第17話 新米保安官は、幼女を探す!
「では、その主従契約のパスを使ってリーヤを探すのですか、保安官殿?」
「ですから、マム。僕をもて遊ぶのは、そのくらいにしてくださいよぉ。僕にそんな高度魔法使えるわけないじゃないですか! いいところ、近くになったら分かる位ですって」
「あら、残念」
決して残念そうに見えない顔をするマム。
どうやらリーヤが無事なのを確認出来たので、僕を遊ぶ余裕が出てきた様だ。
「なので、今回は科学的方法を使いますね。ギーゼラさん、ユーリは大量出血をしていたんですよね」
「うん、あの手傷でどーやって動いているのか分からねーくらいだったね。途中で身隠しのマント使われちまったから、完全に見失っちまったよ」
光学迷彩を行う「身隠しのマント」。
しかし、電磁波全域をカバーは出来ないし、音は消せないから対人レーダーやエコーでは見える。
「じゃあ、ユーリは出血跡を残していっていたのですよね?」
「そうだね。最後に見失ったところまでは、はっきりと」
……よし、ならそこから先だ。
「なら、そこまで僕を連れて行ってくれませんか? 出来たらヴェイッコさんも一緒に。マム、良いですか?」
「あら、保安官はタケよ。わたくしに命令権や決定権は無いのだけれども」
「マムぅぅ! ここで拗ねたりふざけないで下さいよぉ」
「えー、だってぇ」
まだまだ僕を遊ぶマム。
その様子を見て笑っている領主夫婦。
……あれ? もしかして領主夫婦を和ます為にワザとやっているのかな? なら最後までお付き合いしますか。
「はい、じゃあ分かりました。エレンウェ・ルーシエン異界技術捜査室長に命じます。貴方の部下をお貸し願えませんか? そして貴方には領主夫妻の護衛を命じます」
「了解よ。そう最初から言って下さい、タケ。だって、ここじゃあ貴方の方が立場上ですもの。じゃあ、タケにプレゼント。怪我をしたところ、見せて」
「はい、マム」
「じゃあ、痛いの痛いの、飛んでけー」
マムが僕の傷口に触ると、優しい光が傷跡の上を覆う。
「はい、もう治ったわよ」
「え? あ、痛くないです。マム、ありがとうございます!」
僕は怪我をした側の足を踏みしめたが、全く痛くないし違和感も無い。
……これがマムの力なんだ。確か寺院でもごく一部の超高位治療術師らしいけど。
「いえいえ、保安官殿には活躍してもらわないといけないですからね」
……この期に及んで、まだボクを弄るマム。しかし、なんで治療魔法の呪文が「痛いの飛んでけ」なのぉ?
「はいはい。という訳だから、お願いします皆さん。キャロリンさんは看護兼緊急時の運転手で。フォルちゃんは引き続きC3システムのオペレートを」
「らじゃー!!」
さあ、追跡だ。
待っててよ、リーヤさん。
◆ ◇ ◆ ◇
「ここだよ、アタイがユーリを見失ったのは」
そこはスラム街への入り口付近、周囲には多くのゴミが溢れ、饐え臭い匂いで充満している。
「拙者の鼻では、ここの匂いで追えないでござるよ」
「多分、獣人族の鼻も警戒して匂いが酷いところを通ったんだと思います。では、ここを紫外線で見てみましょうか」
悪臭で顔を歪ませるヴェイッコを横目に、僕はALSランプを取り出してユーリを見失った辺りの地面を照射した。
オレンジ色に変色させたイルミネーターのグラス越しに照射した地面を見ると、立ち止まったであろう箇所に大きな、また動き出した方向にぽつぽつと落ちた血痕がはっきりと見える。
「あ、これすげーなぁ。見えなかった血痕がはっきりと見えるじゃねーか」
「そうでござる。拙者では分からないでござるよ」
