第57話 エピローグ2:タケとデビット
今は、少年皇帝主催の祝勝会中。
「デビットさん、少しお話いいですか?」
僕はリーヤと共に、所在なさそうにしていたデビットの元へ向かい、話しかけた。
「はい、何でしょうか。タケシ殿」
「あれから、ゆっくりお話しする機会が無かったので……。今は、どうなされていますか?」
「そうですねぇ。少々不便ではありますが命の心配が無い分、熟睡は出来ていますね。『あ、ご無理して英語でお話なさらなくてもいいですよ』」
苦笑しながら、途中から会話を日本語に変えてくれたデビット。
「あ、ありがとうございます。僕、英語は少し苦手で。異世界共通語は、なんとか普通にする分は話せる様にはなったのですが……」
「此方。英語は、よー分からんから、日本語で話してくれた方が楽なのじゃ!」
なぜかドヤ顔のリーヤ。
僕に腕を絡ませて、彼女アピールをする。
……普通、こういう場合相手の言語で話すのって、ナイショ話しても無駄だよって意味が多いけど、今回は善意からの様な気がするね。
デビットは、いつもの能面のような微笑では無く、苦笑をかみ殺すような自然な笑顔をしている。
すっかり、今までの「仮面」を外して素に戻ったのではないか?
「リリーヤ姫、そうおっしゃりますが船内では英語をお話されていたと記憶していますが?」
「郷に入れば郷に従え、なのじゃ!」
ドヤ顔で日本のコトワザを言う異世界魔族美少女というのも珍しい気がする。
ますます、苦笑してしまうデビット。
「ふふふ、なるほどです。で、タケシ殿。何か私に言いたいことがあったのでしょう? でもないと、一時は殺し合いをした相手と話し合いしたいとは思わないかと……」
「そうですか? 僕はレオニードさんとは殺し合いしましたが、その後に話し合って和解しました。辺境伯の仲間も大抵は敵だったと聞いています」
「そうなのじゃ! あのチエ殿も、コウタ殿達の前に敵として現れたと聞いたのじゃ!」
僕達の答えに、ますます苦笑してしまうデビット。
「貴方方は、お人好しと思っていましたが、訂正しますね。貴方方は、底抜けのお人好しなんですね」
「ええ、僕もそうだと思いますね。周囲からは甘すぎって怒られてしまうんですけどね」
「タケ、あまりにお人好しじゃから、此方心配なのじゃ。じゃから、今回もお目付けで来たのじゃ!」
「なるほどです。デビット様どころか私や女帝様まで助命してくださったのに、やっと納得しました。貴方方には裏表は無いのですか?」
デビットの横に給仕役として立っていたバトラー、僕達を警戒していたのがバカらしくなったのか、破顔して笑う。
「えー! バトラーさん。僕にも『裏』くらいありますよ。今回、皆さんを助けたのだって、僕個人が殺人がイヤだったからですし、助けたら陛下や皆さんの利になるって思ったのもあるんですから」
「タケ、其方にしては、『裏』があるのじゃな。じゃが、それは世間一般の裏にくらべたら十分『表』という気がするのじゃが?」
「そうですね、姫様のおっしゃるとおり。タケシ殿、貴方はそのままお進み下さい。間違っても私のように、間違わないで下さい」
デビットは真面目な顔をして、僕に助言をくれた。
「デビットさん、まだ遅くないです。貴方は生きていらっしゃる。生きていたら、何回でもやり直し出来ます。だからこそ、陛下の提案を受け入れられたのですよね?」
「敗残の将としては負けたら死と思っていましたし、生きていてもアメリカに送られてグアンタナモ送りになるとは思っていました。しかし、陛下は私に自分の下に来いと言って下さいました。あれだけ、帝国に迷惑をおかけしたにも係らずです」
「そんなの、才能がもったいないと思ったからに決まっておる。ただの愚鈍な悪人なら、余も捨て置くのだ! これから帝国も地球も共に歩む。その際に双方を知り、共存共栄を目指せる人材を余は欲しかったのだ。なれば、一時敵対したくらいは何の障害もならぬ。王たるもの、敵将を使いこなせずにどうする!」
僕達の会話に割り込んでくる少年皇帝。
その横には通訳として、アキト君を抱えたナナ、そして警護のアレクが居る。
「陛下、本当に私で良いのですか? アメリカや日本政府は私の身柄を要求しているのですよね?」
「ふん! そんなのは要塞の共同調査でチャラにしてやったぞ。お主が要塞込みで帝国に来たのは、地球風に言えば『カモネギ』だったのだ!」
「と、陛下はおっしゃってますが、陛下もお人好しなんですよ。デビットさんの生い立ちを聞いて泣いちゃったんですから」
