですよ」
ヴェイッコはユーリの眼を閉じさせている。
……多分、僕が真面目に戦ったら100%死んでいたのは僕の方だ。僕が殺した始めての相手。彼の行った犯罪は憎むべきであろうが、戦士として、諜略家としての素晴らしさは認めざるを得ない。
僕はユーリの前に立ち、両手を合わせた。
「タケ殿、悪党にも礼儀を示すのでござるか?」
「ええ、日本ではどんな悪人でも死ねば仏様。皆、一緒。自分が討った相手の成仏・冥福を願うのは当たり前ですよ」
僕はユーリに思う。
……ユーリ、貴方のイワンへの思い・忠義は完全には理解できないよ。でもね、僕もリーヤさんの為なら命を掛けられる気がするんだ。だから、貴方を一概に攻める気にはなれないよ。強き戦士よ、今は安らかにお眠り下さい。
「そうでござったな。拙者も黙祷をするのでござる。好敵手ではあったものでござるからな」
「アタイも! まさかあの手傷で逃げられるとは思わなかったもん。その手際は見事だったぜ、オヤジ」
2人も自分なりにユーリの冥福を祈っていた。
「すまぬ。此方も祈らせてはもらえぬか?」
リーヤが立ち上がってこちらに来る。
その両手には手錠らしいものが嵌められている。
「その魂が、天におわします武神の元へ届きますように」
リーヤは眼をつむり、ユーリを弔った。
「さて、じゃあ撤退しますか? 後は、ここの場所を警備隊に知らせて色々回収してもらいましょう」
「賛成でござる!」
「アタイも意義なーし」
「此方もさんせいじゃー!!」
僕達は一路、領主の館へ帰った。
◆ ◇ ◆ ◇
「おかーさま! おとーさまー!!」
リーヤは貴族令嬢の体面も御淑やかさも考えず、全速力で両親へダイブした。
「リーヤ!!」
領主夫妻は、飛び込んできた娘を全力で受け止めた。
「こわかったのじゃぁー! 此方が悪かったのじゃー! 今度から皆の言う事をちゃんときくのじゃー!」
大声で叫ぶリーヤ。
そしてうわーんと泣き始めた。
「リーヤさん、良かったですわね」
マムの目じりには涙が浮かぶ。
そして僕達全員もそうだ。
皆、うれし涙が止まらない。
「タケ殿、また捜査室の方々、本当にありがとう。感謝しても感謝しきれない。父として、領主として皆に賛辞を送らせて欲しい」
「ええ、皆様。我がバカ娘をお守りお救い頂き、ありがとう存じました。このご恩、一生忘れません」
領主夫妻は僕達に深く礼をする。
「いえいえ、僕に、いや僕達にとってリーヤさんは大事な仲間ですから。仲間を救うのはチームとして当たり前です」
僕は照れ隠し半分に堅苦しく答えた。
「タケ、皆の衆ありがとうなのじゃ。改めて此方から礼を言うのじゃ。で、お母様、此方の事をバカ娘呼ばわりするのは、どー言う事なのじゃ!?」
「だってぇ、静止を聞かずに勝手に突撃して捕まるんですもの。これがバカでなくて何がバカなのかしら?」
「う、た、確かにそのとーりじゃ。考え無しの此方は、何も言い返せないのじゃ」
エカテリーナの指摘に言い返せずに、ぐぬぬとなるリーヤ。
「おほほ。これは先日言い負かされた分のお返しよ。慌てなくてもいいから淑女としての心構えは覚えてね、リーヤ」
「分かったのじゃ、お母様」
以前とは逆にドヤ顔のエカテリーナ。
母と娘のじゃれあい。
言い合いも以前はトゲトゲしいものだったが、今はお互いに思いあってのもの。
聞いていて周囲が笑える微笑ましい光景だ。
「あ、リーヤさん。その手錠外さないと!」
「そうじゃな。コレがあると魔法が使えぬので困るのじゃ」
僕は手錠を凝視する。
「これは、ここに刻まれた魔法円が装着者の魔力を散らしているんですか?」
「そうなのじゃ。タケや、よー勉強しておるのじゃ」
僕は、弾の強化に魔法円を使っているし、興味があったので魔法円については色々勉強している。
「では私が解除しようか?」
「お父様は力技で壊しかねないのじゃ。もっと繊細に魔法を扱えるものがいると助かるのじゃが……」
マムは神聖魔法系、ギーゼラは精霊魔法。
ヴェイッコは言うまでも無く、細かい魔族系の魔法を使える人が周囲には居ない。
「なら、僕が試して良いですか? ダメだったらザハール様にお願いします」
「うむ、タケに任せてみるのじゃ! 何かアイデアがあるのかや?」
「ええ、多分」
僕は自室に帰って、あるものを探した。
「みっけ! 酸素はあんまり無いけど、多分だいじょーぶだよね」
◆ ◇ ◆ ◇
「魔法円は詳細な記載が能力を示していて、この場合は手錠に刻み込んだ図案が効果を示しています、ですよね」
「うむ、そのとーりじゃ!」
僕は机の上にリーヤの腕を出してもらい、手錠を眺めた。
「ここにある図案が装着者の魔力を吸い取って集めるところ、そしてこの図案が魔力を散らしてしまうところ。で、良いんですよね。リリーヤ先生?」
「そのとーりじゃ、タケ生徒よ」
もう敵に教われる心配もほぼ無いので、いつものおふざけボケモードで会話する僕達だ。
「では、この散らす図案に傷が付いたらどうなりますか、先生?」
「そうじゃな、溜まる魔力が放出できずに溜まる一方じゃ」
……よし、読みどおりだ。
「では、その状態でリリーヤ先生が全力魔力展開したらどうなりますか?」
「そんなの簡単じゃ、負荷に耐え切れず魔封じの腕輪は吹っ飛ぶのじゃ! あ! そういう事なのじゃな」
……賢いリーヤさん、お見事。
「はいです。ではその方針で構いませんか、ザハール様、レディ?」
僕は領主夫妻にも聞いてみる。
「そうだな。私が外す場合もカギが無い以上力技だから、タケ殿の案で問題ないと思うぞ」
「ええ、わたくしも同意見ですわ。タケ様、今回もよろしくお願い致します」
「はい、お任せを」
僕は小型のアセチレンバーナーを取り出す。
「では、リーヤさん。行きますね。熱くないようにしますから」
「熱いとは何じゃ!」
僕は暴れそうなリーヤをギーゼラに押さえ込んでもらい、手錠にアセチレンバーナーからの炎を当てた。
「熱……くないのじゃ?」
「そのくらい注意しますって」
僕は手錠の魔法円、魔力を拡散する部分の図案をバーナーで一部切った。
「これで、手錠の機能は一部壊しました。では、リーヤさん、どうぞ」
「おうなのじゃ。溜まり込んだ鬱憤晴らすのじゃあ!」
その後、すさまじい爆音と衝撃波が屋敷内を荒れ狂い、屋敷のガラス窓全損、軽症ながら怪我人続出したんだとさ、どっとはらい。
「けふん。此方、ちょっちやり過ぎたのじゃ!」
無事、リーヤちゃんを奪還。
まあ、後のドタバタは、いつもどーりです。