「これはね、ALSといってある決まった『色』の光をあててモノを浮かび上がらせるものなんです。今回は波長385nm、紫外線の光ですね」
紫外線を受けて血痕内のタンパク質が励起して光る。
それをオレンジ色のフィルターを通してみたら、血痕は淡く光って見えるのだ。
「じゃあ、このまま血痕を追いかけますね。多分、この血痕の間隔だとそう遠くはないですね」
僕達は見えない血痕を見えるようにして、リーヤさんが隠されている場所を探した。
◆ ◇ ◆ ◇
「この建物ですね。血痕は一度玄関のところで大きくなって、そこで消えていますから」
僕達はイルミネーターのグラスを透明に戻し、戦闘の準備をした。
「じゃあ、アタイが見失った汚名をここで挽回、もとい返上するね。先に中入って調べるから、ちょっち待ってて」
そう言ってギーゼラは影に潜り込み、そのまま建物の中に進入した。
「うん、リーヤさんの魔力を感じるよ。間違いない、ここだ!」
「良かったでござるよ。では、拙者が先に突入するでござる」
ヴェイッコは、僕を庇って先に突入したいらしい。
「いや、ここは僕にやらせてくれないですか? どうしてもアイツと決着付けたいんです!」
「ほう、タケ殿も男であられたか。では、拙者、最大限のフォローをするでござるよ!」
ヴェイッコは、サムアップしつつニヤリと凄みのある笑みで僕に答えてくれた。
……リーヤさんを奪ったアイツだけは許せない。刺し違えても倒す! でも、刺し違えちゃったらリーヤさん、悲しむよな。ヨシ、作戦変更! 死ななない程度頑張って倒す!!
「ありがとう、ヴェイッコさん!」
僕もサムアップで答えた。
◆ ◇ ◆ ◇
「左部屋、クリアーでござる」
「右部屋、クリアーっちゃ」
「正面、クリアー」
僕達はユーリの隠れ家に突入した。
そこは廃屋、いつ崩れても可笑しくないくらい破損が進んでいる。
「もう探せるところ全部見たでござるよ」
「アタイも影の中から探したけど見えないぞ」
2人は一生懸命探してはくれたけど、今だリーヤは見つからない。
……でも、リーヤさんの魔力は、僕には「はっきり」と分かるんだ。絶対、この中だ!
「どこかに隠し部屋があるんです。血痕からしてこの部屋の何処かだと思うのですが?」
2人は途方にくれた、しかし諦めていない顔をする
「拙者はタケ殿の感覚を信じるし、リーヤ姉さんの香りを少し感じるでござる。確かに、この中でござるよ!」
「アタイ、絶対リーヤっちを探すんだ。もうミスは絶対しないぞ!」
カタン!
その時、玄関が開く音がした。
「これは……?」
「……でござるよ」
「じゃあ、跡を付けてで……」
◆ ◇ ◆ ◇
「全くこんなあばら家に姫様を隠す必要もあるまいに」
「すいやせん。ユーリ様が酷い怪我なさっていて、どうにもならねーで逃げてきたんでさ」
みすぼらしい格好の男、そして貴族の側仕えらしいきちんとした男の2人が大きな袋を抱えて部屋の中を進む。
「こちらでごぜいやす」
みすぼらしい男は、そう言って壁にある蝋燭立てを握り下に動かした。
ギギギィ!
大きく軋む音を立てて、壁が動く。
そして地下へと続く階段が現れた。
「では、旦那行きましょ……!?」
みすぼらしい男が振り返ったところ、側仕えらしき男は床に倒れていた。
「う!」
そして次の瞬間、みすぼらしい男の意識も消えた。
◆ ◇ ◆ ◇
僕達の前に隠し階段が見える。
そして床には2人の男達が転がる。
「では、こやつらを縛っておいて突入でござるよ」
「うん、あ、ここ勝手に締まらないように家具をつっかい棒にしましょう」
「それは良いアイデアだね、さすがタケっち!」
僕達は万全の準備をして地下へ進んだ。