少年皇帝の言葉を翻訳しつつ、こそっと日本語で呟くナナ。
彼女の胸元では、ぷくぷくとしたアキトが機嫌良さそうにしている。
「おい! ナナ。何か余の事を今言ったな?」
「え? 何でしょうか? わたくし、変な事はなにも言ってませんが?」
「ナナ。あまり陛下で遊ばないでくれよ。陛下、妻が余計な事を申して申し訳ありません」
辺境伯は、ナナの手から我が子を取って抱きなおす。
「ふん! まあ、良いわ。ということで、今後は罪滅ぼしとして帝国と地球の為に働くのだぞ! ははは!」
豪快に笑いつつ、場を去る少年皇帝とアレク。
ナナとコウタは、僕達にぺこぺこしながら皇帝の後を付いていった。
「まったく陛下には、僕達勝てないですね。デビットさん、僕も貴方と同じく世の中に溢れる戦乱は大嫌いです。でも、それを無くす為に全部同じにするのは間違っています。だって、全部同じなら面白くないですもの。違うから良いんです。僕とリーヤさんなんて、最も違う存在ですもの!」
「そうなのじゃ! 此方とタケでは、性別も年齢も種族も生まれた星も何もかも違うのじゃ! じゃが、それで良いのじゃ! お互いを思いあう心が同じであれば、他はどーでも良いのじゃ!」
リーヤは、ここぞとばかりに僕に飛びつく。
「ちょ、リーヤさん。恥ずかしいです。もう淑女なのですから、おしとやかさは無いんですか?」
「そんなものは、とっくの昔。此方が家出をしてポータムに来た時に自重と一緒に捨ててきたのじゃ!」
「うふふ! なんか、今まで私が苦悩して来た事がバカらしくなりました。こんなにも簡単に、世界は分かり合えるんですね」
夫婦漫才モードの僕達を見て、泣き笑いをするデビット。
「すべては愛なのじゃ!」
「うむ、そうなのじゃ! 愛の魔神将たるワシが宣言するのじゃ! 愛こそが世界を救うのじゃ! じゃから、リーヤ殿はもっとタケ殿といちゃついても良いのじゃ! じゃが、R18展開だけは絶対禁止なのじゃぁ!」
「うむなのじゃ!」
そんな中に飛び込んでくるチエ。
美少女が2人揃って踊っているのが微笑ましい。
「ソフィア君、いや、今はチエ殿かな? キミが私を害しなかったのは、こんな結末になるのが見えていたからなのかい?」
「うむ、大体は見えておったのじゃ、デビット殿。いえ、デビット様」
チエは、美人秘書ソフィアに変身する。
「貴方が心に闇を抱えたまま、光を求めていたのは分かっていました。御両親の事でヒトに絶望しつつも、まだヒトを愛するから暴走なさっていたのは……。バトラー様を失いそうになられた時のデビット様が本当の貴方ですわ」
「確かにあの瞬間、今までのものが全部崩れ去った気がしたよ。バトラーは、ずっと私、いやボクの親代わりだったからね。そして両親の敵討ちにも、そしてその後もずっとボクを助けてくれていたんだ」
「もったいないお言葉でございます。私はデビット様の御爺様に頂いた御恩をお返ししていただけですから」
バトラーはハンカチで涙を拭う。
その右手は、ちゃんと5本の指が揃っている。
「とにかく、今後はデビット殿もワシらの仲間なのじゃ! 何かする時はワシや仲間達に相談するのじゃぞ? 1人で抱え込んでおいても良い事は無いのじゃ! バトラー殿もそうじゃ。過激な方法ばかりでは不幸も増えるのじゃぞ?」
どろんと幼女姿に戻ったチエは、「ばいなら」と言いながら、場を去る。
「という事ですので、今後とも宜しく御願いします、デビットさん」
「はい、タケシ殿」
「此方とも握手するのじゃ!」
向こうのほうでは、魔法からめた宴会芸が行なわれ、爆音も聞こえてくる。
リタ姫がマユコと共に、帝国保守派の方々と何かやっては、誰かが吹っ飛んでいる。
更に呑み比べと、呑んではならぬ酒乱のギーゼラが暴れているのをヴェイッコとブルーノが取り押さえている。
「面白い、ワシも加えるのだ!」
「余も参加するのだ!」
魔神王や少年皇帝も危機として騒乱に参加していく。
それを見て女王、アレク、ヒロ達が頭を抱えている。
……これ、誰が止めるんだろうねぇ。
なおも続く狂気の宴会の中、デビットと僕達は仲間になった事を祝福しあった。
「これで、デビット殿の闇は消えたのじゃ! ワシ、色々と頑張ったのじゃ!」
チエちゃん、お疲れ様でした。
さて、物語はグランドフィナーレを残すだけになりました。
では、明日の更新をお楽しみに!
「まだ、もうちょい続くのじゃ! 終わるからと言ってブックマークは剥がさずに置いておくのじゃ! さすれば、イイ事もあるのじゃ!」
ではでは!




