グランドフィナーレ2:タケとリーヤ、それから!
春から夏に変わろうとしている季節、その明るい太陽の下。
地球人とはどこか少し違う美少女が、公園で幼子と戯れている。
「あーちゃん、あまり遠くに行くでないのじゃ!」
「ままぁ。わかったのぉ」
背中に小さな蝙蝠の翼、長い黒髪を三つ編みにし、小さな巻き角がアクセサリーの様に見える。
耳は少しとんがり、背中から小さな羽、お尻から小さな尻尾を出し、その瞳は金色縦割れの竜眼に桜色の唇。
幼さが抜けつつある美貌は、まるでギリシャ彫刻作品の様。
春らしい白いワンピースにピンクのカーディガンを羽織っている美少女。
「まったく、あーちゃんは誰に似たのじゃ。此方は、ああまで活発だったとは父上や母上には聞いていないのじゃ」
一見、高校生くらいに見える美少女、リーヤは大きな帽子を被り公園のシートに座って、遊具で遊ぶ4歳くらいの幼子を見る。
「タケは本好きでインドア派だったと聞いておったのじゃがなぁ。あーちゃん、杏里紗! もう、危ないのじゃ!」
「はーい。ままぁ」
アリサは、ジャングルジムの一番上で母に似た金色の瞳を向けて笑う。
「結局、瞳と魔力量以外は地球人と大きく変わらぬようじゃし、来年からの学校が楽しみなのじゃ!」
リーヤは、温かい瞳で我が子を見る。
「お主と此方の娘は、ここまで大きくなったのじゃ! タケやぁ……」
そしてリーヤは、この場に居ない夫の事を思う。
「タケぇ……」
リーヤは、夫を思い涙ぐむ。
「ままぁ、どうしたのぉ? いたいのぉ?」
「あ、ごめんなのじゃ。あーちゃんのぱぱの事を思っておったのじゃ」
アリサは、背伸びをして母の頭をなでる。
「ぱぱ、だいじょーぶだよぉ。あ、かえってきたぁ!」
「リーヤさん、遅くなってごめんねぇ! あーちゃん、賢く待っていたかい?」
「タケぇ。帰ってくるのが襲いのじゃぁ! 此方、未来の事心配して泣いてしもうたのじゃぁ!」
「ごめんごめん!!」
◆ ◇ ◆ ◇
「あーちゃん、パパのお膝の上に座ろうね」
「うん!」
僕は、公園のベンチ、リーヤの横に座り、愛娘アリサを膝に乗せる。
「ぱぱ、だーいすき!」
アリサ、日本名は守部 杏里紗、そして異世界貴族としての名前が、アリーサ・タケシェヴナ・モリベ・ペトロフスカヤ。
僕が29歳の時に出来たリーヤとの間の長女。
今は6歳になったが、成長具合は4歳児くらい。
どうやら成長速度が地球人の7割弱くらいで、来年小学校へ入学するが、多分一番小さい子だろう。
外見は幼いが、中身は十分歳以上には育っているらしく、お転婆だけど、昆虫の図鑑とかも読んでいる我が子ながら賢い娘だと思っている。
「もう、タケがあんまりに遅いから心配になったのじゃ!」
「ごめんねぇ。さすが人気のお店だったから、大変だったよ」
僕は、2人に頼まれて公園の売店にソフトクリームを買いに行き、帰りが遅くなっていた。
僕の膝の上では、手をベタベタにしながらチョコ味のソフトにかぶりつくアリサが居る。
……あ、ズボンがべっちょり汚れちゃうよぉ。
既にズボンがシミになっているので、僕は苦笑した。
「此方、最近心配になる事が多いのじゃ! あまりに幸せすぎて、今が夢じゃないかとも思うのじゃ!」
僕と腕を組み、膨れっ面でチョコミント味のソフトに口をつける美少女。
「それなら、僕の方こそ夢かもと思っちゃいますよ」
◆ ◇ ◆ ◇
異世界機動隊設立から1年後、僕が27歳になった年、身長が更に伸びたリーヤに、月のモノが訪れた。
そしてキャロリンの検診により、リーヤの成長が本来の魔族年齢相応に追いついた事が報告された。
「タケや! 此方、タケのお嫁さんになる資格が出来たのじゃ! タケの子を成すことが出来るのじゃぁ! 早く、結婚するのじゃぁあぁ!」
嬉しそうに「お赤飯」案件を僕に報告するリーヤに、僕は赤面したものだ。
その後、僕はアンティオキーア領主館に向かい、ザハールらに正式にリーヤとの結婚を申し出た。
「タケ殿、よくヒト族の身で今まで待っていてくれた。ふつつかな娘であるが、宜しく頼む」
「タケ様。バカな娘ですが、これでもわたくし達には大事な娘です。慣れない地球での暮しで大変な事も多いでしょうが、くれぐれも娘を、リーヤを御願い致します」
涙を流して僕に頭を下げてくれたザハール達に、僕も頭を下げた。
「ヒトの短い人生ではありますが、僕はリーヤさんを一生守ります!」
その後、母や妹にも報告に行き、涙ながらに祝福してくれた。
「ああ、ヒロシさん。タケシは、こんな立派なお嫁さんと一緒になれたのよ!」
「おにーちゃん! 絶対にリーヤおねーちゃんを大事にしてあげてね!」
そして僕が28歳になる直前、僕とリーヤは結婚した。
日本とアンティオキーア、そして少年皇帝の強権にて帝都で僕達の結婚式は3回も行われ、異世界貴族と地球人との初の結婚事例としてマスコミにも随分と追いかけられた。
◆ ◇ ◆ ◇
「タケ? 何ぼーっとしておるのじゃ? ソフトクリームが溶けるのじゃ!」
僕はリーヤの声で我に戻り、溶けかけのバニラソフトクリームを口に入れる。
「あ! ありがとうございます。いえ、昔の事を少し思い出していたんですよ。リーヤさんじゃないですが、まるで夢みたいでしたから」
「え! まさか、本当に夢なのかや!」
リーヤは驚きの顔をする。
「いえいえ、僕の大事なお姫様達。これは現実ですよ!」
僕は、大事な2人の女の子を撫でる。
腕に伝わる温かさ、膝にかかる重さ、この全てが僕の宝だ。
「なら良いのじゃ! 此方も、そろそろ職場復帰しようと思うのじゃ!」
今、リーヤは異世界機動隊から離れ、異世界帝国の外交官、駐在大使として日本に居る。
僕は機動隊に席を置きつつ、リーヤの警護官として働いている。
これは大使たるリーヤ直々の指名であったが、少年皇帝はリーヤの願いをフンと一言言った後、「タケは、また僕と一緒に遊べないんだねぇ」と苦情を言ったそうな。
……僕も、そろそろアラフォーだから陛下と一緒に「遊ぶ」のはシンドイんだけどねぇ。
異世界機動隊もマユコの娘、アンズが大卒後に正式加入してパワーアップしている。
仲間達では、ヴェイッコはナント、フォルと結婚した。
機動隊発足後、色々な事があってお付き合いをしたらしいが、詳細は本人たちも教えてくれないし、コトミもヒミツって言って教えてくれなかった。
ギーゼラは、誰かイイヒトいないかと、若い子を鍛えては逃げられているそうだ。
キャロも若い男の子と既成事実を作って、さっさと結婚し、高齢出産になる前に出産していた。
マムは子育てがひと段落して、機動隊の異世界側隊長として、今日も活躍中。
そろそろ再婚はどうかという声から逃げていると聞く。
「皆、どうしておるのかや?」
「元気にしていると思いますよ。この間、辺境伯から下の子が幼稚園に入るって聞きましたし」
「皆、子供を生み育てておるのじゃな!」
「それは僕達もです。未来は明るいですね」
僕達は寄り添い、明日を、未来を夢見る。
「タケぇ。もし良かったら、今晩は……」
「ままぁ。今晩って?」
真っ赤な顔で僕を見る美少女。
「あーちゃん、今晩ぱはが作る夕ご飯の話なのじゃ!」
リーヤは、娘に更に赤い顔で誤魔化す。
身長が高くなった彼女は、高いヒールなら僕ともう背丈も変わらない。
「今晩の夕食もパパ担当ですね。さて、ママ。えーっとぉ、嬉しいお誘いですが……」
「恥ずかしい事言わせるで無いのじゃ! 恥ずかしい事を言うのは、この口かや!」
僕の両手がアリサとソフトクリームで埋まっているのをイイ事に僕の唇に、桜色の唇を重ねる美少女。
「ままぁ、ぱぱとなかよし!」
可愛い小さな手で目隠しをしながらも、しっかりと両親のキスシーンを見ているアリサ。
「もー、リーヤさんたらぁ!」
ミント味のキス。
幸せに笑いあう僕達だった。
「うむむ、物語が終ったような、終わらぬような?」
すいません、後一話分、ネタが残っちゃいました。
「しょうがないのじゃ! しかし、タケ殿とリーヤ殿は遺伝子相性が良かったのじゃな。直ぐにアリサ殿が生まれたのじゃ!」
そのようですね。
タケシ君自身、魔力持ちですし成長が遅めの子たっだので、形質相性が良かったのかもです。
「なれば、アリサ殿も魔族種の特徴を遺伝しておるし、寿命の心配はいらぬかものぉ。最悪、ワシがなんとかするのじゃ! リーヤ殿が娘を先に亡くす姿は見とうも無いのじゃ!」
その辺り、心配する事は無いと思いますが、ずっと見てくれるチエちゃんには宜しく御願い致します。
「了解したのじゃ!」
では、ホントの最終回を次回どうぞ!




